6月18日 その⑳
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
「動けへん...」
時限爆弾オニである沙紀に触れられたことにより、信夫の体は動かなくなる。
───ここから5分間、信夫は回避も防御も反転攻勢もできない時間が始まるのだ。
「信夫、君を殺す。そこで待っておきなさい」
「嫌や...死にたかない!」
信夫がそう口にするけれども、沙紀はそんな声を無視して信夫が投げてどこかに行ってしまったピッケルの方へ移動する。急ぐ必要はない。信夫の動きを止められる時間は、まだ4分以上ある。
───1分ほどかけて、ピッケルの方へ移動してそのピッケルを拾い信夫の方を見る。
「さて、殺してあげるわ」
そんな言葉と共に、沙紀は信夫の方を見てニヤリと笑みを浮かべる。
───開始1時間足らずで行った誠を殺す作戦は失敗。
ルールに記載されている「7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する」という内容に従うのであれば、許されている爆弾解除の数は残り4回だ。
ここで信夫にまだ解除されてしまうと、残り3回になってしまい後がなくなる。
───茉裕に命じられた「生徒会メンバー以外の殺害」という任務をクリアするためにも、信夫の命を今ここで奪っておく必要があるだろう。
「甘かったわね、信夫」
沙紀はそんなことを口にして、信夫の方へと歩みを進めていく。
ピッケルを拾った今、彼女は疾走する。
───信夫は、本当に甘かった。
沙紀は信夫を殺すつもりでいたのに、信夫は沙紀を殺すつもりなど微塵も無かったのだ。その甘さが命奪り。
そのまま沙紀は信夫の方へ迫り───
「───あ、駄目だ」
ピタリと足を止めたのは、沙紀。
信夫を挟んで反対側。そこにいたのは2人の男女。それは奇跡のような偶然。偶然のような奇跡。
そこにいたのは、細田歌穂と結城奏汰の2人であった。
「歌穂...か」
沙紀は、歩みを進めている2人を見てこのまま信夫の方へ行くかどうかを思案する。
2人は、沙紀が生徒会の仲間であることがバレてしまっているため、目の前で動いて怪しまれるのは当然だろう。
「───なら、2人共」
幸い、まだ2人は沙紀がこちらにいることは気付いていないだろう。それであれば、奇襲をかけて2人共動きを止めてしまえばなんとか殺せるはずだった。
「───」
「あれ?あそこにいるのは信夫じゃない?」
「でも、様子が変───ってか、全然動いてないよ?」
「そうね、行ってみるかしら」
「気付いたか...」
信夫の2人を取り巻くように移動した歌穂と奏汰。もしこれが智恵などのか弱い女子であれば特攻で解決したものの、信夫の周りにいるのは歌穂と奏汰だ。
「───諦めるか」
沙紀の即決。目の前の2人は相手にして、その場から逃げる選択をした。サイコパス2人を相手にするのは危険───そんな判断だ。
「3時間放置すれば爆発する...なら、3時間触られないようなところに籠っていればいい」
沙紀は、そんな案を出してその場から逃げることを選択する。信夫に、歌穂と奏汰という強力なバックスタンドが付いてしまったものの、仕方ない。
3時間隠れきれば、信夫はドカンで爆発する。
「───なら、それを待とう」
そんな言葉を残し、沙紀はその場を去っていく。無理な戦闘はしない。それは、誠や皇斗と戦った時に学んだ。
───そして、沙紀はピッケルを持ちながら森林の中にその身を溶かしていったのだった。
***
───沙紀にタッチされて5分。
信夫は動けるようになり、その場に倒れ込むように転んだ。
「5分経ったのか」
「そうみたいやな」
信夫からルールの説明を聞いた歌穂と奏汰の2人が、信夫に手を貸して立ち上がらせる。
「───そんなら、爆弾を解除するために動かへんと...」
残り3時間───正確には、2時間55分だと余命宣告されている信夫にとって、1分1秒が1つ1つの決断が大切なものとなっている。
「僕達も手伝うよ、沙紀を探すの」
「ほんまか?あんがとさん」
───こうして、信夫・歌穂・奏汰の3人の連合が生まれた。
一体、爆弾を解除させることはできるのか。
***
───ゲーム開始から、早くも4時間が経っているのだが、最後の一人のオニである「爆発オニ」は一向に動きを見せていない。
少なくとも、茉裕と沙紀ではないことがわかっている「爆発オニ」も、沙紀と同じように茉裕の操り人形とされているあの少女───いやもう隠し通す理由はない、鈴華であった。
鈴華は茉裕に「合図をするまで動くな」と命令されているがゆえに、まだ問題や暴動を起こさずに第6ゲーム『件の爆弾』をプレイしていた。
もちろん、時限爆弾オニである沙紀が鈴華のことを狙うわけないし、移動型爆弾オニに狙われてタッチされたとしても、他の人と同じく誰かに受け渡せばいい。
ちなみに現在、移動型爆弾オニは康太の手にあり、彼が誰に爆弾を受け渡そうか決める権利がある。
そして、彼が狙うのはもちろん、彼が毛嫌いする人物。そう、第4ゲームの途中で睦月奈緒を殺すという大罪を起こした彼、その名を───
***
「───蓮也。やっと見つけたぜ」
「こ...康太君...」
───邂逅するのは、康太と蓮也。そして、蓮也と一緒に行動していた時尚。
普段は煩わしい時尚のことを空気のように扱いながら、康太と蓮也のいがみ合いは幕を開けたのだった。