閑話 6月18日-EX
誰も死んでないから、過去回想をいれる気持ちにならなかった。
だから、唯一の居残りの話をどうぞ。
夜。
───第5回生徒会メンバーが、第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場で爆弾を押し付けたり、受け渡したりと騙している間、1人従来のデスゲーム会場に残されていたのは柊紫陽花であった。
「全く...愛香がいないと暇じゃのう...」
彼女はそんなことを口にして、校舎に忍び込んでは本来は入れないはずの屋上に移動する。
彼女が、どうして屋上に入れているのかと言うと、理由は単純で4回の窓から上へ飛び上がったのである。
常人の行動ではないが、柊紫陽花は少なくとも常人ではない。
彼女の───というか、デスゲームに参加している人物は大抵常人ではないので、気にしてはいけないのである。
「靫蔓風に言うとパワーインフレ───というやつだな」
紫陽花は、そう呟いた。声は決して小さく消え入りそうなものではなかったが、誰一人としていない空間だ。
そんな声は、星一つない夜空に溶けて消えてなくなる。
「愛香は今、デスゲームをしているのだろうか...」
紫陽花は、自らを拾ってくれた愛香のことを考える。紫陽花もまた、愛香の暗所恐怖症については知っていたので、色々と考えるところはあったのだ。
夜空を見て、そんなことを呟く。きっと、愛香の見ている空と紫陽花の見ている空は繋がっていないだろう。
現在、第6ゲーム『件の爆弾』が行われている会場は、このデスゲームの会場は別の三次元である。
「───紫陽花、まさか後輩ちゃんに同情しちゃってるの?」
「───撫子か。久々だな」
九条撫子は紫陽花の後方に現れてそう口にする。その後方には、深海ケ原牡丹もいた。
廣井大和大和と、鬼龍院靫蔓は既に死んでいるから、現存する第3回デスゲーム参加者が大集合だ。
「久々って言っても、1ヶ月くらいだけどね」
「前までは毎日一緒だったからな。長く感じるんだ」
「そうね。紫陽花は、戻って気にくくなっちゃったもんね...」
撫子は、そう口にする。
「なぁ、撫子。お主は妾を咎めるか?」
「どうして?」
「マスコットを───池本朗を裏切ったからだ」
「別に。咎めようとは思わないわ」
「どうして?」
「え、私達何年一緒にいると思ってるの?もう、とっくの昔から紫陽花が靫蔓のことが好きなことくらい気付いてるわよ」
「そうだったの?!」
「・-・・ ・・・- --・-・ ・・-・・ ・-・・・ ・---・ ・-・-- ・- -・--・ ・・-・・ ・-・・・ -・・-・ ・-・-- -・--・ -・・ ・・- ・-・・ ・・ ・-・・・ ・・-・・ ・・ ・-・- -・-・・」
「バレていたというのか...恥ずかしい...」
紫陽花は、そんなことを口にしてその場にしゃがみ込む。もうすぐ三十路の3人だけど、まだまだ色恋沙汰でキャッキャできるような年齢だった。
「靫蔓を想う紫陽花の気持ちを咎めることなんて、私にはできないわ。そんなことをしていたら、『嫉妬』の称号を自らもらうところだったわ。まぁ、恋愛にうつつを抜かす紫陽花には『色欲』の称号をくれてやってもいいけれど」
撫子はそんなことを口にしながら、しゃがみこむ紫陽花の背中に手をおいた。
「マスコット大先生が紫陽花を殺していないということは、まだなにか企みがあるのかもしれないし、アナタを何かに利用しようとしているのはほぼ確実でしょうけれども、一つ忠告よ」
「何だ?妾に忠告とは」
「先輩には───第2回生徒会メンバーには合わないほうがいいわ。特に大神天上天下にはね。結構苛ついてるわよ」
「───そうか。忠告ありがとう撫子」
「別に。友達として必要最低限のことをしただけよ。牡丹も、話したいことがあれば話しておけば?」
「・ ・・ ・--・ -・-・」
「別に───って、アンタねぇ...」
撫子は、何も喋ろうとしない牡丹に対してため息を付くけれど、深海ケ原牡丹がほとんど何も喋らないのはいつものことだったので、何も気にすることはなかった。
「───それじゃ、私達は帰るから。バイバイ」
「-・・・ ・・ ・- -・・・ ・・ ・-」
そう口にして、紫陽花の返事を聴く前に2人は屋上を後にしていく。
「───2人共、帰っていってしまったか。まぁ、よい。妾だって会おうと思えばまた会える」
彼女はそう口にして、屋上からふと飛び降りた。
彼女は、その重力に抵抗する方法も、衝突に耐えるような強靭な肉体も持っていなかった。
もし、これを常人が行えば自殺になってしまうだろう。
───が、柊紫陽花という女は銃弾が8発の銃弾に襲われて尚、生き残るほどの豪運。
常人であれば飛び降り自殺となるその行為も、柊紫陽花が行えば運良く着地ができ、運良くダメージが地面に分散できてしまうのだった。
彼女の豪運は、否応なしに発動して、時に求めていない結果を引き寄せる可能性があった。
紫陽花の目的は、死んだ靫蔓をマスコット大先生の四次元パワーで復活させて愛を伝えること。
そんな彼女の目的が達成するまで、その豪運でなんとか生き延びる必要があるのだ。
紫陽花の恋路は、相手が死ぬくらいじゃ分かつことができない。
───まだまだ、彼女は愛を追い続けるのであった。