6月19日 その⑲
「沙紀が来た...」
陸繋島へと渡ってくる沙紀の姿を見て、すぐに茂みに飛び込むのは歌穂であった。
智恵も、すぐにその歌穂についていくようにその茂みの中に入っていく。そして、2人は茂みの中で沙紀のことをその双眸で確認する。
どうやら、沙紀は2人に気付いていないようで、陸繋島の方へ警戒せず───正確には、計画はしつつも、その茂みの方を怪しむような素振りは一切見せずに、巨大なピッケルを持って島へと足を進んでいた。
島の奥の方では、時折マスコッ鳥大先生が空へ飛んでいくるのが見えていた。
「智恵、アタシの合図で貴方がまず動いて」
「動くって...どうしたらいい?」
「沙紀の視線を奪ってくれたらいいわ。なんとかして、一瞬でも動きを止めて」
「───わかった、失敗しちゃうかもだけど頑張ってみる」
智恵は、そう返事してゴクリと唾を飲み込んだ。沙紀は、第6ゲーム『件の爆弾』のデスゲーム会場と陸繋島を繋ぐトンボロを歩いて、智恵と歌穂の2人が隠れる茂みの方へと進んでいく。
すると───
「あ、沙紀だ!」
ふと、歌穂と智恵の意識の外からそんな声がする。
「本当だピョン!」
「ここまで来てる───ってことは、俺達と戦いに来たってことか?」
そう口にして、露骨に沙紀に敵意を向ける栄と康太。そして、いつも通りふざけている蒼であった。
「───思わぬ、登場ね」
「栄だ、栄がいる!」
智恵は、栄が生きていることを確認出来て、少し嬉しそうにする。そして、茂みから出ていきそうになったところを、歌穂がなんとか止める。
「───って、そっか。私が出たら歌穂ちゃんがいることバレちゃうかも」
「そうよ。再会できたのはおめでとうだけど、もう少し待って」
「うん...わかった」
智恵は、そう返事をする。歌穂は、栄達の登場により、場がこんがらがるのを見越して、しげしげと爆弾を解除する隙を狙っていたのだった。
***
皇斗が、マスコッ鳥大先生と戦うために動き始めてから、早くも10分程が経過しようとしていた。
蒼が皇斗の方が行って、俺と康太はそれを後ろから見ることしかできなかったのだが、その5分・10分後に涙目になりながら帰ってきた。
「うお、随分帰って来るのが速かったな」
「うわーん、怖かったピョーン!」
半ば棒読みに聴こえる声で、そう口にした蒼。
「何があったんだ?」
「普通にマスコッ鳥大先生にバレて食べられそうになったピョン...皇斗きゅんが守ってくれたけど、どっか行けって怒鳴られたピョン...」
まぁ、当たり前だろう。俺は康太と蒼の2人にしっかりと忠告したはずだ。
「こんなに可愛い僕のことを怒鳴るなんて、皇斗きゅんは怖いピョン!」
「皇斗きゅん───って呼んでるし、大丈夫そうだな」
「あ、バレたピョン?」
「「───」」
本当に、掴みどころの無いやつだ。情緒不安定───というか、情緒が無いと言ったほうがいいだろうか。
「もうここにいてもつまらないピョン。さっきまでの島にでも戻るピョン」
そう口にして蒼は、一人で歩いていってしまう。
「えー、蒼。行っちゃうの?」
俺と康太は、今度は仕方なく蒼の後ろを通っていく。蒼のその足取りからも、さっきのが嘘泣きであることに簡単に見破れた。本当に、本当に掴みどころの無いわからないやつだ。
───と、俺達がこの陸繋島から抜け出そうとすると。
「あ、沙紀だ!」
俺の目に映るのは、一人のピッケルを持った少女───生徒会であり今回の第6ゲーム『件の爆弾』では時限爆弾オニである綿野沙紀であった。
「本当だピョン!」
「ここまで来てる───ってことは、俺達と戦いに来たってことか?」
「いや、俺がいるのはバレてない───いや、大きな声で稜のことを呼んだからそれを聞かれてたかな。少なくとも、バレているのは俺だけだから、俺達───って言うよりかは、俺を殺しに来ているはず」
俺は、真面目にそう考察数する。沙紀も、こっちに気が付いて俺達と目が合うとニコリと微笑みを浮かべた。
ここで、沙紀を避けることはもうできないだろう。
「マスコッ鳥大先生に沙紀まで登場か...」
ここに茉裕までくれば、ついに判明している生徒会関連のメンバーは勢揃いである。
まだ、爆発オニが判明していないなど懸念点は残るが───
「───戦うしか、ないみたいだね」
そう口にして、康太は蒼を抜かしてここで先頭に出る。どうやら、先陣を切るつもりらしい。
「生徒会に、雷人を殺されてるんだ。俺が怒る理由はあるはずだ」
康太は、友達のために動く。奈緒が殺されて、蓮也のことを殺そうと動いている康太だ。雷人が殺されて、生徒会メンバーを恨まないわけがない。
「───ぶち殺す。それ以上もそれ以下でもない。単純な作業だ」
「僕も!僕も参加するピョン!」
「俺も迷わず参加だ」
こうして、俺達全員が沙紀と戦うという選択をする。
「ふふ、三人寄れば文殊の知恵って言うものね。3人揃って、私に攻めに来てくれたのね。まぁ、期待はしないわ」
沙紀はそんなことを口にして、挑発するように笑う。その時───
「残念、5人よ!」
その言葉と同時、沙紀の後ろにスッと現れ、沙紀の背中に触れたのは、歌穂であった。
「栄!」
「───智恵!」
そして俺は、9時の方向から名前を呼ぶ智恵の存在に気が付く。こうして、俺達3人に智恵と歌穂の2人も合流したのだった。