6月18日 その㉔
───発光が始まって早5分。
どう足掻こうとも光を消すことができないので仕方なく、真胡に許可を貰ってこの光を頼りに智恵らしき影を追っていた時だった。
「あ、栄だ」
「───」
「よぉ、時尚。それと...蓮也か」
俺は、時尚と蓮也と邂逅する。
今回のゲーム、別にチームで行動する必要がないから蓮也は孤立しそう───だとも思ったけど、時尚がペアを組んでくれていたのか。
「光ってるから、誰かな───って思って来ちゃった」
「そうか」
「栄は...智恵ちゃんと一緒じゃないの?」
「あぁ、一度も合流できてなくてさ。つい数分前まで純介とかとも一緒にいたけど、光っている以上オニに見つかりやすいって理由で、少人数の行動に変えたほうがいい───ってさ」
「そうだったんだ...」
「それじゃ、俺達とも一緒に行動してくれないってわけか」
「まぁ、そうだな」
時尚は、何かを言いたそうにしながら俺の方を見つめる。
「どうした?俺の顔に何か付いてる?」
「いや...その...」
時尚の不審な動き。何か言いたいことでもあるのだろうか───
「───ごめんっ!」
その言葉と同時に、俺に触れる時尚。そして───
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
8.移動型爆弾オニは、触れた人物に爆弾を移動させることができる。尚、触れられた人物が触れた人物に爆弾を返すことは不可能である。
9.移動型爆弾オニの爆弾は、ゲーム開始から24時間経過以降、ランダムなタイミングで爆発する。
10.移動型爆弾オニは、その性質上敗北条件はない。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
「───移動型爆弾ッ!」
頭の中に流れてきたルールと、質量こそ感じないが確かに存在する感覚が心に残る移動型爆弾を手に入れて、思わずそう口にしてしまう。
そのまま、時尚と蓮也は走り去っていく。追いつけないスピードではなかったが、追いかける気力はなかった。
「───栄?」
真胡が、恐る恐る俺の名前を呼ぶ。タッチすれば、すぐに爆弾を渡せるけれどもそれをするつもりはなかった。
「───すまん、真胡。爆弾を押し付けられた」
「爆弾を...」
俺は、ゆっくりと真胡の方を向く。
「爆発するのはゲーム開始から24時間経った後───だから、まだ爆発しない。大丈夫だ」
「よかった...じゃあ、問題ないんだ」
「あぁ、まだ後18時間は問題ない。でも、早めに爆弾を押し付けておかないと。そうじゃないと俺が死んじまう」
「そうだね。私も爆弾は嫌だけど───って、爆弾が嫌なのは皆一緒か」
「あぁ、俺も爆弾は嫌だ。それに、誰かを不幸にするのも嫌だ。だけど、誰かに爆弾を押し付けなければならない」
「そう...だね。でも、誰に?」
「まだ決めてない。どうしても死んで欲しくない人以外───要するに、智恵以外の誰かだ」
「───」
俺がこの爆弾から解放されるためには、誰かに爆弾を渡さないといけない。しょうがないから、次に出会った智恵以外の人物に爆弾を渡そう。それが誰であろうとしてもだ。
───その15分後、俺は見知った人物と邂逅する。
「誰かと思ったら、栄ではないか」
俺と真胡の2人を見つけて、声をかけてくるのは愛香であった。
「おぉ、愛香」
爆弾を持っている俺は、愛香に爆弾を渡すかどうか思案する。別に渡してしまっても構わない。
愛香であれば、渡しても許してくれるだろう。
「珍しいな。まさか栄が智恵とまだ合流できていないとは」
「丁度光ってるのをチャンスに合流しようと思ってた。その道中でたまたま愛香を見つけたんだ」
「そうか」
愛香は、いつも通り胸の下で腕を組み仁王立ちをしながら俺の方を見ている。
「───栄、妾に何か隠していることがあるだろう?」
「───え?」
まさか、愛香に爆弾のことがバレているというのか。でも、その素振りはおくびにも出さないようにしていたはず。
「隠していたつもりだろうが、栄は正直者だからな。何か隠し事があればすぐにわかる」
愛香は、そう口にして俺の方へ手を伸ばしてくる。
「え...」
「移動型爆弾でも持っているのだろう?妾が貰ってやる」
「どうして...」
「嫌われ役は、栄には似合うまい」
「───ありがとう」
俺はそう口にして、愛香が差し伸べてくれた手に触れる。そして、爆弾は愛香に移動し、俺はその荷に背負った重荷を愛香に託したのだった。
「貸し1だぞ。妾に感謝しろ」
「あぁ、ありがとう。愛香、ごめんな。嫌われ役を任せてしまって」
「別に妾は、誰に嫌われようと構わない」
「でも俺は、愛香のことが好きだよ」
「───たわけ。栄には智恵がいるだろう。浮気に勘違いされて泣かれるぞ」
「わかってるよ。友達として好きってことだ」
「妾だってそんなことわかっている」
愛香はそう口にすると、移動型爆弾を持ってどこかへ歩いていった。
その背中は、どこか寂しそうでなぜだか嬉しそうだった。