6月18日 その⑮
どこかへと進んでいく愛香のことを、森林の木の陰からコッソリと見ている人物が一人───そこにいたのは、背の高い女子のような男子、東堂真胡であった。
彼は裕翔と共に行動していたが、その裕翔が生徒会であり危険人物である茉裕に立ち塞がったがために、自らは危険を察知して咄嗟に砂浜の奥にある森林の中に隠れていたのだった。
その後、裕翔と茉裕の一騎打ちに、孤高の傲慢女傑である愛香が参戦したために三つ巴となり、その後すぐに茉裕が抜けて何故か裕翔と愛香の一騎打ちに。
最初の目的である茉裕が抜け、裕翔と愛香が睨み合う意味のわからない展開になったかと思うと、裕翔がボコされて逃亡。
真胡は裕翔を追おうか迷ったけれど、見ると愛香が怒髪天を衝いていたので視界に入ったら殺されるかもしれない───などと思い、息を潜めて隠れている内に、愛香は裕翔を追わずにどこかに進んでしまった。
結果として、その砂浜からは人の姿が消えて足跡だけが残っていたのだった。
「わ...私が置いてかれちゃった...」
真胡は、裕翔と一緒に行動するものだと思っていたから一人残されて、唖然としていた。
裕翔の姿は消えてしまっていたし、頼りになる人物もいない。
「こ、怖いけど...一人で行動する───」
「───おぉ、真胡。どうしたんだ?そんなところで」
「ヒャア!」
真胡は、後方から声をかけられて思わず声をあげてしまう。その叫び声を聞き、真胡に声をかけた人物も「うおぁ!」とビックリしたような声を上げた。その声の主の正体は───
「───って、稜か...ビックリした」
「ビックリしたって、それはこっちのセリフだよ。まさかそんな大きな声を出すとは」
真胡と稜はそんな言葉を交わす。
一見、関わりのなさそうな2人だけど第3ゲーム『パートナーガター』で共に廣井兄弟と戦った「捕虜救出隊」のメンバーだった2人は、そこから少しだけだが交流があったのだ。
まぁ、陽キャである稜はクラスのほとんどの男子全員としっかりとした関わりがあると言ってもいいだろう。
ちなみに、稜がほとんど話したことがない男子は津田信夫などが挙げられる。栄とはそれなりに仲良くしている節を見せ、ラストバトルにおいては栄に「勇者」と言わしめる程の行動をした彼だが、稜との関わりは薄いのであった。
───と、稜の交友関係は関係ない。
「え、えっと...もしよければだけど一緒に行動しない?
「もちろん。俺も一人で走り回って疲れたしよ」
真胡の提案に、稜は同意する。2人は、ここで合流し共に行動することになったのだ。
***
───こちらは、茉裕と別れた後の沙紀であった。
マスコット鳥大先生の力により、デスゲーム会場の空を飛んでいる。
そこからは、この島の全貌を見ることができた。
その島は大きな円形をしており、半径10km程の島だった。その中心には草原が、円周上の近く200m程には砂浜が、草原と砂浜の間には森林が存在していた。
「───それにしても、広いわね...」
「キエー」
マスコッ鳥大先生は、マスコット大先生ではない───すなわち、池本朗ではない。巨大な鳥であるが、それはマスコット大先生が用意したこっくりさんや蛇神ナーガのような創作の中でしか登場しないような生物だ。
その被り物をしている姿からは、怪鳥だと言えるだろう。
と、ちなみにこのマスコッ鳥大先生も茉裕に心酔している。マスコット大先生に自慢された時に、餌を上げたら懐いたらしい。
きっと、マスコット大先生はわかっていて茉裕に見せたのだろう。
───そして、マスコット大先生には茉裕の破滅の瞬間を既に見据えているのだろう。
「さて、どこで降ろしてもらおうかしら...」
沙紀は、できるだけ人目のつかなさそうなところを選択する。もちろんそれは、彼女の自衛の為でもあったし誰かを捕まえるためでもあった。
沙紀は、武器であるピッケルを背負ってはいるが、皇斗に返り討ちにされ茉裕が来ない限りは捕まっていた可能性があったので、次は大きな獲物ではない限り───要するに、生徒会に仇なす危険人物ではない限り殺さないと決めたのだった。
ちなみに、生徒会に仇なす危険人物は栄などである。栄の恋人である智恵や、参謀的役割を担っている純介も危険人物に含まれていた。
「まぁ...栄と戦うと何故だか痛い目を見そうだから、まだ戦うつもりはないけれどね...」
沙紀はそう口にしながら、上空から島を見据える。そして、島の一端にある森林の中に小さな隙間を見つけ、そこにマスコッ鳥大先生を着陸させて、沙紀は背中から降りる。
「ありがと、マスコッ鳥大先生」
「キエー」
なんだか、馬鹿そうな返事をして(鳥だが)空中へ飛び上がっていった。周囲を確認してみるが、誰もいないようだった。沙紀は、年のためにその場からすぐに移動した。
───そして、再度オニが全員その地に足をつけたのだった。
まだ、デスゲームが始まって1時間弱。このゲームは始まったばかりなのであった。