6月18日 その⑫
───ゲーム開始から1時間。
俺と純介・梨央に紬の4人は、まだ見ぬ仲良し4人を探すため、デスゲーム会場を練り歩いていた。
「うーん、歌穂と奏汰から出会ってから誰も見てない...」
それだけ今回の会場は広いのだろうか、それとも俺達の運が無いだけかはわからないけれども、どことも合流することができていない。
「せめて智恵とは合流したいなぁ...」
俺は、そんなことをブツブツと呟きながら、森林と草原の間を歩く。
「───って、純介。日向ばっか歩いてるけど暑くないの?」
ふと気になったことを純介に質問する。空には燦々と輝く太陽がギラギラと照りつけている。
まだ夏本番ではないし、マスコット大先生がデスゲームをしやすいように少しはその太陽の影響を減らしてくれているようだが、地球温暖化が緊迫している今、それでも尚俺達を照らす太陽に長時間当たっていると暑いのは否めなかった。
だから純介以外の3人は木の葉の影に上手く隠れつつ歩いていたのだが、純介は日向に出たままだった。
「うーん、暑いか暑くないかって言われたら暑いね」
「じゃあ、日陰に来ればいいじゃん」
「いや、それは嫌だ」
「どうして?」
「日陰だと影が見えないだろう?」
「影?」
俺は、純介の発言を聞き返してしまう。どうして影なんか見る必要があるのだろうか。
「自分の影を見て何になる?太陽の向きでも調べるつもりか?」
「違うよ。見るのは僕の影じゃない。他の人の影だ」
「他の人の影?」
「ほら、影の伸びる向きは皆一緒でしょ?なら、僕達の進行方向に───要するに、足元に影が出るように練り歩いておけば、後ろに誰か来たとしても、誰かまでは特定できずとも影を見れば誰かが来ている───ということをわかるでしょ?」
「要するに、自らの安全のためか」
「そうだね。それに、森林から少し離れておけば奇襲も避けられる」
「色々と考えられてるんだな...」
「あ、じゃあじゅんじゅんがいつも壁際に立ってるのも身を守るため?」
「そうだね。人間には必ず死角がある。だから死角からの奇襲を防ぐために壁際に立つようにしてるよ」
「へー」
「でも、壁が破られたらどうするの?トラックとか突っ込んできたら真っ先に轢かれちゃうよ?」
梨央の純粋な疑問。
「トラックで僕を轢死させようとするなら、壁際にいなくても死んじゃうよ。自衛してもしなくても死んじゃうのは数に数えてない」
「まぁ、守るのが無理なら無理して守る必要もないもんな」
「うん」
───と、そんな会話をしていると森林側からガサゴソと音が聴こえる。
俺達が、そこから少し離れるとそこに現れたのは───
「───ひ、純介...」
体に葉っぱを付けながら、何かから逃げてきたかのような息の切らし方をしたクリーム色の髪を持つ少女───佐倉美沙であった。
「あ、美沙」
「いやああああああああああああ!」
彼は、青白い顔でまるで死霊を見るように俺達のことを指差し、そのまま逃亡していった。
「な...なんだったんだ...」
「追った方がいいかな?」
「いや、栄。追わなくていいよ。オニだと勘違いされてるのかも...」
梨央が、追おうとした俺達のことを止める。
「そうかなぁ...」
まぁ、そう勘違いされてるのであれば無理に追うとより恐怖心を追わせてしまうだろう。ただでさえ、美沙には男に対するトラウマがあるのだ。
「───じゃあ、気にしなくていいかな」
「そうだね。僕達は引き続き他の4人を探しに行こう」
そう口にして、俺達はまた歩き始めたのだった。
***
「───この辺でいいかしらね」
海辺。
そこに降り立ったのは、茉裕であった。
「茉裕様、ここでよろしいのですか?」
「えぇ。沙紀は私と離れたところで人を捕まえなさい。無理に殺すことは考えないように」
「わかりました」
茉裕は、沙紀にそう口にする。沙紀はまた、マスコッ鳥大先生に乗り空の旅。
───そして、茉裕は一人になった。
「さて、ちゃんと『件の爆弾』をしないとな。生徒会───としてではなく、オニとして」
茉裕はそう口にする。そこで現れたのは───
「おいおい、もう生徒会だってことは隠すつもり無しかよ」
ニタニタと笑みを浮かべながら、茉裕の前に姿を現したのは2人の男───渡邊裕翔と東堂真胡であった。
「や、やめとこうよ...生徒会なんだよ?何をされるかわからない!」
「男のくせにそんな腑抜けたこと言ってんのか?全く、恥ずかしい男だぜ。そんなに怖いならお前は一人で行動しろ!」
「え、えぇ...」
真胡は、困ったような顔をして少し迷った末にその場から走り逃げ出した。
「どう思う、茉裕?男の癖に、こんなビビリなの。恥ずかしいと思うよな?」
「私は別にどうとも。男なんて皆、私に跪く点において何一つ変わらないもの」
「あ?何言ってんだ。男はみな、お前に跪く?オレはそんなことしねぇよ。生徒会」
そう口にして、裕翔と茉裕を邂逅する。そして、戦争が今か今かと始まろうとしていたその時───
「───おいおいおい。随分と頭の悪そうな2人組ではないか」
「お、おま───」
「喋るな。知能指数が下がる」
「───」
そこに現れたのは、愛香。茉裕の味方でも、裕翔の味方でもない愛香の登場により、海辺での戦いは三つ巴となったのだった。