6月18日 その⑲
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(オニ側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
4.オニは時限爆弾オニ・移動型爆弾オニ・爆発オニの3人である。
5.時限爆弾オニは、触れた人物を3時間後に爆発させることが可能である。だが、再度触れられてしまうと爆弾は解除される。尚、ゲーム開始から27時間経過後以降にタッチされた場合、試合終了時に解除されていなかったら爆発する。
6.時限爆弾オニに触れられた人物は、5分間その場から動けなくなる。
7.時限爆弾オニは5回以上爆弾を解除された場合、敗北となり死亡する。
13.爆発した人物は、近くにいる物質を巻き込みながら爆発する。尚、時限爆弾オニが爆発する時のみ、周囲を巻き込まない。
14.勝ちたければ、逃亡者を捕まえろ。
武器を持たない信夫と、ピッケルという一発当たれば死亡、もしくは致命傷になる可能性が十分にある武器を持った沙紀のタイマン。
信夫は巨体である分、ピッケルが当たる可能性が大きく危険であろう。
だけど、信夫はそんな危険を冒しても挑むのをやめない。
「───どうして、信夫は私に立ち向かうの?」
「さぁ、ワイのもよくわからん。逃げたほうがええことはわかってるんやけどな!」
信夫は、その持ち前の大きな声でそう口にする。
逃げるほうが安全だ。こうして立ち止まらなければ、自分以外の誰かが───それこそ、信夫よりも足が遅いだろう梨花や美緒の2人のどちらかを犠牲にすれば、難なく逃げられただろう。
「───だが、ワイは逃げへん。誰かが死ぬのは嫌なんや」
「自分のせいで死んだと思うから?」
「───それは挑発か?キレるで?」
「───別に、挑発じゃないわ。そこのところ、本当に弱いのね」
信夫は、自分が直接的及び間接的な原因により誰かが死ぬのが嫌だった。
そして、自分が何かをせずに自己保身の行動に走ったことで誰かが死ぬ───というのも嫌だった。
だからこそ、信夫は動いた。
アリストテレスは、「中庸」と言うものを唱えて、臆病と無謀の「中庸」を勇気と捉えた。
信夫の英断は、無謀か。それとも勇気か。
「───ワイは自分のことを勇者だとは思ってへん。ワイは臆病なんや。だから、少しくらいの無謀が丁度いい」
───そして、信夫は動き出す。
彼の目標は、まず沙紀の持つピッケルをどうにかして奪い取ることだろう。
狙うのは、沙紀の命ではない。信夫は、敵であろうと誰かを殺せるような人ではない。
「───速ッ!」
信夫は無類の野球好き。
野球を愛し、野球をするために生まれ、野球に人生を壊されて尚、野球をやめなかった野球少年。
球を投げ、球を打ち、球を取り、塁へ走る───と、多種多様な能力が必要とされる野球で、どこを取っても最強である信夫の足が遅いわけがない。
「───ッ!」
沙紀は、突発的にピッケルを大きく振るう。
───が、信夫はそんなの一瞬にして見切れる。
「まだまだやな」
ピッケルの動きを見て、それを軽々と避けてから、ピッケルの柄を握る。
「───ッ!」
「このピッケルは没収させていただくで」
そう口にして、信夫はなんとかピッケルを取り返す。
「こんなのがあるから行けへんのや。おらっ」
信夫はそのまま、そのピッケルをぶん投げる。
───再度言うが、信夫の目的は沙紀を殺すことではない。
信夫も、沙紀が生徒会───に協力していることはわかっている。
だけど、心優しい彼が、臆病な彼が殺人などという行為に手を染める訳が無い。
「よくも私の武器を...」
武器を放り出されてしまった今、沙紀が信夫にトドメを刺すには───信夫に限定せず、誰かを殺すような方法が無くなってしまった。
いくら茉裕に操られ、常時火事場の馬鹿力が出せるようになっていると言っても、人を素手で殺すにはそれなりの数を殴る必要がある。
それは、第一回試験『友情の天秤』の栄達のした稜を死ぬまで殴って、外ですぐに処置をする───という作戦からも無理であることがわかるだろう。
「武器...」
沙紀は、すぐに武器を取り戻そうと、武器の投げられた方向───健吾や美緒・梨花が逃げた方向とは逆方向へ走り出そうとする。
───が、すぐに沙紀は気が付いた。
信夫の望みは、「沙紀を殺す」ことではなく「皆を逃がす」ことであることに。
沙紀は、無理矢理体を方向転換させて一瞬転びそうになりながらも体勢を取り直して信夫の方へ走っていく。
信夫は、既に数メートル程離れており、そこからも沙紀の命を狙っている訳ではないことが理解できた。
「判断を誤った...」
だけど、まだ取り返しが付かない訳では無い。
武器を拾うのは後でいい。信夫が自分を殺すつもりじゃない以上、動きさえ止めてしまえば───要するに捕まえてしまえば沙紀に分があるだろう。
動きを止めた後に、ピッケルを拾って首を切ってしまえばどうにかなるだろう。
そう考えた沙紀は信夫を追っているのだけれど、その距離は埋められていない。
「私の本気と同じようなスピードで普通に走れるのって...」
沙紀は、信夫の「天才性」に気がつく。
もし、彼がもっと真面目な性格であり好戦的であれば愛香と対等、もしくはそれより少し下の強さを誇っていただろう。
でも、信夫は何かが原因である程度の実力を隠していたのだろうし、その原因は十中八九過去に理由があるだろう。
───そんな準最強を追いかけつつ、どうにかして沙紀は信夫の動きを止める、もしくは遅くする方法を考えていた。
そして、その方法はすぐに思いついた。
「ねぇ、人殺し。私を殺してみてよ」
「な、なんやと!ワイは人殺しじゃッ!」
停止。
信夫は、反論するために足を止めて沙紀の方を向く。
信夫が「人殺し」だと言うことを言われると怒るのは、最初からだ。だから、沙紀はそれを利用した。そして───
「タッチ」
「───ッ!」
信夫は沙紀に触れられ、それと同時に頭の中に時限爆弾オニのことが流れる。そして、彼は5分間体の自由が奪われてしまうのだった。
───時限爆弾爆発のカウントダウンが今、始まる。