6月19日 その㉙
沙紀が爆発四散する音が響けども、その音はマスコッ鳥大先生と戦闘している蒼と皇斗の2人には届かない。
もしかしたら、届いていたかもしれないがお互いにその集中を切らさないために、その爆発音に触れることはなかったのだろう。
あの蒼でさえも、マスコッ鳥大先生との戦闘中では真面目になっているのだ。
それほどに強力な、怪物であることがよくわかるだろう。
「それにしても、硬いな...」
皇斗が、静かにそう口にする。
蒼が囮になり、マスコッ鳥大先生の視線がそちらに向いた時に皇斗が殴る蹴るの攻撃をしていたけれども、マスコッ鳥大先生に目立った外傷というものはなかった。
皇斗の攻撃によりマスコッ鳥大先生は内出血していてダメージは入っているけれども、それでも致命傷になるような攻撃ではないだろう。
皇斗の破壊力さえあれば、その鉄のように硬いマスコッ鳥大先生の皮膚だって貫くことができるのだから、後必要なのは鋭利な武器であろう。
「───皇斗きゅん!このままやっててもいたちごっこだピョン!デスゲーム終了までの時間稼ぎにするピョン?」
「いや、余がこの場にいる内に討伐しておきたい。次、どこで刺客として現れるかわからないからな」
マスコッ鳥大先生へ攻撃できるのは皇斗だけだ。蒼も、避けることこそはできているが、攻撃することは不可能だ。
「となると、必要なのは武器だピョン。でも、そんなのこのデスゲーム会場には───」
「───ある」
そう口にしたは、皇斗であった。暴れるマスコッ鳥大先生の対処をしながら、蒼とこうして会話をしてマスコッ鳥大先生を倒す方法を考察している。
「あるぞ、マスコッ鳥大先生を倒す武器は」
「なんだピョン?」
「沙紀の持っていたピッケルだ。あれならば、それ相応の頑丈さは保証できよう」
「でも、沙紀から奪い取らなきゃならないピョン!」
「あぁ、そうだ。少々危険ではあるが、向こうには栄達もいる。いざとなれば余が指示を出す。沙紀のところへ行こう」
「でも、沙紀のところなんてどこかわかるのかピョン?!」
「先程、爆発音がしただろう?そっちの方向だ」
「───」
蒼は、皇斗の言葉に返事をしない。
爆発音がしたということは、それが誰かの死亡を意味することなのだから。
皇斗は、その爆発音をまるでカラスが鳴くかのような当たり前のことのように口にしていたため、蒼も少し驚いてしまう。
───皇斗にとっては、あそこで戦っている人物の死など、微塵も気にしていなかったのだ。
これはデスゲームだから誰かが死ぬ───と言っても、誰かが死んだ時は何か思うところはあるだろう。
それでも、眉1つ動かさないということは全く、心に響いていないということだった。
流石の蒼でも、色々と思うところはあったと言うのに、皇斗は全く気にしていないと言うのだ。
「───ニヒヒ、笑えてくるピョン。んまぁ、いいピョン。爆発音は道標。そっちに向かって行こうピョン!」
そう口にして、蒼と皇斗はマスコッ鳥大先生を引き付けながら先程爆発音がした海沿いへの移動を企てたのだった。
またしても、誰かの死に場所は砂浜になるのだろうか───などと、思いながら蒼は笑みを浮かべて、陸繋島を皇斗と共に移動する。
───が、マスコッ鳥大先生だって決して3歩歩けば忘れる鶏ではない。
マスコッ鳥大先生だって、人間並みの知能は持ち合わせているのだ。人の言語を理解せずとも、何かを企てていることを察したのか、爆発音の方へ移動する2人の方へ周囲の木々を巻き込んでタックルしてきたのだった。
その鉄のように硬い巨体でのタックルは、巻き込む木々をへし折り、全てを巻き込んで進んでくる。
まるで電車のようなマスコッ鳥大先生に当たってしまえば、へし折られて木々に巻き込まれるのも相俟って、一瞬で木っ端微塵になるだろう。
「───ッ!逃げなきゃ僕達も死んじゃうピョン!」
蒼は、涙を浮かべながらもどこか楽しそうに杜の中を走っていた。その後ろから、木など気にせず地面を走ってくるマスコッ鳥大先生。
皇斗は、マスコッ鳥大先生は自らに追いつけない事がわかっているのか、後方を一切振り向かずに走っていく。が───
「───ッ!」
蒼が、躓く。
必死に逃げていたから、足元に木の根っこがあることに気が付かなかった。そして、そのまま前方に倒れるように転んだ。
「まずっ!」
蒼が、チャームポイントの語尾を忘れるほどに焦る。そのまま、後方に迫っていたマスコッ鳥大先生に巻き込まれてピーターラビットのお父さんのようにミートパイになり───
「全く...」
そう口にして、皇斗はなんとか蒼をマスコッ鳥大先生の足元から救出した。
「皇斗きゅん!ありがとうだピョン!」
「先程助けてもらったからな。これで貸し借り無しだ」
皇斗にお姫様抱っこをされながら、蒼はそのまま連れて行ってもらう。そして、マスコッ鳥大先生を連れた2人は砂浜へと到着する。
「やっと来れたピョン!」
そう口にした蒼。皇斗は、キョロキョロと辺りを見回した後に沙紀が持っていたピッケルが地面に刺さっていることを確認する。
「蒼、あそこにあるピッケルを取ってこい。余がマスコッ鳥大先生を引き付けていよう」
「了解だピョン!」
そう口にして、蒼はピッケルの方へ走っていった。そして、皇斗とマスコッ鳥大先生はその双眸で睨み合うのだった。