6月19日 その⑧
───俺は、蒼とデスゲーム会場を走りながら、稜を探している。
「クッソ、どこに...どこにいるんだよ...」
「そんな闇雲に探したところで見つかるはずないピョン。目立ってでも、もっと探しやすい方法にしないと」
「そんなこと言われたって、どうするんだよ...目立つ方法って...」
「うーん、具体的な方法を求められても困るピョン。デカい声で、騒ぐ───だなんて言っても、この森だピョン。声は吸い込まれるように消えて行きそうピョン...」
蒼も、真面目に考えてくれているようだった。
「そうだ、僕がセクシーな格好をしたら皆寄ってくると思うピョン!」
2秒前のことは訂正しよう。蒼に、真面目に考えるなどという行為は無理だ。
「栄きゅん、最近僕に対して失礼じゃないピョン?僕をそんないじめて楽しいピョン?」
蒼は、俺に対してそう抗議してくるけれども気にしない。
「全く、失礼しちゃうピョン。僕のことを馬鹿にしちゃって。僕はか弱いか弱いウサギなのに」
「ウサギじゃなくて人間だろ」
「あ、間違えたピョン。てへぺろ」
「はぁ...全く...」
蒼と一緒にいるペースが狂わされる。なんだか、先程までの緊迫した空気も蒼によって全て無に返されてしまった。
───と、俺と蒼の2人は、12時間前にマスコット大先生が食事を配っていた第6ゲーム『件の爆弾』のデスゲーム会場の中心である草原に出た。
「真ん中───誰かいるピョン」
「本当だ。行ってみる?」
「そうピョンね。僕の耳で音を聞いて、誰か探るって手もあるピョン」
「え、ウサギだから耳が良い───とかあるの?」
「いや?」
「無いのかよ。じゃあ、とっとと行くぞ」
「ぴょーん」
そして、俺はデスゲームの会場の中心に行く。そこにいたのは───
「やはり栄であったか」
そこにいたのは、皇斗と康太であった。「こうと」と「こうた」という一文字違いのペアが、ここに誕生していた。
でもまぁ、今思えば「りお」と「りか」だったりと、他にも1文字違いの人は他にもいたりする。
「久しぶり。皇斗」
「久しぶり?前に余と話したのは一週間程前の6月11日のはずだが?」
「なんだか、2ヶ月くらい前の気がして」
「2ヶ月前───まだ、デスゲームが始まってすぐではないか。第3ゲーム『パートナーガター』をやっていた頃は、それ以上に関わりは薄かった気がするが...」
本当に久々に皇斗と話したような気分だったが、期間的には一週間くらいしか空いていない。
どうしてこんな感覚になったのだろうか───などと思いつつ、それは昨日今日のデスゲームがかなり長く感じるから───という結論を付けた。
「───と、そうだピョン。僕、いいことを思いついたピョン?」
「いいこと?」
俺は、蒼に問う。
「今から、皇斗に空高くまで投げてキャッチしてもらえばいいピョン。栄は、それで大きな声を出してアピールをすればいいピョン」
「でもさっき大きな声は届かないって───」
「栄、大切なのは気持ちピョン。届かないって思ったら、何も届かなくなっちゃうピョン!」
蒼が、ウルウルした目でそんなことを口にするけれども、その作戦が成功する可能性は低い。
「えー、俺が投げられるの?」
「そうだピョン!それがいいと思うピョン!稜を助けたいんでしょ?やるしかないピョン!」
なんだか、蒼は俺が空中に投げられるのを見て楽しもうとしているようにしか感じないのだが、でもそれしか作戦はない。
「何の話か理解できないんだけれども、とりあえず栄が何らかの理由で稜を探していることはわかった。先程の転移で、色々と問題が発生したのだろう」
「あぁ、そうだ」
「稜と会ってどうするつもりなんだ?」
「移動型爆弾を受け取る」
「───は?」
「そういうことか」
俺が正直に答えると、康太は驚いて皇斗は納得する。
どうやら、皇斗は「稜」と「移動型爆弾」の2つを考えて何か理解したようだった。
「───って、皇斗は移動型爆弾のことを知ってるの?」
「あ、あぁ...それはさっき俺が話したんだ。移動型爆弾を受け取るってどういうことだ?もう24時間経過してる、いつ爆発するかわからないんだぞ?」
「だからだよ。稜は心優しいから誰にも爆弾を渡せない。俺がなんとか回収して、誰かに渡すんだ」
「誰かに渡すって...」
「大丈夫。ちゃんとした人には渡さない。渡すとしても、茉裕や沙紀だ」
「あー、そういうことから理解した。そこに蓮也も加えておいてくれ」
康太が、ナチュラルに蓮也を殺そうとしているので、俺は何も言えなくなってしまう。
でも、「誰かを殺した」という点では、蓮也も同じく「悪人」に含まれるべきなのだろうか。
もし、それで俺が爆弾を渡したら、俺も「悪人」になってしまうのだろうか。
───まぁ、今はそんなことで悩んでる暇はない。
「てことで、皇斗きゅん!栄きゅんのことを投げて欲しいピョン!」
「余は別に構わんが...栄はそれでいいのか?」
「仕方ない。稜を見つけるためなら、投げてくれ」
「わかった。では、投げさせていただく」
───こうして、俺は皇斗の手で空高く投げられることが決定したのだった。意味がわからない。