4月1日 その②
ガタゴトガタゴト。体が揺れる。
ガタゴトガタゴト。心が揺れる。
深く、深く、深く。意識が吸い込まれていく。そんな、揺れ。
───だが、心地よい、そんな微弱な揺れが止まってしまう。
それと同時に、俺の意識は段々と覚醒していく。
───俺は一体、何時間寝ていたのだろうか。
数時間寝たような感覚もすれば、ほんの数分しか寝ていないような感覚もする。
夢───というか、昔の回想と言うのが正しいのだが、昨年度まで同じ学校に通っていた仲間の顔が思い浮かんだ。
「一年は、会えないな...」
昨年度末に、別れは済ましてきた。だから、もう泣かない。
浩一おじさんと別れた涙は、もう流れていなかった。バックミラーで自らの顔を確認すると、涙の跡さえも消えていた。
「どのくらい、寝ていましたか?」
顔が見えぬ、運転手に問う。唯一こちらから見えるその手には、白い手袋がされている。
「10分ほど、ですね。もう、到着しましたよ。降りてください」
「あ、はい。ありがとうございました」
「───」
運転手の方は、返事をくれなかった。俺は、お礼を言っただけで車を降りた。
キャリーバッグを取り出そうとすると───、
「キャリーケースはこちらで寮に運んでしまいますので」
「あ、いたれりつくせりですみません。ありがとうございます」
「───。仕事ですので」
どこか、冷たい運転手の心が、俺の胸の中に響いた。反響する運転手の声に、感情は感じられなかった。
「池本栄さん。A棟の2階が教室です。そこに、向かってください」
「あ、はい。分かりました」
運転手に、行く場所を指示される。自動で、後部座席のドアが閉まり出発してしまった。
「───すごい...学校だな」
俺は、校門の前に立つ。姫路城のように白い壁をした学校が2棟と、体育館らしき建物が見えた。学校の塀の外には、3つのアパートのような建物が見える。奥にあるのは、屋内の温水プールだろうか。
「金がかかってる。浩一おじさんには感謝しないと」
「君も、今来たところかい?」
不意に、後ろから声をかけられる。振り向くと、そこにいたのは一人の少年。
顔立ちが整っている少年。身長は、俺と同じくらいだ───おっと、俺の身長は176cmだ。
「えっと...」
「俺の名前は山田稜。君もA棟の2階に?」
「あ、うん。そうだよ。俺の名前は池本栄。年齢は、17歳」
「高校3年生なんだから、大抵は17歳だろ」
山田稜君は笑ってくれる。
「えっと...山田君は───」
「稜って呼んでいいよ」
「え?」
「クラスメートになるんでしょ?なら、稜でいいよ」
「りょ、稜はどうしてこの学校に入ろうと思ったの?」
「そうだなぁ...鍛えられるのは頭くらい、だったから?」
稜から教えてもらった答え。だが、俺にはよく理解できなかった。
推察するとなると、体が弱い───ということだろうか。いずれにせよ、抽象的なことなのは変わりがない。
「教室、行こっか」
「あ、うん」
俺は、稜の隣を歩く。フレンドリーな稜がいてよかった。もしかしたら、教室で孤立してしまうかもしれないし。
グラウンドを突っ切って、俺達2人はA棟の入り口に到着する。「A」と壁に大々的に赤い文字で書かれていたのですぐに理解ができた。
「靴は...ビニール袋に入れて持っていけ。だってさ」
「そうみたいだね」
俺は、置いてあったビニール袋の中に履いていた靴を入れる。そして、予め用意していた上履きを履く。
「それじゃ、2階に行こうか」
「うん」
俺は稜と共に、2階にあがる。
「栄は、どうしてこの学校に入ろうと思ったの?」
俺が、稜にした質問と同じ質問をされる。俺が先に問うたのだから、俺も答えるのが道理というものだ。
「勉強が、したかったからかな?」
「これはまた、抽象的な」
「上手く、説明することができないんだ。だから、あらましを話す。俺は、両親が失踪して叔父さんの家に住んでいたんだ。高校卒業後は働こうと思ったんだけど、これに参加を勧誘する話が来て...おじさんに行きたいなら行けって言われたから」
「へぇ...なんだか、大変そうなんだな」
生半可な同情。会って数分の奴にこんな話をさせられても困るだろう。
「ごめんね、新学期の最初の最初にこんな重い話をして」
「いや、俺が聞いたことだから」
俺たちは、教室に到着した。2階の教室は一つだけで、他は空き教室だ。
「3ーΑ」と、クラスプレートには書かれていた。
「A組、みたいだな」
俺は、そう声をかけた。
「うん、そうだね」
教室には、色々な生徒がいた。教室の中にいる生徒は、皆席に座っている。
「俺はどこに───、」
「白板に貼ってある、名前のところに座ればいいわよ」
最前列に座っている金髪の女性。肌は、雪のように白い彼女はそう教えてくれた。
「出席番号順みたいね」
そう、彼女は付け加えた。俺の名前は───あった。
出席番号は五十音順であり4番。席は、廊下側の前から4番目であった。
「ここが...俺の席かな?」
左隣には、お世辞にも可愛いとは言い難い女子が座っていた。もちろん、沈黙に包まれている教室。喋りに行くなんてことは起こらない。他にも、教室の周りを眺めてみる。洋書を読んでいる美女や、いかにもスケバンといった女子生徒もいた。男は───イケメンが多い印象を受ける。まぁ、男子の俺が男子の顔の点数を適確に付けれるかと言ったら怪しいけれど。
稜の方を見る。稜は、窓側から2番目の最後列であった。ここからは遠いな。
───まずは、席が近い友達を作らなければ。
そう、思っていると一人の少年が部屋に入ってくる。その少年は、金髪の少女から俺たちと同じような説明を聞き、座席を確認すると俺の目の前に座った。
「よぉ、よろしくな」
その少年は、沈黙を打ち破るかのように声をかけてきた。
デスゲーム開始まで、少々準備させてね。
なお、これまで主人公に天才要素なし。
3話は、3月1日17時に投稿です。