6月18日 その⑪
───憎き怨敵である沙紀と茉裕を取り逃してしまい、誠・皇斗・拓人はその場に取り残されることとなった。
ここで無理に追いかけなかったのも、彼らの明断となるだろう。
───さて、第6ゲーム『件の爆弾』にもう既に多くの人物の場所が解明された。
だが、まだ居場所が判明していないのは安土鈴華・岩田時尚・宇佐見蒼・竹原美玲・橘川陽斗・東堂真胡・中村康太・成瀬蓮也・森愛香・渡邊裕翔の10人。
その中でも、成瀬蓮也と岩田時尚が、宇佐見蒼と橘川陽斗が、東堂真胡と渡邊裕翔が、同じような場所に転移されて残っていた。
───残るは、安土鈴華・竹原美玲・中村康太・森愛香の4人。
***
「───ッ!ここはっ!」
第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場に転移させられ、康太は驚きを感じる。
それもそうだろう。康太は、教室で茉裕と沙紀を殺すと意気込み、そこに立ち塞がるように鈴華が立った。
そして、そのまま戦闘が起こると思ったのに場所が変わった。
「───ってのに、俺の目の前にはお前かよ」
「文句を言いてぇのはオレの方だよ。こんなところに連れてかれて」
康太の目の前にいたのは、康太に立ち塞がった才女───安土鈴華であった。
「別にオレはここで殺し合ってもいいが、オレが守るべき茉裕はいない」
「お前は茉裕のなんなんだ?」
「友達だ」
「友、達...」
「いや親友だ!」
「親友な...」
若干嬉しそうに語る鈴華に対し、康太は少し戸惑いを見せる。
「───オレはここでお前を殺す理由はない。親友である守るべき茉裕を見失ったんだ。お前を相手にするより、そっちと合流したほうが得策だ」
「───そうかよ。でも、俺は茉裕の協力者を見過すわけには行かない」
「お前は何者だ?」
「何か誇れるような者ではない。ただ、自分の正義を信じ貫き通している男だよ」
「───そうか」
「貴様は何者だ?」
「茉裕の親友だ」
その言葉と同時に、鈴華は姿を消す。きっと、茉裕のいるところへ向かったのだろう。
「───追いかけるのは...危険か」
逃げる───いや、移動する鈴華を見て、康太はそう冷静な判断を出す。
康太だって、鈴華の強さは認めていたのだ。だからこそ、無理な戦闘は避けた。教室には皇斗がいたから、それなりに強い態度が取れたのだろう。
「俺も誰かと合流しないとな」
康太はそう口にして、鈴華が進んで行った方向と別の方向へ進んでいく。
***
「───ほう、海か」
一方、こちらは最後の組。愛香と美玲の2人であった。
愛香と美玲の2人組は、このゲーム会場の一番外周───海に近い場所に転移したようで、2人は終わりのない大海原を目の前にしていた。
「愛香」
「いつもは黙っているが、妾のことを気安く呼ぶな。妾は気を許していない相手に名前で呼ばれるのは不快なのだ」
「じゃあなんて呼べばいい?」
「名字でだ」
「じゃあ、森?」
「経緯が足りない」
「はは、失礼しました。森様」
「妾は様付けが嫌いだ。殺すぞ」
「あまりに理不尽では?!」
折角愛香に合わせてあげたというのに、怒鳴られるという若干不憫な美玲であったが、それはいつものことなので気にしなくていいだろう。
───と、その時他の組と同じように空から第6ゲーム『件の爆弾』のルールが書かれた紙が落ちてくる。
「なんだこれは」
愛香は、空から飛んでくる紙をクシャリと握りしめるようにキャッチすると、その紙に目を通す。美玲も、その後方に周りその紙の内容に目を通した。
「───デスゲームのルールのようね」
「言われんでもわかっている。だが、内容としては不十分のようだな」
「そうね。まぁ、マスコット大先生がルールに不備を来すわけもない───まぁ、抜け道は作るでしょうけれど、大きな欠陥を作り出すわけもないから、何かしら裏がありそうね」
「そうだな」
───と、これは完全に余談なのだが、茉裕と沙紀を戦線離脱するために手伝ったマスコッ鳥大先生は、ルールの配布の為にデスゲーム会場をグルグルと回っていた。
マスコッ鳥大先生も、しっかりデスゲームの運営に関与しているのである。茉裕に操られなければ、また違った活躍を見せていたかもしれないが、それは結局のところ「たられば論」であり無視することでいいだろう。
───そんなこんなで、第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム参加者が全員揃った。
これから、多くの戦闘が起こり中には死してしまうものもいるだろう。
───だが、これはデスゲーム。誰かが死ぬことなど日常茶飯事。
4月の内は少なかったけれども、6月になり次第に増えるようになってきた。
だから、死に対する感覚が若干薄れて来ているかもしれない。
「───さて、園田茉裕さん。今回私はこれ以上の協力はしませんよ。わざわざマスコッ鳥大先生などという、見ていて恥ずかしいキメラまで作ってあげたのですから。とまあ、作ってあげたというか貸し出した───いや、私から奪い取ったが正解なのでしょうけれど」
マスコット大先生は、第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場の様々な地点が映し出された画面を見ながらそう口にする。
───畢竟、どんなデスゲームだろうとマスコット大先生の手の中なのであった。