6月19日 その㉓
───栄達6人が、沙紀の相手をしているのと同刻。
森宮皇斗は1人、マスコッ鳥大先生の相手をしていた。
「───中々に、面倒な奴だ...」
いくら拳を振るい、脚で蹴り上げても尚、倒れることも血を流すことも知らないマスコッ鳥大先生を前にして皇斗はそんなことを口にする。
実際、マスコッ鳥大先生の肉体はかなり強靭で鉄でできた鎧よりも硬く、皇斗でさえも壊せないような頑丈さを誇っていたし、見かけの上ではマスコッ鳥大先生にはほとんどダメージなど入っていなかった。
だが、皇斗の肉体はその皮膚を破らずとも、体の芯への攻撃は通っていたのだけれども、皇斗はそれに気が付かない。
もっとも、気付かないと言っても、皇斗がマスコッ鳥大先生の討伐を諦めるようなことはしないのだが。
「───何か、何か鋭利な武器が欲しいところだな」
皇斗はそう口にする。周囲をチラリと見てみても、武器に当たるようなものは見えてこない。
落ちている枝などでは、マスコッ鳥大先生の皮膚を貫くことなど不可能だろう。
「沙紀が持っているピッケルなどがあれば楽なんだがな...」
皇斗はそう口にしながら、自らに近付いてその嘴で啄もうとしてくるマスコッ鳥大先生のことを、右飛びで避けた後に、その背中に蹴りを食らわせる。
「───キエエ!」
強烈な蹴りでその体を揺らすものの、やはり出血はしない。
皇斗の攻撃の多くは、マスコッ鳥大先生の内出血であったのだおで目立った外傷は見られない。
だが、マスコッ鳥大先生は内出血とその蹴りにより振動でそれなりのダメージは加わっていた。
───だからこそ、マスコッ鳥大先生だって明確に皇斗のことを「敵」だと認定する。
「キエエエエエエ!!!」
マスコッ鳥大先生が、そう口にして鳴くとバサバサとその翼を羽ばたかせては、遥か上空へと移動していく。
「───ッ!逃げる気か!」
そう口にする皇斗。上空へと飛び上がっていくマスコッ鳥大先生を見て、皇斗はすぐに近くにある木を登っていく。
登る───と言っても、コアラのように木にしがみついてヨジヨジと登る訳では無い。
地面に垂直に立っている木を、そのまま足で登る。そして、木の上に立って、そこから一気に空中へとジャンプをする。
そして、マスコッ鳥大先生の足を掴んだのだった。
「キエエエエ!?」
マスコッ鳥大先生は、そんな驚いたような声を上げる。皇斗は、そんなこと気にせずに、そのままマスコッ鳥大先生の背中へと飛び移った。
「羽をもげば墜落するだろうか...」
もしそんなことをしたら、皇斗も墜落してしまうのだが、彼にはきっと生き残る術があるからこそ冷静にそんなことを口にしているのだろう。
「キエエエエエエ!」
マスコッ鳥大先生も、背中に皇斗が背中に乗っていることは気付いているのだろう。
だから、マスコッ鳥大先生は上空まで飛び上がった後に、急激な下降を開始する。
「───ッ!」
皇斗は、なんとかマスコッ鳥大先生の背中にしがみついて、その急降下に耐える───。
───が、皇斗が掴んでいたその羽毛が、千切れて皇斗はそのまま落下していく。
「硬いのは皮膚であって羽毛は柔らかいからな。当然といえば当然か...」
皇斗はそう口にすると、上空25m辺りのところで手に付いたマスコッ鳥大先生の羽毛をはたいて、空中で動き出す。
皇斗が目に入れたのは、大地から生えている木々であった。その枝を掴んで、落下ダメージを無くす算段なのだろう。
そのまま、皇斗が重力に従い落下して木を掴もうとしたその瞬間───。
「───ッ!」
皇斗の近くまでやってきて、その翼を振るい、暴風を発生させたのはマスコッ鳥大先生。
皇斗が、枝を掴めないようにその翼で風を発生させる。そのため、皇斗の腕は枝まで届かない。
流石の皇斗でも、30m以上もの高さから落下してしまったら耐えきれないだろう。
皇斗が、体に来る衝撃に耐えようとしたその時。
ガシッと、皇斗の体をキャッチする感覚がする。
「───ッ!」
「ふ〜、危ない危ないピョン。シータにでもなったのかピョン?」
「───蒼、お前がパズーだなんて笑わせてくれるな。だが、助けてくれたこと、感謝する」
蒼は、一度皇斗の前に現れて、皇斗が「邪魔だ、どっか行け」と怒ったところ、栄達の方へ戻っていったはずだった。
だが、蒼は懲りずにまたこちらに来たのだろう。
皇斗は、戦闘の邪魔になるからまたどこかに行かせようかなどと思ったけれども、助けてもらった恩もある以上、「邪魔だ」と再度口にすることはできない。
「───蒼、共闘と行こうではないか。先程はどっか行けなどと言って悪かったな」
「ごめんにゃん───って言ったら許してあげるピョン」
「そこまでして貴様に許してもらおうとは思わん。調子に乗るな」
「ぴょーん...」
「キエエエエエエ!!!」
2人がアホみたいな顔をしていると、マスコッ鳥大先生が耳をつんざくような叫び声をあげる。
そして、2人は目の前にいるその怪物を討伐するために、共闘することが決まったのだった。