6月19日 その⑩
皇斗により、栄が空中に投げ出され、マスコッ鳥大先生に誘拐された時。
第6ゲーム『件の爆弾』の会場の中心にいた蒼と康太、そして皇斗の3人は、怪鳥の存在と、その乱入に驚きを隠せていなかった。
「なっ、なっ、なっ何?!今の鳥はぁ!」
「わ、わからん!栄が連れて行かれたぞッ!」
「マスコッ鳥大先生だ!余でも速すぎて追いつけない!」
蒼がアイデンティティである語尾を忘れるほどに驚き、康太が栄が誘拐されたことに驚き、皇斗がその鳥の名称と、特徴をそれぞれ一言で説明する。
皇斗は、第6ゲーム『件の爆弾』の開始時、誠を救出する際に沙紀と茉裕の2人をコテンパンにした際に、マスコッ鳥大先生の姿を見ていたのだ。
だから、彼はその怪鳥の存在に焦ることこそしなかったものの、栄が連れて行かれることは完全に思考の範疇の外であったらしく、半瞬思考を止めたものの、すぐにその足を動かしていた。
「は、走って追いつかない程の鳥を追いかけるのかピョン!?」
「当たり前だ、元はと言えば蒼。お前が投げろと言ったんだ。このまま行けば、貴様も生徒会メンバーの可能性が濃くなるぞ?」
蒼が、飛んでいくマスコッ鳥大先生の方向を見て、そう告げる。それに対し、皇斗がそう口にすると───
「あは、バレちゃったら仕方ないピョン」
「───ッ!」
蒼は、一瞬でまとう空気を変える。それは、近くに立っていた康太を振り向かせ、皇斗を後方に下げさせるには十分な程のオーラ。
「そう、僕は生徒会───」
「蒼、お前ッ!」
「───だと思われちゃうピョン!そんなの死んでもゴメンだピョン!だから、どうにかして栄きゅんを助けに行きたいピョン!」
「「───」」
栄が連れ拐われて、2人目の生徒会メンバーが判明───と思ったが、全ては蒼の悪ふざけ。
蒼は、ウルウルとした目で皇斗の方を見て、栄を助けて欲しいと懇願する。
「お願いだピョン!僕と一緒に栄きゅんを助けようピョン!」
「全く、貴様は掴みどころのないやつだ...」
「ちょっと!それはウサギじゃなくてウナギだピョン!」
「そんなことはどうでもいいだろ、俺達はすぐに栄を追うべきじゃないのか?」
「そうだな。マスコッ鳥大先生を使役していたのは茉裕であった。余が最初に見た時は、沙紀を助けに茉裕が乗っていた」
「───」
結局、ここでも生徒会が関わってくるのか───などと皇斗は生徒会との戦いを憂慮しながら行動を開始する。
そして、3人はマスコッ鳥大先生を追い、生徒会メンバーとの戦いを想定しながら動き始めたのだった───。
***
───そんな、生徒会メンバーの中で唯一判明している茉裕がどこにいるのか。
その答えは、用意に出せる。何故ならば、デスゲーム開始から24時間目に行われたマスコット大先生の妨害により、茉裕の場所も移動させられて、近くに転移された人がこの物語のメインヒロイン───智恵だったのだから。
「───茉裕」
茉裕は、自らの名を呼ぶ声の主を───智恵の方を見る。
「智恵。こんなところで会うなんて偶然ね。必然だけど」
「栄は、栄はどこに行ったの?」
「知らない。私は誰と誰を同じ場所に転移するかなんて決める権利は持っていないもの」
「───」
智恵は、その言葉を聴いて怯えつつもシュンとする。
そして、茉裕のことを目に含めながら、ジリジリと茉裕から距離を取る。
「逃げるなら好きにしなよ。私も正直に言うと、智恵と一緒で良かったって安心してる」
「───どうして?」
「そんなの決まってるじゃん。智恵は戦うような力を持ってないんだから。ここで、皇斗とか愛香が来てたら困ってたな。特に愛香とは敵対してるし」
「───」
智恵は、茉裕に「お前は戦うこともできないお荷物だ」などとバカにされたような感覚を覚える。
だけど、実際に智恵に誰かと戦うような力を持っていないことは事実であったし、栄のお荷物になっていることも気付いていた。
「私は弱い...でも、何も持ってないってことは茉裕もある程度は弱いってことでしょ?」
「───」
「茉裕は、何か特別な力を持ってるらしいけれど...それは私も一緒だよ。九条撫子っていう生徒会の先輩に言わせれば、私は七つの大罪を全て持ってるらしいの」
「だから?智恵はその使い方を知っているの?」
茉裕のもっともな質問。智恵は、小さく首を振る。
「使い方はわからない。だけど、何かしら役に立つはず!」
そう口にして、智恵は動き出す。自分も少しでも栄の役に立つように───
「自惚れ」
その時、茉裕がそんなことを口にする。それと同時に、智恵の腹部を殴る。
「───かはっ」
殴られた影響で、智恵はそのまま後方に退いた後にその場に倒れた。
今の攻撃はなんだったのか、智恵にはわからない。きっと、初見じゃ誰もがわからず対処不可能だろう。
智恵は、腹部を襲う痛みと戦いながら、自らを見下してくる茉裕の方を見る。
「───殺してもいいけれど、智恵は悪運が強いようね。だから、殺そうとしたらまた誰か来るかもしれない。だから私は、ここから消えるわよ」
「───ま、待って...」
「待たない」
そう口にして、茉裕はスタスタと智恵の前から去っていく。智恵が起き上がる頃には、もう既に茉裕の姿はどこにも無かったのだった。