6月19日 その⑰
皇斗の登場により、どうにか俺はマスコッ鳥大先生に追われるだけの時間を終わりにする。
「助かったよ、皇斗」
「この鳥───マスコッ鳥大先生に捕まったのは余が栄のことを空に投げたからな。マスコッ鳥大先生を倒すくらいの貢献はしようではないか」
「流石は皇斗!んで、康太と蒼の2人は?」
「今、走ってきている。余は、空中が割れる音が聴こえて急いできたのだ」
皇斗は、かなりの俊足の持ち主だが、その皇斗でさえもここまで来るのに10分以上かかるとは。
でも、ここから中心までは結構距離があるし、マスコッ鳥大先生は空中を飛んでいるから、それを走って追いかけていたら、10分強で到着できたのはすごいことだろう。
助けてもらう立場の俺が、皇斗に文句を言う筋合いはない。
「キエエエエ!」
皇斗に頬を蹴られ、その動きを止めていたマスコッ鳥大先生がそんな鳴き声を上げる。皇斗の一発を耐え抜いたということは、マスコッ鳥大先生は生物としてそれなりに丈夫であると言えるだろう。
皇斗は、前に裕翔や康太と殴り合いをした時は、同じクラスメイトであるから手を抜いていただろうが、それでも2人はコテンパンになっていた。だが、今回マスコッ鳥大先生が俺を襲っているのは、見ているし皇斗はマスコッ鳥大先生が茉裕の味方であることも知っているだろう。
それであれば、皇斗は本気の蹴りであっただろう。それを耐えるということは、かなり頑丈なはずだ。
「栄、下がっていてくれ」
「わかった」
皇斗であれば、負ける───という心配はない。
マスコッ鳥大先生の戦闘は、皇斗に任せっきりでもいいだろう。俺が出ても、全く太刀打ちできない───というか、皇斗以外にこの怪物と同じ土俵に立てるのは、愛香や鈴華くらいだろう。
その攻撃を避けられるかはわからないが、東堂真胡も攻撃としては通用するかもしれない。
「───んまぁ、少なくとも俺は役に立たないからな」
そう口にして、俺は皇斗とマスコッ鳥大先生の戦闘を後学のためにも見ておくことにした。
まぁ、今後俺がマスコッ鳥大先生のような怪物と戦うときがあるかはわからないけれども。
「キエエエエ!」
甲高い声を上げるマスコッ鳥大先生は、獲物を俺から皇斗に変えたようだった。皇斗としても、俺を守りながらの戦闘よりも、完全な1vs1のほうがやりやすいだろう。
「───」
皇斗は、何も口にせずにマスコッ鳥大先生の方へと動き続ける。皇斗は、どうやら目の前にいるあの怪物に臆している様子はなさそうだった。
それがマスコット大先生と同じ気が抜けるような被り物をしているからなのか、皇斗の精神力が高いのかはわからない。
皇斗は、巨体であるマスコッ鳥大先生の顔付近までジャンプしては、先程狙った頬とは反対側の方を蹴ろうとする。
だが、マスコッ鳥大先生も流石に2度も同じ蹴りには当たらないのか、それとも1発目は完全に意識の範疇から外れたところから放たれた攻撃だから避けられなかったのかはわからないが、マスコッ鳥大先生は見かけに寄らず俊敏な動きで、皇斗の蹴りを避けたのだった。
「避けるか。では」
皇斗は、そのまま重力に従い地面に静かに着地した後に、マスコッ鳥大先生の足に拳をぶつける。
マスコッ鳥大先生も、皇斗の攻撃を避けようとしていたけれども、皇斗の動きはそれよりも速かったようで、マスコッ鳥大先生の足に拳がぶつかった。
「ギョエエエエ!」
そんなことを口にして、マスコッ鳥大先生は足の痛みで地面に立つことを断念したのか、バサバサと俺達の身長近くある翼を広げて、空中へ飛び立っていく。
「空中戦か...」
「皇斗、大丈夫か?」
俺は、空へと羽ばたくマスコッ鳥大先生を見て、皇斗に近付くのは安全だと判断して皇斗の方へ進んでいく。
「空中で戦え───と言われて、可能か不可能かで聞かれたら不可能だ。流石の余でも、空中に浮く───だなんて、創作染みたことはできん」
「そうか...」
「ジャンプで攻撃をするのもいいが、空はマスコッ鳥大先生の領域。無理に攻めて攻撃されては、勝てなくなってしまう」
皇斗は、そう口にする。
「あぁ。マスコッ鳥大先生討伐の頼みの綱は皇斗だけだ」
「そうだな。愛香も太刀打ちはできるだろうが、勝つことはできまい」
「───」
愛香は、マスコッ鳥大先生と勝負にはなるが勝てない───と断言するところが皇斗らしいだろうか。
でも、実際に強者である皇斗だからこそ言える発言だろう。
「栄、マスコッ鳥大先生が空を飛んでいる時は栄のことを守れそうにない。いつ、こちらに飛んでくるかわからないからだ。ずっと俺の近くにいるか、遠くに逃げてもらうか───の2択なのだが、正直に言うと近くにいるのはこちらとしても戦いにくい。であるから、遠くへ逃げてくれないか?」
「───あぁ、わかった」
俺は、皇斗の戦闘の邪魔はしたくなかったのでそう口にする。俺達が話している間、マスコッ鳥大先生はこの陸繋島の上をグルグルと旋回して今か今かとその隙を狙っていたようだった。
「キエエエエ!」
そんな鳴き声を上げて、マスコッ鳥大先生が急降下してきたと同時、俺と皇斗は動き出す。
───俺は逃げるために、皇斗は立ち向かうために。