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6月19日 その㊳

 

「調子に乗りやがって!」

 鈴華は、そう口にしながら拳を振るう。だけど、俺には当たらない。


 見切れる、見切れるのだ。自分でもビックリするほどに、鈴華の拳を見極めて避けることができる。


「クソッ...当たらない!」

 鈴華はそう口にして、若干後方へ移動する。きっと、助走をつけて俺を殴ろうとするのだろう。


 幸い、狙いは俺に集中している。数メートル程先にいる鈴華は、俺のことをまっすぐと捉えていた。


 ───きっと、鈴華が俺を狙うのには何個か理由があるのだろう。


 きっと、起き上がって動けるのが俺だけだというのもあるし、その俺がこうして動けるようになっているのだ。それに、茉裕から俺を一番に狙うように言われている可能性だってある。


「───死ねやッ!」

 そう口にして、鈴華は地面を蹴り、地面を圧倒的な破壊力を持ってして俺の方へ接近してくる。


「───ッ!」

 速い。だが、見切れないほどではない。


 当たれば死は必至の一撃であるが、当たらなければこっちの勝ちの可能性は大きく上がる。


 避けるなら、左───。



 俺は、そう判断して左に避けようと体を動かす。


 ───いや、駄目だ。


 ここまで何度も避けられている鈴華。であれば、俺が避けることすらももう考慮しているのではないか。

 であれば───


「───ッ!」

 鈴華は、左に避けようと動く俺を追尾して殴るつもりだったのだろう。だが、俺は左に飛んでも尚止まること無くそのまま地面を転がって、鈴華から距離を取ることに成功した。


 鈴華は、髪を靡かせながらその首を動かすものの、もう遅い。俺は、鈴華の右斜め後ろに立っている。


 ───そう、右斜め後ろは鈴華の死角。


「クソッ!後ろに入りやがった!」

 そう口にして、グルグルとその場で回って俺を捉えようとする鈴華。だが、俺もそれに従うように後方で回るので鈴華の目に俺の姿は入らない。


 鈴華は、右目に眼帯をしている。

 前に、喧嘩で目を怪我した───などと言っていたので、その眼帯を外しても見えるようなことはないのだろう。

 だからこそ、俺はその死角に入り込んだのだ。ここならば、鈴華の絶対に捉えられない場所となる。


 怪物である鈴華の、弱点なのだ。


 ───が、そこに入ったところで、鈴華に大したダメージを与えられないのもわかっている。


 だから、俺は鈴華に攻撃()()()ために、動く必要があった。


「───ック。いたちごっこか...」

 そう口にして、鈴華はその場で足を止める。いくら追っても無駄であることに気付いたのだろう。


 ───が、ここで鈴華に想定外の行動をされる。


「───ッ!バク転かッ!」

 バク転。別名、後方転回。


 鈴華は、その場でキレイなバク転を披露すると同時に、圧倒的な破壊力で地面を押して、空中で何回転かしながら俺の方へ接近してくる。


 俺の方へ飛び込んでくる鈴華。落下位置を調整されるだろうから、数メートル以上の距離を取ることは難しいだろう。


 ───が、最悪それでも構わない。


 俺の狙いは、鈴華に攻撃させることと、鈴華に急接近すること。キスができてしまいそうな距離まで近付くこと。


 ”ドンッ”


 そんな、大きな音と同時に、地面が凹んでしまうほどの衝撃で着地した鈴華。そして、そのまま俺に向かって拳を振るった。


「───ッ!」

 俺は、その鈴華の拳はギリギリで避けた後に、再度鈴華の後方に回る。だが、今度は距離を取らない。


 そして、そのまま俺は流れるように鈴華の左半身側に移動し───


「残念だな!そこは見えてんだよ!」

 その言葉と同時、体を90度程回して、鈴華は左手で俺の胸ぐらをつかみ目だけでこちらを向いたまま、右手を俺の顔面に向けて放とうとする。


「───栄ッ!」

 智恵の俺を呼ぶ声。大丈夫だ。俺は、こんなところじゃ死なない。


 危険なのは、鈴華の拳にぶつかること。鈴華の手首に触れても圧倒的な破壊力の餌食にならないことを、もう既に愛香が証明してくれた。


 ───だから、俺は自らの左手の手首を鈴華の迫ってくる右手の手首にぶつけて、パンチの場所を鈴華の側へ寄せる。



 ───この接近であるからこそ、できた攻撃。


「───ッ!」

 鈴華の俺を殴るはずだった拳は、その位置がずれて、鈴華の喉にぶつかる。


 そのまま、鈴華の喉はその破壊力を前に吹き飛ばされ───


「───あ...が...」

 鈴華の喉と下顎は、そのままどこかへ吹き飛んでいく。


「あ、ひろ...」

 鈴華は、自らが畏敬の念を示している生徒会メンバーである茉裕の名前を呼ぶ。だが、薄情な───否、非情な茉裕は助けになんかやって来ない。


 茉裕の肉が抉れた口からは、ダラダラと血が流れる。きっと、頸動脈をも先程の拳に巻き込まれたのだろう。


 ───これが、武器を持たぬ俺が見出した、鈴華を討伐する唯一の方法であった。



「───鈴華、これまでありがとう。鈴華のことは忘れないし、忘れられない」

 俺は鈴華にそう伝える。鈴華は、俺の言葉を聴くとニッと笑みを浮かべる。そして、その場にドサリと倒れたのだった。


「───これにて、オニが3体ともいなくなりましたので、第6ゲーム『件の爆弾』はこれにて中断!終了!打ち切り!です!」


 マスコット大先生の言葉が響くと同時。俺達は、学校生活を送っている『3-Α』の教室へと戻っていったのだった。




 ───第6ゲーム『件の爆弾』勝者 逃亡者側

次回は鈴華の過去回想。

そして、閑話で沙紀の過去回想?

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、遂に勝ったか。 女子とのバトルは描写が難しいけど、 最後まで良い感じに臨場感があったと思います。 今回のデスゲームは特に厳しかったですなあ。 次回以降の閑話で一呼吸挟みたいですね。 …
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