6月19日 その⑥
「───蒼」
俺は、一瞬で自らの身に起こった現象について理解する。
現在時刻午前9時。第6ゲーム『件の爆弾』が開始してから、24時間が経過した。
24時間───それは、マスコット大先生が俺達に何か妨害を施してくる時間だった。
これまで発光だったり食事の配布・降雨だったりとその場での妨害が続いていたが、まさか最後の妨害───というのも、30時間目はデスゲームの終了であるので、今回が最後の妨害である───のだが、まさかゲーム開始時と同じように完全ランダムに俺達を会場内を転移させるとは思ってもいなかった。
だから、こうしてこのデスゲームの最中で一度も出会ったこともない蒼が目の前にいるのだ。
「どうしたんだピョン?僕の名前をそんな必死に呼んで。僕とそんなに会いたかったピョン?」
そう口にする蒼。今の蒼の存在は、ハッキリ言ってしまうが俺の集中力を削いでくる邪魔な存在だった。
だがまぁ、裕翔ではないだけマシと考えていいだろうか。
「───って、今僕に対して失礼な考えをしていたピョン!全く、失礼しちゃうピョン」
「蒼、すまない。静かにしててくれ」
「───わかったピョン...」
蒼は、聞き分けができる人間だ。ピョンピョンとウサギの真似をしているだけあって、耳がいいのだろうか───などと、今は蒼のことはどうでもいい。
今問題なのは、折角合流できた稜や智恵とバラバラになってしまったことだった。
「えっと、えっと...とりあえず今の目的はなんだ?俺は...何をすればいいんだ?」
俺は、どうにかして状況を整理する。すぐに状況把握ができたものの、それにより焦ってしまっている自分がいたのだ。
まず、一番大きな問題としては24時間が過ぎてしまったからルールの「9.移動型爆弾オニの爆弾は、ゲーム開始から24時間経過以降、ランダムなタイミングで爆発する」に則り、これから完全ランダムなタイミングで爆発するということだろう。
これは、誰かに譲渡したと同時に爆発するかもしれないし、28時間目で爆発するかもしれない。もしkしたら、24時間になったと同時に爆発したかもしれない───などという、様々な不安要素が残ってしまっていた。
「まずは...稜との再会だ。そして、他の誰かに───できれば、茉裕などに爆弾を渡す。人は選り好みしないほうがいいだろうな」
「爆弾を渡す───って、何の話ピョン?」
「蒼。危険だが、俺に付いてくるか?」
「詳しく話を聞きたいんだけど───」
「移動中に話す。付いてくるか付いてこないか選べ。5秒以内に返事をしなかったら、NOだと判断して俺は移動する」
俺は、蒼に対してそう口にする。ほとんど情報がない状態であったから、俺は結局虱潰しに動き出すことしかできないのだけれど、それでも動かないと気は済まなかった。まずは、ここから草原の方にでも出て稜を探すしかないだろう。
「面白そうだから、僕も付いて行くピョン」
蒼は、5秒も経たないうちにそう結論を出した。楽しそうだから───という理由で行動するのは、少し蒼らしいだろう。
「じゃあ、付いてこい!」
「わかったピョン、まずは目的地を教えて欲しいピョン!」
「稜のところだ!」
「稜きゅん...どこにいるピョン?」
「わからない!」
「はぁ?!」
蒼のそんな驚く声。でも、当たり前だろう。
まだ、マスコット大先生により場所が変えられて1分も経っていない。
誰がどこにいる───だなんて把握できないのは当然だった。
稜がどこかにいるかを探す。それこそが俺の最大の目標だった。さて、俺の探し求める稜はどこにいるのだろうか───。
***
「───は?」
稜が転移したのは、砂浜の上だった。先程までとは全く違う光景に、稜は思わず驚いてしまう。
「うおッ、梨花と行動してたのに。どうして稜が?」
稜の近くにいたのは、柏木拓人であった。梨花と付き合っている彼は、梨花と2人で行動していたんだろう。
だけど、マスコット大先生の転移はそれをも壊してしまったのである。
「拓人か、俺達は何が起こったんだ?」
「何が起こったかはわからない。でも、察するにマスコット大先生の悪戯だろうよ」
拓人は、マスコット大先生の施す仕掛けのことを「悪戯」と呼称した。栄は「妨害」と呼称していたので、この呼称にはかなり人の性格が出るようだった。
「そっか...そうなのか...」
稜は、栄に爆弾を託そうとしていたもののそれができずに少し焦っていた。
稜だって、できれば自分を爆弾で殺したくないのだ。あくまで、自分以外に死んでいい人物が存在していないから、自らが死ぬという選択をしているだけで、誰も死なない平和な世界なるのであれば、それを選択したいと思っているのだ。
「栄があそこまで言うのであれば、俺は信じられたのに...」
「栄がどうかしたのか?」
「───いや、なんでもない。それより俺に近づかないほうがいいよ。俺は今、いつ爆発するかわからない移動型爆弾を持っている」
「───ッ!」
稜は、正直に拓人にそう答えた。稜が素直にそう口にするのも、誰かに爆弾を渡す気がないからであろう。
───マスコット大先生の仕掛けにより、デスゲームはさらに混乱していくのだった。