6月19日 その⑬
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
───数十分程時は遡り。
これは、第6ゲーム『件の爆弾』が開始してから、24時間が経過してマスコット大先生がデスゲーム参加者への妨害として場所の移動を行った際の話。
「───ッ!ここは───」
「なーんだ、私と同じ場所に転移されたのは歌穂ちゃんだったか」
「───ッ!」
その聞き慣れた敵意を認知して、歌穂はすぐに声から距離を取る。振り向いた先にいたのは、歌穂が思った通りの人物───現在、生徒会メンバーである茉裕に操られて協力させられている沙紀であった。
「沙紀...どうしてここに!」
「さぁ、私だって知らないよ。マスコット大先生は完全にランダムで場所の振り分けを行ってるだろうから。ほら、変なところ平等で律儀でしょ?」
「───」
歌穂は、沙紀の言葉を警戒しながらそう聴く。周囲にいるのが一人とは限らない。沙紀はそんな言葉で歌穂のことを安心させようと思っているのかもしれないが、まだ伏兵がいる可能性だって十分にありえるのだ。
「───どうやら、私への警戒心は無くならないみたいだね」
「当たり前じゃない。沙紀はアタシの───アタシ達の敵だもの」
いつもの歌穂であれば、「叫び声が聴きたい」などと言って沙紀に襲いかかっていただろう。だけど、転移してすぐに周囲が安全かどうかもわからずに沙紀に飛びつくほど、歌穂は馬鹿ではなかった。
沙紀の手に、ピッケルが持たれていることも重なり、歌穂は行動しづらくなっている。
「敵、ねぇ...」
「えぇ、敵よ。信夫を殺したこと、忘れてないんだから」
歌穂は、そう口にする。歌穂は、奏汰と共に信夫の爆弾解除の為に尽力していた。だけど、それも虚しく失敗し、信夫は死亡したのである。
「じゃあ、敵討ちでもするの?」
「いや、別に」
沙紀の質問に、歌穂はそう答える。そして、こう続けた。
「かのイギリスの登山家、ジョージ・マロリーは『なぜ、山に登るのか。そこに、山があるからだ』と答えた。ならば、アタシはこう答えたい。『なぜ、人を殺すのか。そこに、人がいるからだ』」
死ぬのが人の───生物の運命だというのであれば、死ぬのが人の本質であるとするのであれば、それを追求したい。
そんな、歌穂の死へ対する興味関心が。誰かを殺すことへの好奇心が、沙紀へと襲いかかる。
「馬鹿だね。タッチされたら死ぬって言うのに」
沙紀は、歌穂の行動を馬鹿にするかのように笑う。実際、歌穂の行っている行動はあまり賢い行動だとは言えないだろう。
このまま、沙紀と勝負せずに逃げればよかったものの、歌穂は沙紀に正面から勝負を挑んでいる。
だから、それがアホらしい。だが、それが歌穂らしい。
「殺すッ!」
そう口にした歌穂が狙うのは、沙紀───ではなく、沙紀が持つピッケルであった。
「武器さえ無ければお前は無力!」
そんな言葉と同時、歌穂は沙紀に一切触れることなくそのピッケルに蹴りを入れる。
「───ッ!」
もし当たりどころが悪ければ、逆に歌穂の足が斬られてその場から動けなくなることもあっただろうに、歌穂はそんなこと臆せずに、ピッケルに蹴りを入れた。
そのまま、ピッケルは沙紀の腕から抜けて宙を舞う。
「───ピッケルが」
そんなことを口にする沙紀のすぐ横で、宙を舞うピッケルをキャッチするのは歌穂であった。彼女は、右手でピッケルをキャッチした後に、両足で着地して、グルリと体を180度回転させて沙紀の方を見る。
「沙紀、アタシは信夫から聴いたよ?5回以上爆弾を解除されたら、死亡するんでしょ?じゃあ、大人しくしておけばいいじゃない。そうすれば、死なないんだから」
「それは───できないッ!」
沙紀には、茉裕からの命令がある。たとえ自分自身が死んででも一人でも多くの人物を殺せ───と。
「じゃあ、来なよ。武器がない状態で、どれだけアタシと殺りあえるかな?」
そう口にする歌穂。彼女は「なぜ、人を殺すのか。そこに、人がいるからだ」などと大口を叩いたくせに、真っ先にピッケルを狙い、それを奪う───などという卑怯な手段を使用した歌穂だが、殺し合いにスポーツマンシップも、ルールブックも存在しない。
歌穂は、奪い取ったピッケルを剣道の竹刀を握るかのような形で握った。その持ち方は、不正解なような気もするが、やはりピッケルの握り方にルールブックもバイブルも存在しない。
そんな変な構えをする歌穂を見て、武器を失った沙紀は動き出す。
───1発。
次に振られる1発を沙紀が避け、歌穂に触れさえすれば歌穂の動きを止めることができる。
「ていやッ!」
そんな声を出して、ピッケルを刀のように振り下ろす歌穂。だが、沙紀はそのピッケルをいとも簡単に避ける。
「───死ねッ!」
そんなことを口にして、歌穂に手を伸ばす沙紀。これにより、歌穂はタッチされて動きが止められ時限爆弾を付けられてしまう───
───と誰もが思った矢先、ニヤリと笑みを浮かべるのは歌穂であった。
それと同時、歌穂は勢いよく空中へと転げる。
「───ッ!」
何が起こったのか、簡単だった。
歌穂が、ピッケルをその本来の用途であるつるはしのように───いや、突き刺した相手が岩や氷山ではないので、クワのように地面に突き刺し、そのまま、前へと倒れ込むようにして空中で一回転したのだった。
その反動で、地面に突き刺さったピッケルは抜けて抉れた地面が宙で踊る。
そしてそのまま、すぐさま体勢を立て直した歌穂がピッケルを振るい、歌穂の目の下に横一文字の紅い一本の線を付けた。
「───中々やるじゃない」
「まだまだやるわ。たかだかこのくらいで満足しないことね」
───最終決戦手前、沙紀のウォーミングアップは始まったばかりのようであった。