6月18日 その㉛
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
8.移動型爆弾オニは、触れた人物に爆弾を移動させることができる。尚、触れられた人物が触れた人物に爆弾を返すことは不可能である。
9.移動型爆弾オニの爆弾は、ゲーム開始から24時間経過以降、ランダムなタイミングで爆発する。
10.移動型爆弾オニは、その性質上敗北条件はない。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
稜は、宿された移動型爆弾を誰にも渡さずにこのまま爆発して死ぬ───という未来を避けるため、俺は稜との戦闘を開始する。
───と、戦闘と言っても、爆弾を受け取るためには稜にさえ触れてしまえばいいから本格的な殴り合いは行わない。
「───殴り合い...か?俺は触れられないんだけども」
稜は、一瞬の沈黙を破りそう口にする。
「殴り合いだ。友達と言えども、仲間と言えども俺達は何度だって殴り合ってきた」
最初に稜を殴り、稜に殴られたのは『分離戦択』の2回戦『パラジクロロ間欠泉』の終了後、稜が敗北した後に返ってきたところで。
まるで「走れメロス」のような熱い拳で、俺と稜は1発ずつ殴り合った後に友情を再確認した。
そして、2度目は記憶に新しい第一回試験。『友情の天秤』の最中、試験を全員でクリアするために稜のことを何度も殴った。この時、稜と殴り合った訳ではないけれど俺の心は酷く痛んだのだった。
「そうか...そうだな。じゃあ、どちらかが地面に膝を付けるまで勝負だ。栄が勝ったら爆弾を好きにしていい。でも、俺が勝ったら純介を媒介にして俺に爆弾を返せ」
稜は、そう提案する。『件の爆弾』には「触れられた人物が触れた人物に爆弾を返すことは不可能である」というルールがあるからこその内容だろう。
「え、僕...」
「あぁ、純介だ。純介であれば、俺に爆弾を返してくれる───そうだろう?」
「───」
稜の問いかけに、純介は返事をしない。きっと、答えが既に決まっていたとしてもこれに即答してしまうのには躊躇いがあったのだろう。少々迷ったような表情を見せた後に、純介は小さく頷いた。
「待って...待ってよ!殴り合うの?どうして!」
「そ...そうだよ、栄も稜も仲良くしてよ...」
不安そうな声を出すのは、梨央と紬の2人だった。
「梨央、紬。怖がらせてすまん。だけど、俺は誰にも死んでほしくないんだ」
「でも、そしたら稜が死んじゃう!ワタシは嫌だよ!」
「俺だってできることなら死にたくない...でも、誰かが死んじゃうのは確定なんだ。移動型爆弾は、必ず誰かを殺すんだ」
「じゃあ、稜じゃなくても───」
「俺は、誰にも死んで欲しくない。そう何度も言ったはずだ。死なせないためにも、爆弾は死守する」
「でも...」
「梨央、下がろう。僕達に出る幕はない」
純介はそう口にして、梨央と紬・真胡の3人を下げさせる。純介も、稜を説得することは不可能だと理解したようだった。だから、俺の勝利に賭けてくれた。
「これで安全に何不自由無く戦える。さぁ、勝負だ」
「───稜、優しいな」
「───え?」
「普通の人は、爆弾を保持しようとする人なんかいないし、殴り合いをするのにも誰かが巻き添えにならないために後ろに下げさせる───だなんてことはしない」
「そう...なのかもな。でも、傷ついて欲しくないから」
「優しい...優しいよ」
「───誰も傷つかないために、栄には傷ついてもらうよ」
「あぁ、そうしてくれ。それで稜を救えるのなら俺は本望だ」
その言葉と同時、俺と稜は同時に動き始める。間合いを一気に詰めてきた稜は、俺の顔面めがけて拳を振るう。
「───ッ!」
俺は、その拳を受け止めようとするも一瞬で不可能だと判断。体を仰け反らせて稜が放った顔面パンチを回避する。
「避ける───かッ!」
稜の拳を避けた俺は、その伸びた拳を首の真横に感じつつ稜の胸部へ拳をぶつけた。そして、稜に接触したことにより再度俺に移動型爆弾は移動してくる。
「ック」
稜は、俺に胸部を殴られたためにその場から数歩後退して距離を取る。だが、すぐに立ち直して俺のすぐに向かってきた。
「───」
稜が狙うは、腹。俺は、後ろに逃げようとするけれども稜は俺の腕をガッチリと掴み俺を逃がそうとしない。
そのまま、俺の腹部に拳がめり込みやってくるのは大打撃。
体が痺れるように震え、その場に立っているのが辛くなる。だけど、稜から爆弾を奪うためには膝を付けるわけにはいかない。負けるわけにはいかない。
俺は、反撃しようとするけれども左腕を、稜の左腕に掴まれているような状態。至近距離で俺達は殴り合っているような状態。反撃しようとした俺は、その至近距離のあまり右腕も掴まれてしまう。
両腕を掴み合い、その場で転ばせようとする俺と稜。稜が提示したのは、膝をついたら負け───という敗北の条件だけ。この殴り合いで勝者は生まれない。相手が膝をついても「負けなかった」だけであり、勝利したわけではない。
そんな後味の悪い勝負を行う俺達でも、「膝をついたら負け」というルール一つのためだけに沈思黙考しているのだ。
俺は、稜に対して飛びかかり全体重を稜に委ねる。それにより稜は、頭から倒れるようにして地面に転げた。
俺は、地面に膝を付けないよう稜の体で膝を守りながら、稜の頭を両手で守って地面に倒れた。
そのまま、俺達2人は抱き合うような形で坂道でもない森林をゴロゴロと数回転げて、俺が下になるような形で止まった。
「上は取ったぞ」
「だからどうした。膝が下を向いてる分、そっちが不利だ」
そう口にしたと同時、稜の足に自らの足を絡めて膝を地面につける。
「───稜、これは俺の勝ちか?」
「いいや...まだ俺は負けてない」
俺は稜の両膝を地面に付いているのに、稜は負けを認めない。
稜が、誰かを殺したくないという気持ちは本当なのだ。どれだけ俺がボコボコにして稜が膝を地面につけて倒れても、稜は負けを認めないだろう。
───だから、俺は稜に一つの提案をする。
「爆弾が爆発するまではまだ12時間以上ある。明日の朝7時に、もう一回勝負だ。それなら文句はないだろう?」
移動型爆弾が効力を発揮するのは、翌日───19日の午前9時から。正直に言ってしまえば、こんな爆弾の押し付け合いは、まだまだ消化試合なのだった。
「───しょうがない。それならいいよ」
───こうして、俺と稜は一回手を打ったのだった。
俺と稜の醜い戦いは、休戦という形に終わり、俺は純介を媒介に稜に爆弾を返したのだった。
通りすがりのBL作家「イケメン男子2人が森林の中で抱き合って寝っ転がっている...絵になるな」