6月19日 その②
6月19日午前3時。デスゲーム開始から、18時間目。
見張りの為に起床している俺達の頬や肩にポツポツと振り始めたのは、雨であった。
「雨───か」
マスコット大先生からの放送はない。
だけど、それがマスコット大先生が用意した6時間おきに起こされる仕掛けであることを、俺達は一瞬で理解することができた。
「ここは第6ゲーム『件の爆弾』の会場だ。っていうか、俺達の校舎のあるところでも、雨が降ったことなんかない。だから、これはマスコット大先生が用意したものだと思う」
「奇遇だな、妾もそう考えておった」
愛香と意見が重なるということは、それ即ち正解───ということでいいだろう。
俺の腕時計を目を凝らしてみると午前3時を表していたし、タイミング的にも丁度いい。
まさか、マスコット大先生が寝落ちして───だなんてないだろう。
「放送がないのは、マスコットが寝ている人を起こさないようにするため───とかであろう」
「そうだな。マスコット大先生は変なところで律儀だからな」
まぁ、この雨がマスコット大先生のよるものだとか、完全に自然現象とかどうでもいい。
問題は、この雨をどう対処するかだ。
「───って、ほとんど雨は気にしなくて良さそうだな」
「ああ、幸い皆が寝ているところは雨に当たらないところになっているからな。栄の案ずる問題も無さそうだ」
いつもの愛香なら、寝ている他の人のことなど考えなかったのかもしれないが、今日は違うようだった。
もしかしたら、暗いのが怖くて俺に縋っているのを見られるのは少し恥ずかしいのかもしれない。
「───と、おい。今妾に対して失礼な想像を働かせなかったか?貴様の血で雨を降らせるぞ」
「物騒すぎる」
「涅槃になるためには修行が必要だ。するぞ」
「仏僧すぎる」
「───」
「なんだよ、もうネタ切れか?」
「すまん、考えていた」
「熟考すぎる」
───だなんて、くだらない会話をしながら、俺達は雨に打たれない木の下に移動した。
「でも、この雨じゃ近付いてくる人の足音がわからなくて危険だね」
「そうだな。どんどん強くなっている。ゲリラ豪雨に分類されるだろうか」
「うん、そうなるだろうね」
俺は、愛香とそんな話をしながら、今もまだ再会できていない智恵に対して思いを馳せる。
今、智恵はどこで何をしているのだろうか。誰かと合流できているのだろうか。
俺には何もかもわからなかった。
ちゃんとご飯を食べれただろうかとか、ちゃんと眠れているだろうか───などと、なんだか母親のような不安を抱えながら、智恵のことを想っていた。
───そして、雨は1時間ほど降り続ける。
足元が、グチョグチョになったのをしかめながら俺は、4時から6時まで見張りとして動いてくれる稜を起こしたのだった。
「稜、起きてくれ」
───と、俺が稜に触れた時に俺の体に移動型爆弾が宿ってしまう。
「あ、まずいかも...」
別に、まだ爆発する時間ではないが、稜に何かと言われてしまいそうだ。とりあえず、稜を起こしてから、愛香を介して爆弾を返却しよう。
そんなことを思いつつ、俺は稜を起こす。
「───ああ、もうそんな時間か...かなりグッスリ眠れたよ...」
稜は、目を擦りながらそう口にする。
「稜、起こす時に触れて爆弾を貰っちゃった。返すから待っててくれ」
「───あ、うん。わかった」
「愛香、手伝ってくれ」
「は?どうして妾がそんな茶番に付き合わねばならん。どうせ、明日殴り合うのだろう?」
「それはそうだけども...」
「お願いだ。愛香、俺に爆弾を返してくれ」
稜が、愛香にそうお願いする。
「───仕方ない。面倒だが、稜に貸し1つな」
「あぁ、それでいい。返せるかはわからないけどな」
「ふん。爆発して死ね」
「おい、愛香!そんな言い方はないだろ!」
俺は、稜を悪く言った愛香にキレる。でも、こうして怒るのもおかしくはないだろう。
だって、稜は俺の大切な親友なんだから。
「俺は稜を殺させない。だから、愛香はその言葉を取り消せ」
「───すまん」
俺の激昂に、愛香はいつも通り抵抗してくることなく素直に謝罪する。
暗闇の中で弱っているのか、本当に彼女が申し訳なく思っているのか俺はわからないが、愛香は確かに謝罪した。
「そんなことより、だ。とっとと妾に爆弾を渡せ。稜に返すんだから」
「あぁ、わかったよ」
俺は、愛香に触れて爆弾を渡す。そして、愛香はすぐに稜に触れて爆弾を稜に変換したのだった。
そして、愛香はパンパンと手をはたく。
「───」
その汚いものを触ったかのような態度に、俺はイラッと来たが仕事をしてくれた愛香に対して怒っても何も意味はないだろう。
「それじゃ、稜。見張りはお願いするよ」
「あぁ、任せてくれ。ちゃんと仕事は行うよ」
そう口にして、俺は稜と遠隔グータッチをした。
───そして、俺と愛香は眠ることにした。
愛香が俺の手を触れようとしたけれども、俺はそれを拒んだ後に触れられた部分をはたいた。
まぁ、要するに愛香が行ったことの仕返しだった。
愛香は、若干驚き弱ったような目をしていたけれども、俺がハッキリと「嫌だ」と拒むと、彼女はシュンとしてその場に小さく丸まってしまったのだった。
いじめすぎたかもしれないので、流石に愛香から離れることはしなかった。