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6月18日 その㉘

前話で腹にボールが当たった最後のシーンで「腹は抉れ、中から内臓がこぼれでる」と表現したのですが、実際には腹は抉れないということなので「車と衝突したような感覚を覚える」と変更しました。

腹に大打撃が加わり、同じく死亡する流れです。


申し訳ありません。

 

「───吾郎?」

 ボールが腹部に当たり、立ち上がらなくなってしまった吾郎に対してワイは声をかける。


 今日は、最高の球が投げられた。最高のコンディションだった。

 それだと言うのに、吾郎に対してデッドボールしてしまう。


「監督!血が出てます!」

「誰か、誰か吾郎君を!」

「おい!救急車に電話しろ!」


 ワイは、動けなかった。吾郎のところへ駆けつけることができなかった。


 ───怖い。


 怪我をさせてしまった。その恐怖と罪悪感により、ワイの体は動かない。

 一瞬の出来事だった。いつものように、ワイはボールを投げた。


 いい調子だった。今日はいつもよりも格段早く投げることができた。速度は217km/h。

 人類最高記録だった。


 ───が、それが認められることはないだろう。


 だって、そのボールに当たった人物が、腹から血を流し倒れているのだから。


 ───結局、熊野吾郎はそのまま体調が優れずに死亡してしまった。


 ボールの衝撃で云々と、駆けつけた医者が説明していたけれども、ワイの頭の中にはそんなこと入ってこなかった。ワイは人を殺したんだ。


 ワイは、殺人者。人殺し。殺人犯。


 逮捕されるのだろうか、そんな言葉が頭の中でグルグル回る。

 人を殺してしまった。ワイが人を殺した。


 ───事故だと処理され、ワイは逮捕されることはなかった。


 球を当てたのはわざとじゃない。たまたま当たりどころが悪く、熊野吾郎は死亡した。

 だから、野球ボールを投げたワイが逮捕されることはない。


 ───その日、2人のプロ野球選手の雛が死んだ。


 熊野吾郎とワイの2人は、先程の事故から片方は肉体的に、片方は精神的に「プロ野球選手」という夢を絶たれた。

 ワイだって、熊野吾郎の死を前にして、プロ野球選手にまで登りつめようとは思わなかったし、プロ野球側も熊野吾郎を殺したワイをチームに入れようとするところなど無かった。


 ワイは、人を殺すかもしれない危険な機械なのである。投げる球は、人の命を刈り取る死神の鎌。

 であるから、ワイを仲間にする人などいなかった。


「───信夫。お前は...野球を続けるのか?」

「監督...」


 事件から3日後、色々と処理が終わったワイに対してそう問うのは監督だった。

「残念だが、もう信夫のことをレギュラーにいれることはできない。事件のことがある。もう一度登板させる───だなんてことは社会体裁の為にもできない」

「───じゃあ...」


「だが、信夫がそれでも尚野球部にいたいと言うのであれば、退部を強制はしない。ベンチにも座らせてやれないが、声を出して応援させることもできないが、野球部に残らせることはできる」

「───ワイは...」

「決断は急がなくていい。好きな方を選べ」


 ワイは、逃げ出したかった。

 野球は大好きで、ワイの人生の全てであったし、実際にワイの人生の9割は野球でできていた。


 ───そんな野球を棄てることは、ワイにはできない。


 それに、熊野吾郎もワイが野球をやめて良しとはしないだろう。

 熊野吾郎の命を、夢を奪っておいておいそれと野球をやめるようじゃ、呪われてしまいそうだった。


「───監督。ワイ、皆の野球を応援させてください。ボールを投げるのは...怖いです。でも、死んだ時に天国に行って熊野吾郎に見せる顔が無いのはもっと怖い!それとも、監督...人を殺したワイは天国に行けませんかね?」

「信夫!そんなこと言うな!あれは事故だった!それと...わかった。じゃあ、退部はしなくていい。皆には俺が説明しておく」

「いいん...ですかね?ワイはともかく、皆はワイがいて怖くないですかね...」

「大丈夫だ。これまで共に闘ってきた仲間だろ?お前のことは皆わかってくれる」


 監督は、そう口にした。


「───迷惑かけてごめんなさい、監督!」

「馬鹿野郎。そういう時はごめんなさいじゃない、ありがとうだ」

「監督...ありがとうございます!」


 ───こうしてワイは、なんとか野球部に残ることになった。


 チームメンバーもクラスメイトも、皆ワイのことを「人殺し」と揶揄することはなかった。

 誰も、何もいじれなかったのだ。熊野吾郎という被害者がいたから。



 ワイは、プロ野球の夢を失ったが、野球をやめるという選択肢も失った。

 そんな時、ワイの家にやってきたのは帝国大学附属高校への推薦だった。


 それにワイは申込み、今いるこのデスゲームまで巻き込まれているのだった。


 ***


 ───そう、これはデスゲーム。


 第6ゲーム『件の爆弾』の真っ最中だった。ワイは、熊野吾郎に罵られる恐怖に耐えながら、体の中に響くピッピッピッと一定の間隔で鳴り続ける爆弾の音を聞いていた。


「こんなところで...死んで、たまるか...」


 ワイは、立ち上がる。

 熊野吾郎を殺したワイは、熊野吾郎の分まで生きなければならない。こんなところで、死んでいる場合じゃない。


「ワイは、生きるんや。沙紀に触れて爆弾を解除して───」


 ”ピー”


 ”ドォォォォン”



 信夫が覚悟を決めた瞬間、信夫の体は爆発四散する。彼の勇気は、沙紀と茉裕に嘲笑われるかのように、黒い煙をあげて空へ舞い上がっていくのだった。




 ───津田信夫、死亡。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 信夫、これは苦しいなあ。 ちなみに自分の知る限りでは、 アマ、プロ野球含めて死球による死亡事故は、 知りませんが、昔のプロ野球で、 投手の投げた暴投が打者の股間に命中して、 ゴールド・ボー…
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