6月19日 その⑫
マスコッ鳥大先生に咥えながら行われていた空の旅の終わりも、そろそろ近付いてきていたようだった。
その証拠に、マスコッ鳥大先生はどんどん高度を下げてどこかへと着地を決めたようだった。
上空から見て、円形の島のどこに着地するのか───
「───って、嘘」
俺の1秒前の思考を、一瞬で否定するかのようにしてマスコッ鳥大先生は俺を海の向こうへと連れて行こうとする。
「おい、待て!待て!そっちは海だ!何も見えない!」
もし、海を泳いだ先にある島国になんて連れて行かれてしまったら、俺は稜を助けることができなくなってしまう。
どうか、皆と隔離することだけはしないでくれ───などと願いながら、海の上を飛んでいるマスコッ鳥大先生に身を委ねていると───
”ビキッ”
マスコッ鳥大先生の、嘴が何かに接触して俺に衝撃が走る。空中には、マスコッ鳥大先生以外何もいないはずなのに、何もないはずなのに何かと接触した。
「何が...」
俺は、一瞬落下しそうになりつつもしっかりとマスコッ鳥大先生の嘴にしがみついてその衝撃を耐えた。
マスコッ鳥大先生は、俺を咥えながら大きく旋回して、先程何かとぶつかったようなところに再度体当たりをしては、何かが割れるような音を世界に響かせる。
3度目の体当たりを行おうとしている時に、俺はマスコッ鳥大先生が何を行おうとしているのか理解した。
「───空間を、割っている?」
そんな事実に気付いたと同時、3度目の体当たりが行われて、それと同時に空間に亀裂が生まれる。
マスコッ鳥大先生は、空間を割って何を企んでいるのか。
それはきっと、このゲームを混乱させるような良からぬことなのだろう───などと考えていると、4度目の体当たりがされて、より亀裂が大きくなる。
そして、そのまま旋回して5度目のタックルが行われると同時に───
”バリンッ”
空間が割れる。大きな穴が生じて、そこに、もう1つの島が出てきたのだった。先程まで海だったところに、島が現れてこれまで円形だった第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場に繋がるように出てきた。
───と、そんなことを思っていると俺はマスコッ鳥大先生の口からポロリと落ちて、落下してしまう。
「───ッ!ここまで来て落下死なんざ、笑えねぇ!」
俺がそう口にして、なんとか海に落ちれるように───20mを優に超えるような高さでは、海に落ちても大打撃は免れないだろうが新しくでてきた地面に落ちるよりかはマシだろう。
そんなことを思って、海に落ちようと調整するけれども結局はマスコッ鳥大先生にその爪で背中を掴まれて回収されたので、難なく九死に一生を得た。
「全く、落とさないでくれよ...」
「キエエエエエエ!」
俺に返事をするかのように、マスコッ鳥大先生は甲高い声で声を上げた。
そして、マスコッ鳥大先生は俺を掴みながら新天地へと着地したのだった。
「キエエエエ!」
そう鳴いたマスコッ鳥大先生は、着地した後にそう鳴いて俺の方へ走ってきた。
「───まさか、獲物だと思われてる?」
猫には、しとめた獲物で遊ぶという習性があるとされているが、まさかマスコッ鳥大先生にもそんな習性があるのだろうか。
「クッソォ!逃げるしかないのかよ!」
俺はそう口にして、マスコッ鳥大先生から逃げる。こうして、新天地が出来たのであれば良くも悪くもそこに誰か集まってくるだろう。
稜がここに来てくれるのを願って、俺はマスコッ鳥大先生から逃げる。
───最終決戦には欠かせない、池本栄というこの物語の主人公は、こうして最初に最終決戦の参加者に名を刻んだのだった。
***
「全く、好き勝手できる権限を与えたのは私ですが、こうも好き勝手やるとは...」
四次元にて、そう口にするのは鳥ではなく人間。マスコット大先生であった。
「鳥だから───と馬鹿にしていましたが、こうして私の四次元を操る技術を使用するとなると、馬鹿にではできませんね...」
マスコッ鳥大先生は、栄がデスゲームを行っている三次元とはまた別の三次元から連れてきた怪鳥である。
分類としては、こっくりさんや蛇神及び龍神ナーガと同じであろう。
───と、ここで話しておきたいのはマスコット大先生は朱雀・玄武・青龍・白虎という中国の「四獣」をイメージした生物を連れてきていることだ。
こっくりさんは玄武、龍神ナーガは青龍。そして、今回のマスコッ鳥大先生は朱雀───といった形で、四獣と共通性のある生物を選んで使役していたのだ。
それは、完全にマスコット大先生の趣味であり何かが封印されているわけでも、四獣を全員倒せば何かが解放されるわけでもない。完全に、マスコット大先生の趣味として使用されているのだ。
「って、この世の全てに伏線があり理由があるなどと考えるなんて馬鹿馬鹿しいですからね。偶然だなんて言葉がありますが、起こるか起こらないかなんて、YESかNOの1/2なんですから」
マスコット大先生は、誰もいない空間でそう語りかける。
奇跡は起こらない───いや、性格には奇跡は無い。
全ては、誰かが仕組んだ事象。それは、過去も未来も今も識る、一人の人物の手によるものであった。