6月19日 その㉘
今回はちょっと長め。
「───時限爆弾は...消えない?」
そんな言葉と同時、俺達は理解する。
───第6ゲーム『件の爆弾』は、俺達が考えているよりもずっと鬼畜ゲームであったことに。
俺達は───いや、少なくとも俺は、ずっと時限爆弾オニである沙紀を倒せば、その体についた時限爆弾は解除されると思っていた。
だけど、そんなことは一切ルールに記載されていない。ルールに書かれている時限爆弾オニの内容は
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
の3つであった。
時限爆弾を解除する、唯一の方法は時限爆弾オニに触れること───それだけだったのだ。
時限爆弾オニを殺してしまったら、もう爆弾を解除することができないのだ。
最初から、時限爆弾が付けられて助かるのは5人までだったと言うのだろうか。
「このまま、私達は死んじゃうの?」
智恵が、そんなことを口にする。智恵の持った疑問は、誰もが持つような疑問だ。
俺だって、目を背けていただけで「時限爆弾オニが爆発する」ということは考えたはずだ。
「とりあえず、状況をまとめよう」
焦る俺達をまとめるようにそう口にするのは、現在時限爆弾を持っていない康太であった。
自らに死の危険がないからこそ、こうして悠長なことが言えるのだろう。
現在、第6ゲーム『件の爆弾』が開始してから26時間が経過しようとしていた。
「とりあえず、俺たちは移動型爆弾オニと時限爆弾オニを討伐することは───沙紀を倒すことには成功した。そして、現在時限爆弾を持っているのは栄と拓人、智恵と歌穂の4人。ここまではあってる?」
「あぁ」
「うん」
「えぇ」
「そうだな」
康太のその言葉に、俺たちは同意を示す。稜は、移動型爆弾を渡すと同時に時限爆弾を解除していたから、もう時限爆弾は持っていないのだ。
「沙紀が死んだため、もう時限爆弾を解除する方法はないのはルールを見ても明らかだ」
康太はそう口にする。解除する方法はない。解除できないということは、死ぬということだ。
「そうだ。だから、俺達は後3時間もせずに爆死する───」
「まだ解決方法はある」
「───え?」
康太は、冷静な康太はそう口にする。この場で爆弾を持っておらず、稜とは違い沙紀に勝利したという興奮を持っていない康太は、冷静にこの現状を分析する。
「解除はできなくても、爆発させないことはできる。要するに、爆弾としての効力を無くすんだ」
「どういうことだ?」
「言い換えるならば、爆弾の解除ではなく取り除く───っていう感じかな?例えると、沙紀に触れて解除することが爆弾の導火線を切ることだとするならば、今回の提案は爆弾を凍らせてしまう───そんな感じだ」
「それって...」
「3人目のオニ───爆発オニを殺して、第6ゲームそのものを終わらせる!」
康太の提案。それは、爆発オニを殺す───というものであった。
爆発オニを殺してしまえば、オニが全員死亡し、いなくなったがためにこのゲームの特徴である「鬼ごっこ」という形は保てなくなる。そうなると、第6ゲーム『件の爆弾』を続ける意味はなくなってしまうのだ。そうなれば、マスコット大先生は第6ゲームを終了せざるを得なくなる。
それを俺達の時限爆弾が爆発する前に行い、デスゲームを終わらせれば俺達が爆死することは避けられるのである。
ルールの中に「5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する」があるけれども、終了時に時限爆弾が爆発するのは、ゲーム開始から27時間経過後だ。俺達には関係ない。
逆に、「27時間経過後以降」の話が特記されているということは、「27時間経過前」の話が隠されているということだった。
ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する───という書き方から考えて、「27時間経過前にタッチされて、規定の時間前にゲームが終了した場合場合、試合終了時に時限爆弾が解除されていなくても爆発しない」という形になると予想したのだ。
若干、希望論であるように思えるけれども、これに賭けてみる価値はありそうだ。
「でも、爆発オニはわからない!」
歌穂のそんな反論。そう、まだ爆発オニが誰か全くわかっていないのだ。
これまで、26時間程第6ゲーム『件の爆弾』を生き抜いてきたが、時限爆弾オニと移動型爆弾オニの2つしか見ていない。
まだ、爆発オニは動き始めていないのだ。
「あぁ。だから、爆発オニを探す。いや...違うな。爆発オニは、自分から俺達のもとに───より正確に言うのであれば、ここ陸繋島に来てくれるはずだ!」
「どうして?」
「今回のゲームは、これまで隠密していた沙紀に茉裕の2人が参加している。2人とも生徒会だ!そうであれば、3人目も生徒会の可能性が高いんじゃないか?」
「逆に、これまで動いてないのは生徒会じゃないから───とも考えられるわよ?流石に、ここまでひた隠しにしているのなら見つけられない!」
「───いや、いるだろ?1人。茉裕がひた隠しにしたがるような切り札が」
「「「───ッ!」」」
その康太の言葉で、その場にいる全員の頭の中に浮かび上がるのは、1人の人物の姿であった。
「───アイツなら、ここまで来る位には好戦的ね」
「沙紀よりも何倍も強いが、ここでウジウジしてても時限爆弾で死ぬだけだ。勝負に出てみないか?」
康太のそんな提案。
俺だって、頭に浮かぶその人物とはかなり仲良くしているから正直、殺しあいたくはない。
だけど、茉裕に協力するのはまだ発見できていない生徒会メンバーを除いては、彼女くらいしかいないだろう。
「───わかった、戦おう。勝てるかどうかはわからないけど...」
俺は、そう口にする。そして、俺達は陸繋島の入り口の方まで移動し、爆発オニと思わしき彼女が来るのを待つことにした。30分待っても来なければ、彼女が爆発オニだという予想は外れだと判断し、島中を探しに動き出そう───と、そう話し合っていた時。
康太の予想通り、彼女は───安土鈴華は陸繋島に姿を現した。
「随分と、爆発オニであるオレのことを待ちわびていたみたいだな?もう、沙紀は死んじまったか?」
そう口にしたのは鈴華。俺は、その問いかけに答える。
「あぁ、死んだよ。俺達で殺した。鈴華...お前はどうする?」
「どうするだぁ?どうするもこうするもないだろ!決まってる、ケンカだ!」
「そうか。なら、容赦はしない。俺だって、生き延びたいんだからな」
───戦友・安土鈴華との戦いが、開始する。