6月18日 その⑯
───ゲーム開始から2時間とその半分ほどが経ち、時刻は11時34分。
第6ゲーム『件の爆弾』は9時ピッタリに開始しており、ルールに「3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる」と記述があるので、ゲームの終了はそこから30時間後───19日の15時となっていた。
まだまだ終わりは遠かったし、開始2時間半とは思えないほどの量の戦闘が起こっていた。
そして、更にゲームが進展しそうな邂逅が起こったのだった。
出会ったのは、現在移動型爆弾を保持してオニとなっている愛香と───
***
「智恵ー!いるかー?」
俺がでかい声をあげても、返事は返ってこない。
「稜ー!」
「美緒ちゃーん!」
「健吾ー」
梨央が稜を、紬が美緒を、純介が健吾を呼んでもその姿を現すことはなさそうだった。
「中々会えないな...」
「そうだね」
「でもまぁ、どこを移動してるかわからないし仕方ないっちゃ仕方ないね」
「そうだ!一つのところに留まっていれば動いてる人とは合流できるかもよ?」
俺達は2時間半も歩き続けているような状態だから疲れてきている。ここでオニと遭遇しても、正直言って逃げ切ることも戦い抜くこともできなさそうだった。
「休憩ついでに誰か待ってみようぜ。釣りみたいなもんだ。座ってれば誰か来るかもしれない」
「───そうだね。じゃあ、どこか良さげなところでも探そっか」
純介も紬の座って待つという意見に納得してくれたようだから、俺達はそこから更に5分ほど歩いて座れそうな倒木を見つけたのでそこに腰を下ろした。
倒木などは、探せばチラホラ見つかったし珍しいものではなかった。戦闘などの外部の影響で折れたのではなく、自然に折れたのだろう。
「───って、30時間もやるようじゃご飯とかどうするんだろう」
「何、栄。お腹すいたの?」
俺は純粋な疑問を口にしたのだが、梨央にお腹が空いたのだと勘違いされてしまった。
「いや、別にまだ大丈夫だけどさ。スマホが取られちゃった今どうしたらいいかわからないなーって」
いつもは、スマホでお昼ご飯を頼めばすぐに用意されるのだけれど今回のゲームではスマホを取られてしまっている。だから、注文する術がないのだ。
「マスコット大先生がなんも考えてない訳ないからちゃんと容易はされてるんじゃない?」
「そっか、なら大丈夫かな」
「ご飯も無いならトイレも無くない?」
「あ、そうじゃん。トイレ」
「トイレは...」
第3ゲーム『パートナーガター』の時は、建物が1つだけあったのでそこのトイレを使用したが、今回はトイレなど無い。
「───よし、紬。トイレのことは気にしなくていい」
「え?」
「気にしなくていいから、気にするな」
そう言うのは、気にしなければ皆気付かないのだ。わざわざ話題にするから人が思い出して揚げ足を取る。
「いいか、人間最初はトイレなんて無かった。だからあまり必要ないものなんだ」
まさか俺は清廉潔白な紬に、「トイレはない、野糞しろ」だなんて言うことはできなかったから、適当に濁して説明する。
「栄の言ってることわからない。トイレは必要でしょ?おしっこはどこでするの」
「ごめん、やっぱ俺にはわかんないわ。純介が教えてくれるって!」
「え、僕?」
面倒な説明は全部純介に横流し。ごめんな純介。純粋な紬に野外での放尿なんか俺は教えられそうにない。
───と、そんなこんなで純介もお茶を濁していると、やってきたのは1人少女───美玲であった。
「あ、美玲ちゃん!」
「紬ちゃんに梨央ちゃん。それに栄に純介。そこで何してるの?」
「何って、休憩かな」
「美玲こそ何してるの?」
「特に何も。目的もなく彷徨っていただけだよ。ほら、この会場広いし誰かと会えないかなー、って」
「最初、近くに誰もいなかったのか?」
「いや、愛香がいたけど付いてくるなって突き放されちゃって」
「あー...」
愛香であれば言いそうだ。愛香の声で「付いてくるな」という言葉が脳内再生される。
「俺達で良ければ一緒に行動するか?一緒に行動するって行っても、しばらく座ってるだけだけど」
「なら、遠慮しておくわ」
「オッケー、んじゃ、またどっかで」
「えぇ、こちらこそ」
そう口にすると、美玲はどこかへ歩んでいってしまう。俺達が探しているのは智恵と稜・健吾と美緒の4人だ。強く引き止めるつもりはない。
───そして、俺達はそこでしばらく休んでいたのだった。
***
───智恵は、森林の中を一人寂しく歩いていた。
彼女は、試合開始と同時に、沙紀に逃げられてしまったが為にこれまで2時間半ほど一人で彷徨っていたのだ。
誰かと出会えればよかったものの、誰とも出会えなかったので一人で歩いていたのだった。
───が、そんな智恵もとある人物と邂逅することになる。
それは、智恵もそれなりに関わりのある人物であり、智恵と同じく栄のことを好いているであろう人物であった。
「───こんなところで会うとはな、智恵よ」
「愛香───ちゃん」
いつもは呼び捨てにしているけれども、愛香がどこか不機嫌な雰囲気を纏わせていたので歳上なのに敬語を使ってしまう智恵。だけど、その判断は正しく出会って一言目で愛香からの反感を買うことは無かったのだった。
───智恵と愛香は邂逅する。
そして、物語は進む。
負けしか知らない勝ちヒロインvs負けず嫌いの負けヒロイン