6月19日 その⑨
「───では栄。投げるぞ?」
「お、おう...」
俺と皇斗の周囲5mから、蒼と康太が離れる。
康太は、蒼の意見を否定も肯定もせずにただ静かに見守っているだけだったし、あたかも蒼は俺と稜のことを考えているという雰囲気を醸し出していたので、俺も皇斗も反論できていなかったのである。
蒼は、完全に俺が空中に投げられて暇なし逆バンジーをさせられるところが見たいだけであろうが、誰もそれを止められない。
「栄きゅん!頑張るピョン!僕は応援してるピョン!」
「これ、投げられたら他の人も───俺達を狙ってる沙紀を来るんじゃないか?」
「そんなことは気にせずに、お空の旅へと3・2・1!」
その言葉と同時に、俺を抱きかかえた皇斗が空を飛ぶ。蒼のカウントダウンは唐突であったが、流石は天才・森宮皇斗。正確無比のジャンプを行い、俺と共に空へ飛ぶ。
「皇斗も飛ぶのか?」
「いや、高度を出すにはこうしたかった」
「え」
その言葉と同時、空中で俺が空へと投げられる。そして俺は、更にさらに上へと飛んでいくのだ。
「すげぇ、高いッ!」
周囲の木々を超える程の高さまで、俺は投げられる。流石は皇斗だ───などと思う。
「稜、いるかぁぁぁ!」
俺は、声を大にして叫ぶ。地上から何メートルも上に上がるわけではないし、そんなに目立つわけではない。だから、せめて稜に伝わってもらうために大きな声を出すのだ。
1分1秒だって惜しい。俺は、どうにかして稜と出会いたい。だから───
「キエエエエエエエエエエ!」
「───ッ!」
その時、俺の後方から甲高い声が聴こえてくる。空中だから身動きも取れずに振り向くことだってできない。
何が来たのか───と不安になっていたその時、俺の背中に固いものが当たり───
「───キョエエエ!」
俺は、何らかの生物の嘴に捉えられた。その生物は、マスコット大先生と同じ被り物をして、本来口がある部分からその嘴を生やしていた。
「マスコット大先生───の、鳥?!」
「いえいえ、この子はマスコッ鳥大先生ですよ。池本栄君」
「その声はッ!」
俺は、胴体をマスコッ鳥大先生に食べられながら、その声の主の姿の方を見ようとする。だけど、体が咥えられているため体をそこまで動かせないためにその声の主の方を見ることはできなかった。
だが、その声の主は確実にマスコッ鳥大先生の背中に乗っており、その聞き馴染みのある声と俺のことをフルネーム+君で呼ぶ人物など、俺はこの世に1人しか───いや、正確にはこの世にその名称を持つ人にしか会った事がなかった。そう───
「───マスコット大先生!」
「アナタのことを池本栄君などと、フルネーム+君と呼ぶ───などと説明するのであれば、池本朗という括りにするのが一番ですよ。マスコット大先生と言う呼び方では、マスコット先生が省かれてしまいますから」
「でも結局、同一人物でしょう」
「中身が一緒なら、DIOとボーボボは同一人物ということになりますよ」
「わかった、訂正!」
まさか、DIOとボボボーボ・ボーボボの声優が同じ子安武人さんだったとは。
「まぁ、確かにボーボボはパン類が好きですので、食べたパンの数を覚えてないのも納得ですね」
「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?(自問)」
───と、そんなことはどうでもいい。
「それで、俺はどこに連れて行かれるんですか?マスコット大先生はゲームに介入しないんじゃないんですか?」
「はい、私はゲームに介入しないので伝えません」
「は?じゃあ、この鳥は───」
「おっと、すみません。伝え方が悪かったですね。私自身は、ゲームに介入しないので、これがどこに向かっているなんて伝えません。ていうか、私自身知りません。だけど、このマスコッ鳥大先生は、とある生徒会メンバーに───もう正体は割れてるんでぶっちゃけると園田茉裕さんに貸し付けた───いや、違う。正確には、操られた状態なのです」
「は、はぁ...」
「んまぁ、池本栄君は面談でその能力のことを話したので伝えますが、私がマスコッ鳥大先生を自慢するために園田茉裕さんに見せびらかしたら、餌付けされて好意を持ったらしく...」
「そっちのミスじゃないですか!」
「まぁ、しょうがないですね。人間誰しもミスはあります。なにせ私は、人間なんですから」
マスコッ鳥大先生なる怪鳥がいるのは、何も思うところはないのか───などと思いつつ、俺はヌルヌルする嘴の中でジッと着陸を耐えていた。
「───と、話の続きを。このマスコッ鳥大先生はゲームに大きく関わってしまっているので、平等の為にも説明をしておきます。マスコッ鳥大先生は、先程も言ったとおりに園田茉裕さんに操られています。池本栄君を食べるような行為をするとは思いませんが、私自身何をしでかすかわかりません」
「んなっ、わかりません───って!まとめサイトじゃないんですからしっかりしてくださいよ!」
俺はマスコット大先生にそう抗議の声をあげるけれども、その頃にはもうマスコット大先生はいない。
伝えたいことを伝え終わったようだった。全く……。
「───はぁ...もう知らん。連れてくところまで連れて行け...」
俺は静かにそう呟き、第6ゲーム『件の爆弾』の上を飛ぶのであった。