4月3日 その②
「こんな夜に...何してんだ?」
俺は、不審に思いつつも校門に近付いてみる。
「あ、栄!おーい!」
走っている健吾が、俺に声をかけてくれる。
「何してるんだ?」
俺は、目の前を通り過ぎても止まらない健吾を追いかけるように走る。
と言っても、凄くスローペースで走っていたためすぐに追いつけたのだが。
「何って、課題を」
「課題?」
「そう、課題だよ。栄にだってあっただろ?」
「そうか...あまり詮索しちゃうといけない感じ?」
「そういう事だな」
健吾はそんな事を言いながらも足を休めない。
課題は言ってはいけないのは皆共通なのだろうか。俺の個人メッセージにも「なお、このメッセージを喋る見せるなどの方法で伝えた場合課題達成にはならない」という一文が書かれていた。
「んじゃ、無闇な詮索はしない方がいいんだね」
「あぁ、そうしてくれると助かる。朝起きたら顔を洗うくらい当たり前の感覚で走るのに手伝ってくれ」
「なんだ?その例え」
そんな事を言っていると、後ろから誰かが追い抜かしてくる。
「───あれは?」
こちらを振り向いて、一礼したのは一人の少女だった。
「あれって、クラスメート相手に酷い言い方ね!」
そこにいたのは、茶髪をしたツインテールの少女───秋元梨花であった。
「あぁ、ごめんごめん」
俺は、顔の前で手を合わせて謝罪をする。
「それで、秋元さんも課題なの?」
「えぇ、そうよ。同じく詮索しないでほしいわ。それと、梨花って呼び捨てしてもいいわよ」
「あ、あぁ。わかった」
そんな事を言うと、梨花はまた走り去ってしまった。
「ハイペースだね」
「そうだな、何か時間制限でもあるのかな?」
そんな考察を立てる。だが、無闇な詮索はしないでおこう。梨花が課題失敗になったら可哀想だし。
「そうだ、栄は自分の課題をしなくていいの?」
「まぁ、まだできなさそうだし」
「そうか、すまんなランニングに付き合わせてしまって」
「まぁ、眠くないし」
5時間位寝たから眠くはないのだ。ただ、部屋で大人しくしていても暇なだけだから走っているのだ。
───俺は、十数分ほどランニングをした後健吾をおいてグラウンドを出た。
「純介も部屋で何かしてる可能性もあるな」
俺は、自分の寮に戻った。
そして、純介の部屋をノックする。
「栄でーす」
そう、伝えた。
”ガチャッ”
純介の部屋の扉は開いた。
「どうしたの?栄」
「健吾は課題で忙しそうだったし、稜はまだ出てきてなさそうだったから純介はどうかなって」
「僕はまぁ、普通だね」
「普通?」
「うん、あ!そうだ」
純介は部屋の中に一度戻り何かを取り出す。
「夜の騎士、誰の名前を書いたらいいと思う?」
純介が、俺に質問をした。
「───え」
都合よく、俺の課題が解決しそうになったのだ。
「正直、誰に使えばいいかなんて思いつく人はいないし...」
「そうだなぁ...」
「やっぱ、この相談をしたからには栄の名前を書いたほうがいいかな?」
「え、俺?」
「そう、だって栄に相談して栄の名前を書かなければ少し不自然かなって...」
「そう...か」
なんて言えば正解なのだろうか。健吾に書くよう指示するにはどうしたらいいのだろうか。
「いや、俺はいいかな」
「え、どうして?」
「俺を守るくらいなら、もっと他の人を守ったほうがいいと思うし...」
「そうかなぁ...」
俺と純介は部屋前の廊下で沈黙してしまう。
「でも、やっぱりその自己犠牲の精神を持つ栄が守られた方がいい様な気がしてきた」
「え?」
「だって、そうやって俺以外の人をって言ってるとすぐに死んじゃうよ。4月1日のクエスチョンジェンガだってタワーを倒したら他の敗北と同じように死んでいたらどうするつもりだったの?」
「え、えっと...それは...」
俺は、答えに迷ってしまう。一か八かの行動だったからだ。
十分に死んでしまう可能性はあった。
「だから、せめて禁止行為くらいは一度くらいセーフになるようにしとかないと...」
純介の気遣いはありがたい。でも、今じゃないのだ。きっと、今じゃなければ喜んで受け入れていただろう。
───いや、自分のことだから「5万もするんだから、もっと大切な人を守りなよ」とか言ってそうな気もするけど。
とにかく、今は純介の善意を受け取れない。
「んじゃ、栄の名前を書くことにするよ」
”ガチャ”
その時、扉が開く。
「はぁぁ...やっと開いた...」
自分の部屋から出てきた稜がそこにはいた。
「あれ、2人共こんなところでどうしたの?」
「純介の夜の騎士に名前を書く人を決めようとしてるの」
「そうなの?」
「うん、僕は自己犠牲の精神ある栄がいいかなって...」
「そうか...栄はどう思ってるの?」
「あ、えっと...俺よりも他の人を守った方がいいと思ってるよ」
「そうなのか」
稜は自分の顎を手で触れる。何か考え事をしているようだ。
「栄は俺とか健吾を守ろうって言ってるんだろ?」
「あぁ、そうだよ」
稜が上手く持っていってくれるような気がした。純介は自分自身の名前故に書けない。だから、俺か稜か健吾の3択に持っていったのだ。
「俺も別に守られようとは思わないよ。それに、栄を守らず俺を守れって言うのも図々しいしね」
「じゃあ...」
「健吾にしたらどう?」
稜が上手く持っていってくれた。これで、純介が納得してくれれば俺の課題は完了だ。
「栄、本当にいいの?」
「あぁ、純介。心配してくれてありがとな」
「うぅ...じゃあ、健吾のことを守ることにするよ」
純介はそう言いながら、部屋に戻りペンを取ってきた。そして、「安倍健吾」と名前を書く。
「んじゃ、これでいいかな?」
「あぁ、そうだな。これで健吾も守られただろうし」
「そうだね」
純介は夜の騎士を片付けるために部屋に戻った。
”トントン”
稜が俺の肩を叩く。俺は、稜の方を向いた。稜はニィと笑った。
そして、俺にスマホの画面を見せる。そこにはこう書かれてあった。
「栄の課題達成の手伝いをしろ。 なお、栄の課題は純介の夜の騎士に健吾の名前を書かせろ、と言うものだ。このメッセージは見せてもいい」
稜が、俺に手伝ってくれた真意がわかった。俺達は、ハイタッチをした。





