6月19日 その⑦
マスコット大先生の仕掛けにより、稜は拓人と2人、海岸の近くにまで飛ばされていた。
そこで稜は拓人に、自らに移動型爆弾が宿されていることを伝えたのだった。
「稜に爆弾が...あるのか」
拓人はそう口にして、数歩後ろに下がる。その目は、警戒するもので今すぐにでも逃げられるように体勢を整えた。が───
「稜がこうして話してくれた───って言うことは、オレを捕まえるつもりはないんだろう?」
「あぁ。拓人に───というか、誰にも爆弾を渡すつもりはないよ」
「やっぱり。なんだか、稜らしい答えだな」
拓人も、稜の優しさを知っているのですぐに稜の真意を理解する。
「───だが、稜は死んじゃう。それでいいのか?」
拓人の問いかけに、稜は数秒考えた後にハッキリと頷いた。
「あぁ、栄は何とかする───と言ったけれど、こうして別れてしまった以上どうすることも不可能だ。だからもう、俺は諦めたよ」
「───」
稜のそんな言葉。実際、稜は諦めていた。
栄と別れてしまったのだ。この広いデスゲーム会場で、爆発するまでの間に出会うことができない方が確率としては高いだろう。
「───違うだろ、稜。お前が諦めたら駄目だろ」
「───え」
稜の言葉に突っかかりがあったのか、拓人はそう口にする。
「栄はまだ諦めてないはずだ───いや、栄なら絶対に諦めてない。絶対、稜を助けるために動いているはずだ。それなのに、稜が諦めてどうする!」
「でも...」
「考えてみろよ、栄は離れ離れになった程度で諦めるようなやつか?」
「───」
稜が思い出すのは、これまでの栄の行動だった。
例え敵が膨大で最強だろうと、未確認生物であろうと、栄は何度だって立ち向かった。
自分が怪我をすることが解っていようと、仲間を助けるために行動していた。
───が、それは稜の「自己犠牲精神」とは大きく違っていた。
栄の行動には、「自分の死」を避けて行動していた。その理由の半分は自己防衛本能であるだろうが、残りの半分は自分が死んだら智恵等の友達や仲間が悲しむから───と、誰かを想った上での理由であった。
「稜が、ここで諦めて止まって良い訳がない。オレは稜の優しさを知っている。オレも協力してやるから、栄を探しに行くぞ!」
「わかった。諦めない!でも...どこに栄がいるんだ。もう俺の中にある移動型爆弾はいつ爆発するかわからない!」
「栄がいる場所なんかオレにもわからない。それは栄側も一緒だ!だから、我武者羅に探して、我武者羅に生き延びるぞ!」
「───わかった!」
拓人が先行して、走り出す。稜も、それに付いていった。
───全ては、稜のために。
こうして、拓人は走っていく中で、また別の不安があった。
それは、恋人である梨花のことだった。先程まで一緒にいた梨花はどこに行ってしまったのだろうか───などと、友達を救う間にも、恋人への憂慮は持ち続けるのであった。
***
───拓人の恋人である梨花が移動したのは、森林の中。
そこにいたのは、第5回デスゲーム参加者の女子の中で最も強くて最も傲慢であろう人物───森愛香であった。
「───どうして、愛香ちゃんが...って、拓人は?」
「どうして───だと?それは妾の台詞だ。先程まで栄と稜の2人と共に駆け抜けていたと言うのに、どうして貴様が妾の目の前にいる」
「わからないのはお互い様よ!」
「まぁ、最初はわからずとも聡明な妾であれば予想することなど用意だ。時間を考えても、マスコットの妨害であろう」
「妨害───あぁ、発光みたいな?」
「そうだ。いかにもマスコットの好みそうな事だろう?」
「それは───そうね。ゲームの最後で、こうして場所を変えてくるのは性格が悪いし、マスコット大先生が好きそう」
最後の方になると、第6ゲーム『件の爆弾』も停滞してきて、色々と慢性化してくるだろう。
それこそ、全員木の中に隠れていれば広大なかくれんぼが始まってしまうだけなのである。
だから、そんなゲームを活性化するためにもマスコット大先生はランダムに人の場所を変えたのだろう。
「───と、妾も動いたほうがいいだろうか」
「何の話よ?」
「いや、貴様には関係ない」
「え、教えてくれてもいいじゃない!勿体ぶっちゃって」
「貴様には関係な話だ。下賤な男が女心がわからぬように、妾達女にはわからぬ男の友情というものがあるのだよ」
「それってアタシのことが下賤な女だっていいたいの?」
「それでは、妾も下賤になってしまうだろう。別に貴様だけ下賤でも、妾は気にしないのだがな」
「解せん...」
───と、そう口を交わして愛香は動き出した。
今回は、愛香も栄や稜の為に動くようだった。
昨日今日の夜での態度に色々恩を感じていたのかもしれないし、彼女の完全な気まぐれで動いてるのかもしれない。
愛香の心情は、愛香以外にはわからないのだ。
そう、誰かの心情なんて「男」も「女」も関係なく、他人にはわからないのである。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ワタシを1人にしないで!」
「付いてくるのは自由だが、付いてこられなくなったからといって文句は言うなよ」
愛香はそう口にして、梨花が付いてくることを───いや、梨花が自由に行動することを承諾した。
そして、愛香と梨花は2人で行動することになったのだ。
もちろん、その目的は栄や稜と合流するためである。