6月19日 その⑮
昨日の更新分を、もう夜遅いですが投稿させていただきます。
睨み合う。
鉄人を目の前にして、西村誠は唾を飲み込む。
───ここは、第6ゲーム『件の爆弾』のデスゲーム会場のどこか。
木々に囲まれているこの場所では、今2人がどこにいるかなど調べ上げることは不可能だった。
誠が相対する鉄壁の人物は、誠と同じラストバトル『ジ・エンド』において過去の生徒会メンバーに敗北した───という共通点がある。
「おいおい、出会ってすぐにオレを敵対視するだぁ...よく、わかってるじゃねぇか」
一人称が「オレ」だということは、この声の主は男───否、右目を眼帯で隠し、どこかで拾ったであろう巨大な木の枝を木刀のように背中で担いでいるのは、一人の女傑であった。
「───敵であることは間違いないんだな?」
誠が、静かにそう確認する。
「───あぁ、間違いねェ。オレは、お前と───否、お前らと敵対してる。オレは今、茉裕の仲間だ」
「安土...やっぱりな」
安土───安土鈴華。
マスコット大先生の転移で場所を強制的に変えられた2人の邂逅は、このゲームを大きく動かす。
「───敵だと言うのであれば、俺はここで安土と戦わなければならない」
「別に、逃がせばいいだろ?」
「そしたらお前は、目的の人物を───栄を襲うだろう?」
「別に、栄は目的の人物って訳じゃねぇんだがな。勘違いも甚だしいぜ。自意識過剰だ」
「自意識ではない」
「わかっとるわ、そんなもの。そもそも、ある特定の目的の人物はいねぇ!俺はこれから無差別殺人鬼だぜ?」
「そうか。それならば、結局のところ見逃せないし、見逃してもらえなさそうだな」
「あぁ。見過ごさないぜ」
───そして、誠と鈴華の勝負は開幕する。
「ここは、本気で相手をさせていただく。もう安土、お前は生徒会に寝返ったようだし、俺自身自分を裏切るようなことはしたくないからな」
「好きにしろ。どちらにせよ、オレはお遊び程度だ」
「無差別快楽殺人鬼め」
そう口にしながら、誠は懐から2本のタガーを取り出した。これは、先日の今頃の時間に沙紀から奪い取った代物だった。
「ナイフ2本か。そんなもん、どこで拾ったんだ?」
「綿野から奪い取った」
「あっそう。まぁ、どうでもいい。沙紀は確か、ピッケルを持っていたようだしな」
そう口にする鈴華。鈴華と沙紀は、先日の食事争奪戦の時にお互いに出会っている。
その時は、沙紀が吹き飛んでいたので言葉を交わしていないし何かの合図もしていなかったようだが。
「───んまあ、いい。誠を倒して、次を探すからな」
───そして、2人はぶつかり合う。
「では」
その言葉と同時に、誠は動き出す。しっかりと両手にナイフを持ち、鈴華の方へと接近し───
「お試しだ」
”ドォォォン”
───そんな、爆発音。
否、爆発音ではない。実際に、何も爆発していない。
だが、爆発的なエネルギーが誠を襲ったのは変わりない。
そしてそのまま、誠は森林の中をものすごいスピードで吹き飛ばされていく。途中、何本か木にぶつかったがその木をなぎ倒すほどに、その威力はあった。
「───力加減、間違えちまった。んま、初めてだったからしょうがねぇか」
そう口にする鈴華。鈴華は、吹き飛んでいった誠の安否を確認せずにその場から移動していった。
一発KO。勝者は、誰が見ても鈴華なのであった。
「爆発オニの力、もっと使いてぇな」
そう口にして、鈴華は笑みを浮かべる。
───爆発オニ 安土鈴華。
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
11.爆発オニは、自らに爆発的な破壊力を備えることが可能。
12.爆発オニは、ゲーム終了時に最低2人殺害していないと死亡する。
***
「───あ、が...」
なんとか、なんとか息を吸うために喘ぐように呼吸をするのは誠であった。
鈴華に殴られた彼であったが、タガーナイフが2つ盾になってくれたことにより、その攻撃の直撃は避けられた。ナイフを持っていた両腕の骨は、そのパンチの力によって折れており、木々にぶつかった背中がぶつかって痺れて動けていなかった。だけど、彼はギリギリ生き延びていたのだ。
流石は、第二の主人公と言えるだろうか。
死亡するほどの怪我ではないが、もう両腕が破壊されている以上、誰かと戦うこともできないだろう。
そもそも、もう既に誠は疲弊しており誰と戦う程の力を有していない。
1つ、幸いなことがあったとすれば鈴華のパンチの衝撃で、持っていたタガーナイフがさらにどこかに飛んでいったために、誠がそれにより命が奪われることは無くなったと言うことだった。
「───安土は...危険だ。アイツは、全員を殺すつもりでいるし...全員を殺せる実力を持っている...」
誰かに忠告しようと、誰かに忠告しなければと本能でそう思っているのか、誰もいない虚空にそう話しかける誠。
───そのまま、静かに意識を落としていった。
幸い、爆発オニは爆弾が譲渡されたり、触れられたら死ぬタイプではない。
その圧倒的な破壊に耐えることができれば、生存は可能なのだ。
───今回、鈴華は完全に「殺した」と思っていたし、タガーナイフが無ければ実際に誠は腹部にポッカリと穴が開いて死んでいただろう。
マスコット大先生により任された「爆発オニ」の力を持ってして、誰も鈴華を止めることはできない。
───さて、役者は揃った。最終決戦が、始まる。