6月19日 その㉚
蒼にピッケルの回収を任せて、皇斗はマスコッ鳥大先生と睨み合う。
マスコッ鳥大先生も、皇斗が最大の相手であることがわかっていたために、蒼を追わずに皇斗のことを凝視していた。
───もし、普通の人間であればマスコッ鳥大先生のような自分の体の何倍もある怪鳥に睨まれれば、恐怖で動けなくなってしまうだろう。
だが、皇斗は違う。
第5回デスゲーム参加者の中で間違いなく最強である皇斗は、どんなに強い怪物であるマスコッ鳥大先生に睨まれようと臆することはしない。
「キエエエエエ!」
マスコッ鳥大先生は、そんな鳴き声を上げて皇斗の方へ動き始めるが、皇斗は落ち着いてその攻撃を回避していた。
何度踏み潰そうと試みても、何度嘴で突っつこうと試みても、1度たりとも当たることはない皇斗に苛立ちを見せても尚、マスコッ鳥大先生は荒ぶるようなこともしない。
皇斗の方も、マスコッ鳥大先生に攻撃してもほとんどダメージが入らないことに気が付いているので、率先して攻撃せずに避けることに集中していた。
───そして、マスコッ鳥大先生討伐の手がかりである沙紀の使用していたピッケルを回収して、蒼は皇斗の方へ走ってきた。
「皇斗きゅん!回収してきたピョーン!」
そう口にして、死神の鎌のような巨大なピッケルを持つ蒼は、皇斗の使い魔のようだった。
人型に返信できるウサギの使い魔───などと言われたら納得できてしまいそうだった。
───と、その声に反応下は皇斗だけではない。
マスコッ鳥大先生も武器を持ってきた蒼の存在に気付き、尚且つその武器が皇斗に渡ってしまったら自らの命が危ないと、そう本能で理解したのだ。
「キエエエエエエ!!」
「ピョ、ピョーン?!」
マスコッ鳥大先生は、皇斗を無視して蒼の方へ移動する。超低空飛行で、蒼の方へ責めて行ったのだ。
「蒼!その武器を死守しろ!」
皇斗は、そう口にしてマスコッ鳥大先生の数メートル後ろを走って移動する。蒼を守るために、皇斗も動くのだった。
───皇斗は、薄情ではあるが非情ではない。
目の前に助けられる仲間がいるといるのであれば、助けられるだけの努力は怠らないのが彼だ。
もし彼が、非情であればもう既に栄は第3ゲーム『パートナーガター』の時点で死亡していたかもしれない。
「───ピョン!」
そう口にして、蒼はピッケルを抱きしめながらマスコッ鳥大先生の特攻してくる今立つ場所からなんとか離れるように飛ぶ。
だが、超低空とは言え上空はマスコッ鳥大先生の大舞台だ。そのまま飛ぶ方向を微調整し蒼の方へ激突し───
「───キョエッ!」
そんな声を上げて、マスコッ鳥大先生は蒼に激突するギリギリでその動きを止める。
皇斗は一瞬、どうしてマスコッ鳥大先生が止まったのか理解できなかったが、蒼の片足だけ靴下になっているのを見て、蒼が飛んだと同時に靴をマスコッ鳥大先生の鼻の穴の中へ飛ばしたのを理解した。
「へへん、なんとか助かったピョン」
そう口にして、蒼は駆けつけてきた皇斗にピッケルを渡す。マスコッ鳥大先生は、フンッと息を吐いて鼻から靴を飛ばした。
「───さて、鶏肉パーティーの準備をしよう」
そう口にした皇斗。手には、しっかりとピッケルが握られていた。
マスコッ鳥大先生に勝つだけの道具は用意できた。そして、マスコッ鳥大先生をそのピッケルで解体するのも遠い未来ではないだろう。
───そんなことを思い、蒼が少しばかり安心したその刹那、マスコッ鳥大先生は「勝てない」ということを理解して、グルリと120度程方向を変えて、海の方へと飛び立っていった。
「───野郎!逃がすか!」
そう口にして、皇斗は飛んで逃げようと策謀するマスコッ鳥大先生の方へ追っていく。もう既に、マスコッ鳥大先生は10m以上の高さまで登っていた。
「───この高さ...流石に届かないピョン?」
「いや、まだ行ける。協力してくれ」
そう口にして、皇斗はマスコッ鳥大先生の飛んでいく方向へ走っていく。蒼も、それに付いていった。
「マスコッ鳥大先生はもう完全に逃げるようだ。ここで逃したら次はいつかわからない!少なくとも、余の前に姿を現すことはもう2度と無いだろう!」
皇斗は、そう口にする。
「じゃあ、どうするピョン?」
「無論、ここで殺す!」
そう口にして、皇斗は助走をつけた状態で飛ぶ。その高さは、15m以上をも超えるジャンプ力であった───が、それでも、マスコッ鳥大先生には届かない。
「これじゃ駄目───だがッ!」
「ピョン、ピョン、ピョーン!」
そう口にして、地上10m。重力に従い落下していく皇斗の足元に姿を現したのは頭を地面に向けて蒼であった。
「行って来い、ピョン!」
そう口にした蒼は、皇斗と足をピッタリと合わせて自らをジャンプ台に利用させる。
そしてそのまま、蒼はボチャンと激しい音を立てながら海の中へ落下する。一方の皇斗は───
「逃がしはしない、マスコッ鳥大先生!」
「キ、キエエエエエ?!」
マスコッ鳥大先生のそんな驚くような声。それもそのはずだ。地上30mを超えるような高さを飛んでいるマスコッ鳥大先生の背中に乗っていたのが、皇斗だったのだから。
第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場の海上にて。
森宮皇斗とマスコッ鳥大先生の勝負は、幕を閉じる。
その勝負は、ピッケルでバッサリと斬られたマスコッ鳥大先生の首が海に落とした際にできた水柱が発生したことで、終了を迎えたのだった。
皇斗の最強伝説は、留まるところを知らない───!