6月18日 その㊱
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
目の前には、沙紀。その手にはピッケル。
俺達の命をいとも簡単奪り取る形をしたそのピッケルは、沙紀の手にしっかりと握られてケタケタと笑っていた。
「今のを避けるとは...火事場の馬鹿力ってところかしら」
「いや、違う。信夫が助けてくれたんだ」
「───馬鹿馬鹿しいわね。信夫は死んだんだから、助けるわけないでしょう」
沙紀はそう口にして、再度俺の方へ迫ってくる。
先程のようにギリギリ避ける───だなんて死の淵で倒立するようなことはしたくないので俺は早めに見切って移動した。
───が、バックに真胡を置いておくのは忘れない。
”ブンッ”
俺の体を真っ二つにする勢いで振られたピッケルは、俺が早めに避けたことにより地面には直撃せずにそのまま地面へと突き刺さる。そのピッケルが抜かれた地面は、抉れていたのだが、このピッケルがぶつかったら俺はどうなってしまうのか───考えるだけでもゾッとする。
「───」
沙紀は、何も言葉にせずにそのまま俺の避けた方向にピッケルを振るう。俺は、それを後方に移動することで避け、ピッケルを完全に振るった沙紀の脇を通ってその後方へ移動する。
「ちょこまかちょこまかと!さっきの一撃を当てられなかったのが悔やまれる!」
沙紀はそんなことを口にして、鉱石を取るかのような感じでピッケルを天高く掲げる。もし、これが昼なら陽光が反射してキラキラと光っていたかもしれないが、現在は真夜中だ。
星の1つさえも見えない吸い込まれてしまいそうな夜空では、その漆黒がピッケルを包むばかりであった。
「───っと」
「───ッ!」
俺の方へ振るわれたピッケル。それを避けるように行動した俺だが、それはブラフ。
───空中でピッケルから手を離し、俺の方向へそのか細い腕を伸ばしてきたのだ。
目的はわかっていた。俺をタッチしてしまえば、真胡の動きを止められるのだ。
そしたら、俺と真胡の両方の命を奪り取るができるのだ。
俺が止められてしまえば、俺も真胡も死亡するのは確実だ。だが、俺の方へ伸びてくるその手は止まらない。このまま俺は触れられてしまうのだろうか。いや───
「───諦めて、たまるかよッ!」
信夫は言った。諦めなければ負けないし、諦めなければいつか勝利できる───と。
今回の勝利条件は、沙紀を殺すことではなく俺と真胡がご飯を持って逃げ切ることだった。
諦めさえしなければ、要するに俺は捕まらない。
だから、俺は諦めない───。
そんな、馬鹿みたいな根性論であったが、神は───というか信夫は俺達を見放さなかった。
俺の方へ伸びてくる手を、俺はなんとか避けきって沙紀と距離を取った。
グサリと、ピッケルが地面に深く突き刺さる音が聞こえ、俺の心臓はヒュッと音を鳴らす。
「───本当にチマチマと...」
沙紀は先程から、似たようなことを口にして似たような動きしかしていない。
沙紀はそのまま俺の方向へ移動して、また鎌を振り───
「───なんてね」
「───ッ!」
俺が避けようと後方に下がった矢先、沙紀は体を曲げて動けない真胡の方へ走り出す。
俺は、攻撃される───と思っていたから、沙紀の攻撃を完全に避ける体勢に入っていたので、回避行動に失敗してしまう。
俺は、後方に飛んでしまったので真胡を助けようと体を動かすものの必然、沙紀よりも遅れてしまう。
「真胡!」
俺は、真胡の名前を呼ぶけれども真胡を動かすことはできない。
そのまま真胡の首が沙紀によって切られて───
「───よしッ!」
「───何ッ!」
───しまう前に、5分が経過する。
沙紀が、時間を計るのをミスしたのだった。
この戦闘中、時計を見れるようなタイミングなど一度もなかった。要は、沙紀は感覚で時間を把握していたのだ。
沙紀は、もうすぐ5分が経つ───というタイミングで栄にフェイントを入れて、真胡の首を急いで刎ねようとしたけれども、体内時計が狂っていたために失敗。
体内時計が狂った要因は、最初に殴られて悶絶されていた時に数えていなかった───というのがあるだろう。真胡に殴られた痛みから、沙紀は5分間数えることができていなかったのだ。
「───動き出すとはッ!」
真胡は、自らの首に向けて振り下ろされるピッケルを前転して避けた後に、再度沙紀の方へ接近する。
沙紀に触れれば、時限爆弾が渡されて、動きが5分止まってしまう。
───が、爆弾を返還する際は別だ。
「反撃、一発ゥゥゥ!」
そんな声と共に、沙紀の腹部に再度めり込むのは、真胡の拳であった。
強烈すぎるそのパンチで、沙紀は再度後方まで吹き飛ぶ。
一発目に食らったパンチは、腹部に当たったと同時に動きが止まったので中途半端なパンチであったが、今回の場合は停止はない。だから、拳はしっかりと伸ばされて全てのダメージが沙紀に重なった。
その結果、沙紀は10m程後方まで吹き飛び転がっていった。
「よし、栄!早くご飯を貰って逃げよう!」
真胡は、そう口にする。俺達2人はビニール袋に入った袋を持って第6ゲーム『件の爆弾』の会場の中心を後にした。マスコット大先生が、走り去っていく俺達の方へ小さく手を振っていたが、気にすることはないだろう。
───夕食は、残り6食分である。