6月19日 その㉛
俺と智恵・稜に歌穂・康太に拓人の6人の前に現れるのは爆発オニ───安土鈴華であった。
今から俺達6人は、鈴華とケンカ───という名の殺し合いをする。
だが、俺は鈴華と仲が良いから殺し合いなどはしたくない。稜と同じで、俺だって友達を殺したくないのだ。
もちろん、自分も死にたくないので鈴華と殺し合うしかないのだけれど。
「───鈴華。鈴華は本当に、爆発オニなのか?」
「あ?まさかオレのことを疑ってるのか?」
俺は、鈴華と殺し合いなどしたくなかったから、鈴華の口にする「爆発オニ」が鈴華なりのジョークであることに賭けてみる。
「見せてやるよ、オレの手に入れた圧倒的なパワーを」
その言葉と同時、鈴華は陸繋島の地面に対して拳を突き立てる。そして───
「「「───ッ!」」」
「う、うわぁ!」
鈴華が地面にパンチしたことにより、その大地が激しく振動する。そして、鈴華が殴った場所の半径2m程にはヒビが入って凹んでいた。
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
11.爆発オニは、自らに爆発的な破壊力を備えることが可能。
12.爆発オニは、ゲーム終了時に最低2人殺害していないと死亡する。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
「───んだよ...今のは」
俺は、その爆発オニの秘める破壊力を見せつけられたと同時、頭の中に爆発オニのルールの説明が入り込んで来たために、鈴華が爆発オニであることを認めざるを得なかった。
俺は、その揺れで転びそうになった智恵の両肩を掴み、鈴華の圧倒的な破壊力を見届けた。
「───あんなのに殴られたら、ひとたまりもないよ...」
智恵の声が震えていた。怖い、怖いのだろう。
「よりによって、鈴華が敵だとはな...」
拓人は、少し辛そうにそう口にする。思えば、拓人と鈴華は第4ゲーム『分離戦択』の1回戦『リバーシブル・サッカー』にて共に戦った仲だ。席替えする前は席も隣であったし、かなり仲の良い友達だろう。
「───ほら、さっさと勝負しようぜ。2、4、6...うーん、まぁ殺せば茉裕に褒めてもらえそうな人が多くいるぜ」
鈴華はここで「茉裕」の名前を出した。鈴華も、茉裕に操られているのだ。
───惜しい。
ここで、殺すのが惜しい。あの圧倒的な破壊力を前にして勝てるかどうかわからないが、もし勝ったとして、鈴華を失うのは惜しいだろう。
鈴華は、かなりの戦力であった。それだと言うのに、茉裕の方へ寝返ってしまうとは。
───そう、こうして茉裕の方へ寝返っているのだから、もう俺達の仲間に戻ることはないのだ。
茉裕を探している時間はない。茉裕を探している間に、俺達4人は爆死してしまう。
であるから、俺達は鈴華を倒すしか無いのだ。
「───本当に、本当に...」
本当に、茉裕は、生徒会は、マスコット大先生は嫌いだ。
「お前らから来ないのな。んじゃ、オレから行ってやるよ」
そんな言葉が俺達の耳に届いた刹那、ドンッという地面を蹴り上げた音よりも速いスピードで俺達の方向へ迫ってきたのは鈴華であった。
「───ッ!」
最初に狙われたのは稜。腹部を殴られて、そのまま後方へ吹き飛んでいく。
爆発するような、太鼓を強く叩いたかのような音が響き、稜は遠くへと吹き飛んでそのままドサリと倒れていた。ゲホゲホと、稜は吐血をしてその場でモゾモゾと藻掻いている。
「殺せてねぇな」
「殺させない!」
稜を殺すために動き出そうとした鈴華の体にタックルするのは康太であった。トラックに突っ込むようなその行為だったが、康太は振りほどかれること無く、鈴華に抱きつくことで動きを止める。
「───ッチ!ウザったいんだよ!」
「───ッ!」
康太は、鈴華にしがみついた手を掴まれる。そして、そのまま鈴華はグルグルと周り、そのままハンマー投げの要領で投げられる。
「───マジかよッ!」
音速をも超えていそうなスピードで、どこか遠くへ吹き飛ばされる康太。もう見えないほどに遠くまで投げ飛ばされてしまう。
「康太ッ!」
吹き飛ばされてしまった康太は、遠すぎて安否の確認をしに行くことができない。
───が、今大切なのは殺されそうな稜を守ることであった。
「稜は攻撃させない!」
俺は、鈴華へ攻撃する術も持たずに、半ば無策に稜と鈴華の間へと入り込む。
どうにかすれば、鈴華は止められるはず。真剣白刃取りの要領で腕を掴めば、動きを止められて、攻撃できるはずだ。
「───栄か。オレは茉裕の為なら容赦しないぜ」
「───速」
いざ、前に立ってみると想像の何倍ものスピードで俺の元へと迫っていく鈴華。俺は、反応することもできずにそのまま無様に殴られ───
───る、その前に。
「───何をしている?栄。稜はもう助けたのか?」
「───止めやがったな、愛香!」
俺を助けに現れたのは、マスコット大先生の妨害により別行動を余儀なくされていた愛香であった。
そして、遅れて健吾や真胡・梨花までもやってきていた。
───これにて、第6ゲーム『件の爆弾』最終決戦に参加するメンバーが揃ったのだった。