4月3日 その④
「───は?」
死の報告。哀しいという他人事な感情が湧き上がって来てしまう。そして、死を遂げたことによる驚きもあらわになった。
「と、とりあえず服を着て髪を乾かしたらみんなで教室に来て!」
俺は、梨央にそう言われた。そして、梨央は隣の寮───Bチームの4人にも報告しに行った。
「3人を招集しないと!」
俺は、急いで髪を乾かして服を着た後、急いで階段を上がり皆の個室をノックする。
「おい、3人共起きてくれ!おい!」
何回か声をかけつつ部屋のノックをする。
”ガチャ”
「どうしたの...栄?」
若干寝ぼけ眼の純介が部屋の外に出てきた。
「平塚さんが死んだらしい!」
「───死んだ?」
純介が不可解な視線をこちらに向ける。まるで、その情報を疑っているかのような視線。
「梨央からそう連絡が来た。皆を呼んで教室に来てくれって!」
「他の2人は?」
「まだ部屋の中だ!」
俺は、稜の個室のドアをノックした。
”ガチャッ”
「どうした、栄?」
寝癖がついた稜が、部屋から出てきた。純介は、健吾の部屋のドアをノックしているが健吾が出てくる様子は無い。
「健吾...いないの?」
「開けてみようぜ?」
───が、健吾の部屋のドアが開く様子はない。
「部屋が開かない?」
「中から鍵が閉められているの?」
「鍵?そんなの閉められるの?」
「僕にもわからないよ...」
「───ッ!もしかして!」
稜は、俺の部屋のドアを開こうとする。だが、開かない。
「栄、自分の部屋のドアを開けてみてくれ」
「どういう事?」
「いいから!」
鍵をかけていないはずなのに、俺の部屋のドアは開かなかった。
俺は、自分の部屋のドアノブに手を伸ばす。すると───
”ガチャ”
ドアが開き、俺は俺の部屋に入ることができた。
「───つまり、部屋の持ち主以外はその人の部屋のドア開けないってこと?」
「そう...みたいだね...」
「じゃあ、もし仮にドアを閉めた個室で死んだら───」
純介が呟いた仮説。俺らに立つのは鳥肌。
「もしかして!」
”ゴンゴンゴン”
”ゴンゴンゴン”
叩く。俺達はドアを叩く。中で寝ているであろう健吾が起こすためにドアを叩く。
「起きろ!おい、起きろよ!」
本来ならば「寝てるなら起こさないでおこう」と思える。だが、平塚が死んだと梨央に伝えられた後であったのだ。部屋の鍵を解錠した後の健吾の姿を、昨日グラウンドで見た。だから、部屋の鍵の番号がわからず外に出れない訳でもないのだ。
靴は、玄関にあったのだ。健吾の靴はしっかりと。だから、家の中にいるのは明白なんだ。
「そうだ!健吾に電話を!」
俺は、急いでスマホを取り出し「帝国大学附属高校」を開く。
これに、通話機能は無かったので「チャット」で健吾に連絡を取ろうと試みる。直前の会話履歴には「あ」と俺がテストのために送ったメッセージが残されていた。
「起きろ」
そう、メッセージを送る。それを何通も何通も。指がスラスラと動いた。スワイプが早く感じた。
”ガチャッ”
「朝っぱらからうるさいなぁ...こっちは早朝まで走ってたんだよ...」
「健吾!」
部屋の中から出てきたのは、不機嫌そうな健吾だった。
「なんだよ、ドアをドンドン叩いて通知バンバン鳴らして...」
「平塚って人が死んだらしい!」
「───はぁ?」
健吾も疑いの表情を見せる。だが、俺らの真剣な眼差しからこの情報が「ホンモノ」であると感じ取った。
「本当か?」
「梨央からそう聞いた。それに、他のところ寮にも報告にいってるみたい」
「───じゃあ、本当なのかよ...」
「全員揃ったら教室に行けって言われたから、教室に行こう!」
「あぁ?あぁ!」
俺らは急いで寮を飛び出した。靴を履き、寮の鍵を閉めて教室にへと向かう。土曜日くらい学校に行かなくてもいいのではないかとも思ったが、人が死んでしまった以上行かなければならない。
俺はA棟2階にある教室に走る。廊下には、多数の生徒が集まっていた。
「どこに───」
人に聞くまでもなく、平塚ここあさんのであろう死体は教室の複数に分けられつつ机の上に置いてあった。
「おいおい...本当に...」
何の共通点も無くただ複数人の席に四肢と胴・そして頭が分けられて置いてあった。
「あれ、オレの机...」
「あ、俺の机にも!」
健吾の机に左手が置いてあった。指は、稜の机の方を向いていた。
そして、稜の机には右足が置いてあり、足裏は教室の前方右端の方を向いていた。そして、部屋の中心。純介の右隣の席───竹原美玲の席には腰から下と四肢・頭が切り取られた状態の小さな胴が置いてあった。
左足は出席番号6番───宇佐見蒼君の席にあり、右手は出席番号28番三橋明里さんの机においてあった。そして部屋の後方、東堂真胡の席には平塚ここあさんの生首が置いてあった。
「───ッチ。右手なんか私の机に置きやがって。呪われたらどうするのよ。マジで最悪」
そんな事を言うのは、肩甲骨の辺りまで髪を流した三橋明里だった。
机の上に右手を置かれて苛立っている彼女に話しかける勇気はなかった。
「ヤバい...な」
「誰が殺したんだ?」
「おい、皆!こっちの部屋に来てくれ!」
俺らの教室の隣の空き教室からひょっこり顔を出したのは一人の少年───中村康太だった。
「皆、教室と同じ配置で座ってくれ。廊下でざわついていてもなんの得にもならない...」
俺達は、空き教室の中に入っていった。そこに、智恵の姿は見えなかった。





