6月19日 その㉑
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
8.移動型爆弾オニは、触れた人物に爆弾を移動させることができる。尚、触れられた人物が触れた人物に爆弾を返すことは不可能である。
9.移動型爆弾オニの爆弾は、ゲーム開始から24時間経過以降、ランダムなタイミングで爆発する。
10.移動型爆弾オニは、その性質上敗北条件はない。
11.爆発オニは、自らに爆発的な破壊力を備えることが可能。
12.爆発オニは、ゲーム終了時に最低2人殺害していないと死亡する。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
15.主催者は、6時間おきにゲームを混乱させるような仕掛けだったり、ゲームプレイヤーを強化させるような仕掛けを実施しなければならない。
───『無事故無違反サイコパス』細田歌穂と『操られ人形』綿野沙紀。
この2人が、第6ゲーム『件の爆弾』でこうやって睨み合うのは、これで3度目であった。
1度目は信夫を助けるための時間稼ぎとして、殴り合いはせず動きを止めることに徹し、2度目はマスコット大先生の妨害により、運悪く沙紀と同じ場所に転移されたために戦闘が行われた。
───もし、これが第6ゲーム『件の爆弾』に限らないものになれば、5月30日にやってきた沙紀が生徒会だと判明したその日、俺と智恵の2人が殺されそうになった時に沙紀が助けに来てくれたのだった。
もはや、運命と言えるほどの敵対の数であろう。
しつこいと言わんばかりの再会に、歌穂は飽き飽きしているものの、これまで2度も沙紀に見逃されているは奇跡とも言えるだろう。
もし、歌穂が生徒会であるとすれば、殺す順序などどうでもよく、殺す人から殺してしまう。
───が、沙紀がそれをしないのは、茉裕に心の底から操られていて、コンピューターのように複雑な司令が出され、プログラムされているからだろう。
人間として欠陥ができるわけではないが、コンピューターであれば「バグ」とも呼べるような、矛盾を孕んだような不可解な行動は数多くあった。
「本当に、『操られ人形』って異名を付けたのが正しいと思うわね...」
ほんの1時間とちょっと前に、戦闘をした際にはそのピッケルを奪い取ることに成功した歌穂。
そして、そのピッケルで攻撃したことにより沙紀の顔には、紅い何筋かの線が残っていた。
もちろん、顔以外にもそんな線は残っていたし、沙紀の着ている体操服にも切れた後があった。
きっと、そんな切り傷ができても何一つ表情を変えていないのは、彼女が茉裕に操られて痛みを忘れているほど心酔しているから───かもしれない。
もう、茉裕がどこまでを操れるかなど俺にはわからない。
もしかしたら、もう思考すらも茉裕に操られていて、完全に茉裕の分体のような形になっているかもしれない。
───そんなことを考えながら、歌穂と沙紀の睨み合いを見ていると、ついに沙紀が動き出してしまう。
その細い足を動かして、歌穂の方へ力強く移動するのだ。
ブンッと、ピッケルが力強く力任せに振られる音がして、それを歌穂が俊敏な動きで避ける。
「もう、アンタの攻撃なんか簡単に避けられるわよ!」
「あ、そう」
俺と智恵、そして康太の3人は時限爆弾が付けられて5分間の不動時間なので、なんの抵抗もできないが、歌穂はタッチされていないので動けるようだった。
「全く...あの時、殺しておけばよかった。今になって後悔してるわ。もう、後悔しないために歌穂のこともちゃんと殺す」
「そういうのは、殺した後に言うものよ!」
歌穂がそう煽った刹那、沙紀は動き出す。歌穂の方へ、非情にもピッケルを向けて、歌穂の胴を真っ二つにせんと振るう。
「死───」
智恵が、思わず歌穂の死を覚悟してしまうけれども、歌穂はそこまで弱くはない。それに、沙紀と戦うのはここが最初ではないような様子だった。
歌穂は、ピッケルの進行方向と同方向に逃げることでそのピッケルが体に当たることを避ける。
そしてそのまま、振られたピッケルの方へ手を伸ばし、ピッケルを奪い取ることを試みる───
───が、グルンッと沙紀の手の中でピッケルの刃の向く方向が180度回転したため、歌穂の手が傷つく。
「───ッチ!」
歌穂の右の手のひらに傷が付く。けれども、歌穂はその痛みを舌打ちだけで流してしまう。
まぁ、歌穂は左腕をパックリと縦に切られて、コッペパンのように何かを挟めそうだから手の平を切られた程度、そこまでのダメージではないのかもしれない。
───と、歌穂は沙紀から距離を取ってその手の平の方をチラリと見る。
「奪い取るのは失敗───かしら?」
沙紀は、そう口にしてニヤリと笑みを浮かべる。わかりやすい挑発だった。
「成功するまでやり続けたら、確実に成功するのよ!」
歌穂は、沙紀の挑発に乗り、脳筋な発言をする。そして、両手を怪我しているのにも関わらず、沙紀を強力たらしめる武器であるピッケルを奪い取ろうと行動を再度開始した。
「はぁ...残念ね」
迫りくる歌穂を、軽快な動きで避けた沙紀は、そのまま歌穂の後方にまで移動する。
「成功するまでやり直せないのが、人生なのよ」
その言葉と同時、沙紀は歌穂に触れる。
「───ッ!」
「歌穂ッ!」
静かにこの戦いを見ていた康太が、焦った荒い声で歌穂の名前を呼ぶ。
歌穂も、沙紀に触れられて動けなくなってしまったのだ。俺達3人が動けるようになるには、後1分はかかるだろう。蒼は戻ってくるような奴ではないし、俺達はもう終わり───。
「それじゃ、殺すね」
沙紀はそう口にして、表情を1つだって変えずにピッケルを持つ。そして、俺の方へ迫ってきて、その首を刎ねようと、そのピッケルを振り下ろし、俺の首はバッサリと空を飛び絶命する───
「"雷神"」
───なんて、展開が来るよりも速くこの現場に駆けつけて、沙紀の頬を蹴り上げて吹き飛ばしたのは拓人。
彼の口にした"雷神"というのは、生徒会メンバーが殺した杉田雷人が戦う時によく口にしていた神の名前であった。
「オレは、雷人を殺したお前を許さないよ」
そう口にして、拓人は蹴った足の靴をちゃんと履き直す。どうやら、蹴る際にその靴をしっかりと履かないことで、体に触れてない判定にしたようだった。
───こうして、危機的な状況に新たな戦力である拓人が参戦する。
そして、彼に遅れてやってきたのが───
「───稜!」
そこに現れたのは、俺がずっと探し求めていた人物───山田稜であった。