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6月18日 その⑱

 

 ───第6ゲーム『件の爆弾』が始まって、早くも4時間。


 俺達は1時間半以上、椅子に座って智恵や稜・健吾と美緒と合流できるかどうかと思いながら座っていたけれども、誰も来ることはなかった。


「やっぱり、草原の真ん中に立っていたら気付いてくれるんじゃない?」

「危険だよ。目立つってことは稜達に気付いて貰いやすくなる分オニにも気付かれやすくなる」

 純介は、冷静にそう俺達に伝える。


 実際に、木1つだって生えていない草原の中心に行って誰かを待っていたら、オニだろうとオニじゃなかろうと人が集まってくるだろう。


「───真ん中は危険だ。もしここから再度歩き出すとしても、それだけは避けたい」

「わかった。純介の言う通りにしよう。んまぁ、とりあえず俺達はこっから動くか」


 栄の決断により、他の3人も行動を開始する。


 ───その10分後、栄達の座っていた倒木の近くに智恵がやってきたのだけれどもう既にそこはもぬけの殻。


 智恵と栄達4人は、ここでも合流することなくすれ違ってしまったのだった。


 ***


 ───ここは、純介が「危険だ」と称した、デスゲーム会場の中心。


 そこにいたのは、栄達が現在探している健吾と美緒の2人。そして、梨花と信夫であった。


「どう?見つかりそう?」

「いやー、見つからへんなぁ...真ん中から見れば目に入ると思ったんやけど...」

 現在、4人が探しているのは梨花の恋人である拓人であった。梨花が、拓人と合流したいと口にしたために他の3人は、それに協力してるのだ。


「───って、こっちに誰か来てない?」

「あ、本当だ。あれは───」

 美緒と健吾の目に映るのは、ピッケルのようなものを手にした少女───綿野沙紀であった。


「───沙紀だッ!」

「んなっ、沙紀?!」

「逃げろ、ピッケルを持ってる!」

「ピッケルやと?なんでそんなもん持っとるんねや!」

 彼女が持っていた熊の中に隠されていた───などとは、到底考えないだろう。


 沙紀の持つ武器に驚きつつ、正々堂々正面から襲撃してきた沙紀を見て一瞬で全員は逃げる判断をした。


 ───と、敵襲される可能性があると踏んで真ん中に行くことを止めた純介は、やはり聡明だった。


 もし純介がオニになったら、どれだけ狡猾で聡明な作戦で栄達を困らせてくるのだろう。

 全く想像がつかない。


 なんて、純介の話はおいておいて。

 今大切なのは、健吾・美緒・梨花・信夫に襲いかかる沙紀への対処だろう。


「どうして逃げるの。ちょっとしか痛い思いをさせないのに」

 沙紀はそう口にすると、文字通りの全力で行動を開始する。


 ───そう、前にも説明したが彼女は茉裕に操られているので、火事場の馬鹿力のようなパワーを、常時出せる───正確には、出させられているのだ。


 だから、皆が知る沙紀とは比にならない程のスピードで、皆の方へ迫ってくるのであった。

「───クッソ、このままじゃ追いつかれる!」

「ほんなら、ワイに任せとけ!」


 そう口にして沙紀に立ち向かうようにして動いていったのは信夫であった。

「───信夫?!逃げるんじゃ!」

「心配はあらへん、健吾は美緒と梨花を連れて逃げな!」

「だけど...」

「安心しろ、ワイを誰やと思っている。ワイはラストバトルで人間甘言(にんげんかんげん)唯々諾々(いいだくだく)を足止めしたような人物や。沙紀一人に敗北するはずがないやろ」

「───わかった。信じてるぞ」


 そう口にして、そのまま健吾達3人は森林の方へ走っていく。


「随分と勇ましいわね。好きになっちゃうかも」

「適当なこと、言っちゃアカンで。ワイも本気にしてまう」

 そう口にして、信夫はポケットから野球ボールを取り出す。


「───ボール?」

「そうや。持ち歩くようにしてるんや。ワイは野球が大好きだからな」

 そして、そのまま両手でボールを握る。


「私に当てて殺すつもり?」

「は?そんなことする訳ないやろ!神聖な野球ボールをそんな使い方するなんて言語道断や!」

 信夫の5m程前で足を止めた沙紀の質問に、信夫は怒りを見せる。その怒りようは「人を殺した」という彼の過去を刺激したときのような怒りだった。


 ───沙紀は、信夫の過去を詳しくは知らない。


 信夫からその過去を話すことはしないだろうし、信夫の過去の仔細を唯一知っているマスコット大先生───池本朗も、その過去を無闇矢鱈と話すような人物ではない。

 池本朗は、ふざけているような人間に見えるが守るべき約束はしっかり守るし人のある程度のプライバシーは守っているのだ。


「じゃあ、どうしてボールを?」

「決まってるやろ、ワイの勝利のジンクスや!」

 その言葉と同時に、信夫が沙紀とは関係ない方向に投げるのは豪速球。


 もし、これが漫画であれば炎のエフェクトが付いて描かれるような、時速160kmを超えていてもおかしくないようなスピードの球だった。


「ワイの投球は、ピッチングマシン超えや!」

 正確には、ピッチングマシンは出そうと思えば300km/h以上出せるのだが、安全面を考慮して170km/h以上は出ないようになっているものが多い。


 だが、信夫がこれまでに出した最高速度は217km/hだ。

 プロの世界では、アロルディス・チャップマンの出した169.1km/hが世界最速だとされているが、信夫の投球はそれを優に超えるスピードだ。


「ワイはなんとかしてでも生き延びてやるんや」

「意気込みだけは十分ね。さぁ、勝負をしましょう」


 ───そして、沙紀vs信夫のタイマンが開始する。

これだけすごい信夫がどうして有名になってないかって?

全て信夫の過去に理由はある。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高速度は217km/h!? 甲子園どころの騒ぎじゃない。 となると信夫は握力と背筋力のお化けか! 尚、140km/h以上投げるには、背筋力200以上必要です。
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