6月19日 その③
祝500話!
まだまだ続きます、これからもよろしくお願いします!
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
8.移動型爆弾オニは、触れた人物に爆弾を移動させることができる。尚、触れられた人物が触れた人物に爆弾を返すことは不可能である。
9.移動型爆弾オニの爆弾は、ゲーム開始から24時間経過以降、ランダムなタイミングで爆発する。
10.移動型爆弾オニは、その性質上敗北条件はない。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場に広がっている森林の中。
山田稜───俺は、静かな夜に見張りをしながら1人思案する。
「俺は、このまま移動型爆弾を持って死んだほうがいいんじゃないか」
稜は、自分にコンプレックスを持っているわけではない。
それに、自分が役立たずだとも誰かに迷惑をかけているとも厭世観があるわけでも、デスゲームにビビってしまっているわけでもない。
彼が、死んだほうがいい───などと、思ってしまうのは彼のその過去にあった。
***
───俺は、生まれながらに病弱だった。
それこそ、幼少期は何度も何度も熱を出して両親を不安にさせてしまった。
それに、4歳の頃から小学校を卒業するような年齢までのほとんどの時間を、俺は病院で過ごしていた。
入退院を繰り返し、小学校にまともに通うこともできなかった俺は、ほとんど友達を作ることができなかったし、公立の中学にそのまま進級した俺にも、ほとんど友達はできなかった。
まぁ、中学校に通う───と行っても、それはほとんど保健室登校だったから、友達ができるはずもないのだけれど。
俺のそんな病弱な体質も、今ではほとんど収まってきた。
高校にあがってからは、俺の体もそれなりに免疫力が付いたのか高熱だったり入院だったりをしなくなったりしたので、しっかり教室で授業を受けるようになったのだった。
そうすれば、入院や保健室登校でほとんど人とは関われなかったけれど、看護師や先生とは話していたので、そのコミュ力で浅く広い友達を作った。
───と、気になるのはどうして俺が帝国大学附属高校に来たのかだろう。
俺は、子供の頃に入退院を繰り返していたこともあり医者に憧れたのだ。
でもまぁ、両親を除き一番親身に接してくれたのが医者だ。俺が医者を目指すのは特別おかしいことじゃないだろう。
帝国大学の医学部は、日本で一番優秀な医者を多く輩出していることで有名だったので、俺もそこを目指すことにしたのだ。
───が、帝国大学附属高校は、なんとデスゲームの会場だったのだ。
なんともひどい話である。俺の夢を馬鹿にするどころか、嘲笑うのだった。
俺は、そんなマスコット大先生を許せないが、それと同時にデスゲームに行き続ける自分が嫌だったのだ。
だって、俺が目指すのは医者だ。医者は、人を生かす職業だ。
それだというのに、デスゲームで生き残って医者になって本当に、誰かに誇れるような医者になれるのだろうか。
俺は、自分自身が誇れる医者になれるとは思わなかった。それに、俺は生まれながらに病弱な体質だ。
今は収まっているけれども、いつそれが再発するかなんてわからない。
だから、死ぬのであれば俺でいいのだ。
必ず1人、移動型爆弾で死ぬ必要があるのであれば、それは俺でいい。
───そうすれば、俺は誰か1人を生かすことができるのだから。
***
稜は、寝ている栄を見て静かに考える。
栄は、この帝国大学附属高校で一番最初にできた友達であり、稜の親友だった。
「───栄、お前は俺に{英雄は人を───自分を傷付ける人物を指すんじゃない。英雄は、人を笑顔にする人物のことだ}って言ってくれたけどよ」
稜は、第一回試験の際に栄が言ってくれた言葉を思い出す。
そして、その時に言えなかった───言わなかった言葉を、弱音をつい口にしてしまう。
「誰か1人の代わりに俺が死んだら、その人はきっと心のなかでは笑顔なんだ。助かった───そう思うんだよ。俺の人助けは...俺自身を犠牲にすることでしかできないんだよ」
それが、稜の本音だった。そして、稜の弱音だった。
「ごめんな、栄。俺にとっての一番の友達は栄だよ。俺は栄に会えて幸せだった」
稜は、そう口にする。稜はもう、全てを諦めたような目をしていた。
「最後に、約束を破るような真似をしてごめん。俺は...こうするしかないんだ」
稜の目からは、小さく涙がこぼれる。稜は、それをゴシゴシと拭き取って、こう口にした。
「俺は、俺を傷つけることでしか、誰かを幸せにできないんだ」
そんな言葉と同時、稜はその場から走り出した。
第6ゲーム『件の爆弾』を囲むように広がっている海から、太陽が顔を出していた。
現在時刻午前5時。それと41分。
───稜は、栄達の前から姿を消した。
***
───なんだか、嫌な予感がした。
だから池本栄───俺は、パッと目を覚ました。既に、朝日は上がっておりベッドで寝ていないからか体が痛い。
時計を確認すると
時刻は午前6時53分。もうすぐ7時───という状況だった。
「んん...もう、朝か...」
俺が伸びをすると、骨がきしむような音がする。あまり、寝心地はよくないし目覚めも悪い。
だがまぁ、完全な野宿なのだし仕方ないだろう。
「───って、あれ。稜は?」
俺は、見張りとしてお願いしていた稜の姿が目に入らなかったので少し歩いて探す。
───が、稜の姿は全く見当たらないのだった。
「稜が...いなくなった?」
俺の嫌な予感は───稜の失踪は、現実となって俺に襲いかかってきたのである。