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6月18日 その㉙

 

 津田信夫が爆発四散する少し前───光を失った第6ゲーム『件の爆弾』を失ったデスゲーム参加者である歌穂と奏汰の2人は、別々の方向から沙紀の前へと姿を現し、立ち塞がった。


「───やっと、来たのね。でももう、信夫を助ける時間は無いんじゃない?」

「さぁな。信夫の場所はもう沙紀にもわからないはずだ。ここから猛突進してくれば信夫は助かる───そう思わないか?」

「思わない。私にとっては、2人に爆弾を植え付けられるチャンスだとしか思ってない」

 沙紀は、奏汰に対してそう言い返す。


「アタシ、沙紀の叫び声が聞きたいな。生徒会の沙紀は、どんな叫び声を聞かせてくれるの?」

「生徒会...」

 生徒会という単語に引っかかる沙紀。沙紀自身は、生徒会ではなく生徒会メンバーである茉裕に操られて「生徒会メンバー」を自称しろと言われているのだ。そんな沙紀に対して歌穂は、襲いかかろうとする。が───


「歌穂、抑えろ。迂闊に動くと時限爆弾の餌食だ」

 奏汰の言葉により、歌穂はピタリと動きを止めて元の位置に戻る。


「あなた達2人の目的は、私を殺すこと───ではなく、私の動きを止めること。殺すのは危険───そう察知したようね」

「あぁ、正解だよ。殺すのは危険。無理に責める必要もない」


 奏汰と歌穂の2人は、信夫を助けるために沙紀の動きを止めるのだ。ピッケルを持つ沙紀に、近距離で勝負を挑むのは危険だし、触れられて爆弾を手に入れてしまう危険性もあった。


 奏汰は、柔道の達人だから絞め技で極めながら動きを止めてもらえば結局5分後には爆弾は解除される───などと思いつつも、ピッケルという武器を前に攻める勇気はなかった。


 一方の沙紀は、2人を目の前にしてもピッケルを手にせずに余裕そうに笑みを浮かべていた。


 ───沙紀は、歌穂と奏汰が迂闊に攻めてくることはないことをわかっていたのだ。


 あくまで、信夫を助けるための足止め。それで信夫と了承したはずだ。そこに対価があるのか、それとも「友情だ」などと口にして、無料(タダ)で動いているのか沙紀は知らないし、知る由もないし、どちらでもいいが、仕事が足止めである以上、必要以上の攻撃をする人達ではないと踏んだのだ。


「足止めしたいってなら、あなた達に乗ってあげる。どうせ信夫は追いつけないから」

 沙紀はそう口にすると、小さく笑みを浮かべる。そして、奏汰と歌穂とにらみ合い、膠着し続けて2分が経つ。


「そろそろね」

「何が───」

「芸術への昇華」


 ”ドォォォォン”


 デスゲーム会場が震撼する。巨大な音を立てて、灰色の巨大な煙が立ち込め、森の木々の葉を揺らす。

 レクイエムにしてはうるさくて、お焼香にしては大きすぎるその爆発を前に奏汰と歌穂の2人は動けなくなる。


 ───津田信夫の死。


 2人は、森を駆け巡る爆風で髪を揺らし、信夫の死というものを肌で感じた。

 足止めをして尚、信夫は来なかった。作戦失敗。足止め終了───。


「───歌穂ッ!」

 一瞬、奏汰の心中に不快感が生じたと同時に、奏汰は先程まで沙紀が立っていた場所に沙紀がいないことを感じ取る。


 そして、一瞬で歌穂の名前を呼んだ。歌穂も動けないと踏んで。



 ───実際、動けていなかった。


 まるで死神が鎌を持つように、沙紀はそのピッケルを握りしめて歌穂の命を奪り取ろうとしていた。


 ───奏汰の体は、動かない。


 ただ、名前を呼ぶことしかできない。


「───嫌」

 我に返った歌穂が、そんなことを口にする。このまま沙紀に命が奪われる。奇跡というものは起こらないので助けに入ってくる人もいない。

 そのまま歌穂は命を奪われ───



「だなぁ...全く、アタシが弱い女の子みたいじゃない」

「───」

 歌穂は、そのピッケルを両手で真剣白刃取りのように受け止める。もちろん、刃物を手にするのだから、手のひらの皮は裂けて血は流れる。だけど、彼女の命が切り裂かれることは無かったのだ。


「受け止める───だと?」

「アタシは弱い女の子じゃなくて、か弱い女の子」

 そんな言葉を口にして、歌穂は沙紀の腹部を蹴り飛ばす。歌穂がピッケルを押さえたまま沙紀を蹴り上げたので、沙紀はその場でコケるような形になった。


「奏汰、逃げるよ」

「───うん」

 奏汰は、一瞬惑うような動きを見せたものの、すぐにそう返事をした。


「───逃さない」

「別々に!」

「わかった!」

 そう口にして、歌穂と奏汰は別々の方向へ走って逃げていく。歌穂は後方に沙紀を連れて、森の中を全力疾走。皮膚が裂け、両の手の平は真っ赤に染まっているものの、ヂクヂクと刺されるような痛みを、火傷をした時のような痛みを両手から感じるけれども、歌穂はそんなこと気にせずに走って森の中を逃げていく。


 ───そこから20分ほど森の中を走り回り、なんとか沙紀を完全に撒いたのだった。


「はぁ...はぁ...やっと、沙紀を撒けたわね...流石に、ちょっと疲れたわ...」

 歌穂は、息が絶え絶えになりながらもそう口にする。森を半周するような形で逃げてきたので、信夫が文字通り爆死した場所からは随分と離れていた。


「───信夫は...死んだのね」


 信夫の死により、第6ゲーム『件の爆弾』は進展する。

 まだ、第6ゲーム『件の爆弾』は開始してから7時間と30分。


 試合終了の6月19日午後3時までは、まだ20時間以上存在していたのだった。

現在:6月18日16時30分

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとか生き延びましたね。 でも……の死は予想外でした。 なんか少し不憫。 だけどデスゲームですからね。 これも一つの通過儀礼かもしれない。
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