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6月18日 その⑨

 

「───ッチ、なんで追ってくるのよ!返り討ちにしてあげたいけど、止まると皇斗が来るかもしれない...」

 沙紀は、後ろをチラチラと確認して追手である拓人のいる場所を確認しながらその場から逃げていた。


 ───誠の殺害が失敗し、皇斗と拓人の妨害が入った今、危険に晒されているのは誠ではなく沙紀であった。


 彼女は、ピッケルを持って逃亡しているけれども、そのピッケルでいくら攻撃をしようと全て避けられてしまっては意味がないのだ。要するに、天才な皇斗にも素早い拓人にも攻撃を当てることはできない。


 その上、誠から色々聞いているだろうからサッとタッチさせてくれるような隙も見せてくれないだろう。

 だから、沙紀はいくら攻めてもただ自らを危険に晒すだけ───例えると、沙紀は今毒に侵されているような状態なのだ。足掻けば足掻くほど、毒は早く周り沙紀の命を奪おうとする。


 ───今、沙紀に必要なのは迂闊に攻め込むことじゃない。堅実に逃げ切ることだ。


 彼女は、森林を駆けて数メートルほど後ろをついてきている拓人を撒くことを考える。

 まだ、拓人は本気を出していないだろう。拓人は沙紀のことを警戒して、わざと距離を空けている。

 尾行という形を取らないのは、バレることを前提に追っているからだ。


「───このままだと、誠を連れて皇斗も来る」

 沙紀の予想は当たっていた。誠の爆弾を解除するために、沙紀に接近してくるのは必然だった。


 皇斗が、生徒会である(と思っている)沙紀の相手をするのに動かないわけがない。これまでのゲーム───第3ゲーム『パートナーガター』での廣井兄弟との戦いだったり、第4ゲーム『分離戦択』の第4回生徒会メンバーや鬼龍院靫蔓への相手を、皇斗は一切引き受けなかったけれども、沙紀は自分自身が皇斗に殺されてしまう───という未来が見えていた。


「逃げないと、早く逃げないと...」

「逃げるというのは、誰からだ?」

「それは、皇斗に決まってる───皇斗ッ!」

 沙紀は、いつの間にか自分に並列して話していた皇斗の存在に気付き驚き、足がもつれてしまう。


 そのまま沙紀はその場に転び、森林の地面に頭を擦り付ける。

「───痛...」


 ピッケルは、1メートル程前に落ち、転んだときに沙紀の着ている体操服に汚れがつく。

「ピッケルを武器にしているとは...朝久々に持ってきていたテディベアの中にでも入れていたのだろう」

 的確に事実を当てるのは、流石は第一回試験満点のトップだと言えるだろう。久々───と言うのは、沙紀は4月1日に同じテディベアの巨大なぬいぐるみを持ってきていたのだ。


「───ひ」

 沙紀は、急いでピッケルを拾おうとするけれども、すぐに皇斗はピッケルを拾って地面にへばり付くような形でうつ伏せに倒れている沙紀の眼前で仁王立ちをする。


「触れようとすれば、貴様の腕と顔を潰す。貴様の持ってきたこのピッケルでな」

「───じゃあ、今すぐ私を殺せばいいじゃない」

「それは無理だな。貴様を殺して、時限爆弾が解除されなければ誠が死んでしまう。その可能性がある以上、誠が爆弾を解除するまで生かし続ける必要がある」


 拓人は、もう既に追いついており沙紀の後方に立って、彼女のことを一心に見ていた。

 そして、皇斗の方には目もくれずに拓人は皇斗に話しかけた。


「誠は?」

「今、こちらに向かっている。誠のことだから迷うことは無いだろう。余が高速で沙紀に追いつき、先に沙紀の動きを止めてしまおうという作戦だ」

「───背負ってくる、とかじゃ駄目だったのか?」

「そうだな。正論だ、否定はできない。───が、余の気分が乗らなかった」

「そうか。なら、しょうがない」


 皇斗の気分的な問題で走ることになった誠が、抵抗せずその場に大人しく伏せていた沙紀のところまで追いついた。

「すまない、待たせたな」

「別に構わん。余も背負ってやろうとしなかったからな」

「長身の俺が森宮に背負われるのも変な絵だろうよ。だから、それでいい」

 そう口にして、誠は沙紀の背中に触れる。


 ───すると、誠の肩がフッと軽くなったような気がした。


「時限爆弾は解除できた。2人には感謝する。ありがとう」

「どういたしまして」

「───では、沙紀を殺すぞ」

「構わん」


「───やれやれね。さっき私は誠君に遺言を残す機会をあげたんだから、私にもその時間をくれない?」

「断る。生徒会にかける優しさはない」

「えー、皇斗君。ひっどーい」


 その言葉と同時に、皇斗の手の中からピッケルの重さが消える。皇斗が、その一瞬の違和感を半瞬で捉え、抵抗しようとしたものの、皇斗の後方に立っていた人物が皇斗の後頭部に手をかざした事によりその動きを止めさせる。


 ───皇斗は直感で、誠と拓人の2人はその声がした方向にいる人物を目視することで、誠を助けるために皇斗と拓人が現れた時のように、一瞬で現れたその人物のことを認知する。


「どうしてここにいる...」

「流石にまだ沙紀に死んじゃれちゃうと困るからさ。来ちゃった」


「なら、お前も殺してやるよ。茉裕!」


 ───皇斗のすぐ後方にいたのは、同じく生徒会メンバーである茉裕であった。


 茉裕は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるのであった。誠達の行く末は───。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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