6月18日 その⑥
両手に1本ずつダガーを持った沙紀の初撃を、誠はなんとか避けた。
そしてそのまま、先程まで彼女のいた方向にダッシュで移動し、逃亡を決断する。
「───逃がすかっ!」
彼女は、そう口にして誠のことを掴もうとするも、逃げる誠の方が早いので、もちろん捕まえることができない。
「ならば」
沙紀は、誠が自らに背を向けていることを認知して、すぐに誠の方へダガーを投擲した。
───そう、ダガーは本来ナイフのような切り裂く行為よりも、突く・刺す・投げる───と行った行為に適していた。
沙紀の投げた2本のダガーは、誠の方へ迫っていき───
「───ッ」
彼は、後方からダガーが飛んできていることを己の感覚で感じて、すぐに体勢を低くして避けきった。
そのままダガーは、誠の奥へと飛んでいく。
「逃げられるッ!」
彼女は2本ともダガーを投擲してしまった為、手元にもう武器は残っていない。
「今が逃亡する機会だ...」
誠はそう口にすると、地面に落下したダガーを拾って回収した後にその場から逃げていったのだった。
───そして、誠は5分ほど全力ダッシュで逃げて沙紀を撒く。
「逃げ切ったな。沙紀も、俺一人に固執するほど馬鹿ではない。俺に早速正体がバレた以上追ってこないだろうからな...」
誠は、沙紀のことをそうやって冷静に分析した。
───と、誠のポケットに何か一枚の紙が入っていることに気が付く。
「これは...」
誠は、ポケットからその手紙を取り出す。そこに書いてあったのは、このデスゲームのルールだった。
「マスコット大先生が、俺をここに転移するのと同時に仕込んだのか?」
最初はこんな紙持っていなかった。入れられたタイミングを考えるのであれば、それだけとしか思えないだろう。
───と、誠は他のところでは空から紙が降ってくることを知らないので、これが当たり前だと思っているが、他の例を知っている人からすれば、それが異常であることに気が付くだろう。
そして、勘が鋭い人───例えば、栄や純介であれば「マスコット大先生が沙紀と戦闘になることを見越して用意していた」と考えるはずだ。
沙紀が茉裕に操られている───というのもあるが、それ以上に沙紀には戦う、人を追いかけ回す理由があるということ、それは即ちオニである───ということにはならないだろうか。
実際のところ、沙紀は茉裕から選ばれた2人目のオニである。
その沙紀は今、どこで何をしているのかというと───
───第6ゲーム『件の爆弾』のルールを見て思考を巡らせている誠の後方で、先の鋭いピッケルを振り上げていたのだった。
「───ッ!」
ルールとにらめっこして集中していた誠であったが、後ろから迫りくる脅威に一瞬で気が付き、すぐに回避行動を取った。
誠は、地面を転げてどうにか避ける。先程まで誠がいたところの地面には、ピッケルが深々と突き刺さっており、引き抜かれる時に足元にあった石が粉々に割れているところが見えた。
「ピッケルか...」
もし、あのまま避けることができずに、頭に当たっていたら頭蓋骨をかち割って、脳みそをかき混ぜていただろう。
だけど、誠はなんとか避けきった。後ろから迫ってくる危機を察知したのだ。
常人には存在しない危機察知能力───が、第4ゲーム『分離戦択』で靫蔓と、ラストバトルで九条撫子と戦闘した誠は、危機察知能力を手に入れていたのだ。
「そんなピッケル、どこに置いてあった?」
沙紀が、早くも新しい武器を手に入れていることに誠は、疑問を持った。そこで、彼はそんな質問をしている。
「あれだけ大きいテディベアの中身が、ガター2本だけな訳無いでしょう?テディベアの中に、入れていたのよ。本命のこのピッケルを」
沙紀はそう口にしてピッケルを誠の方へ向ける。
「───勝負することからは逃げられないのか?」
「えぇ、そうよ。私と戦いなさい」
誠は、ここで勝負を受けるか受けないか少し思案したものの、答えは2つに1つのようだった。
もしここで断ったとしても沙紀は問答無用で襲いかかってくるだろうし、先程5分ほど走って逃げてきたところに追いついてきたのだから、ここで再度逃げても、また追いかけ回してくるだろう。
それに、ピッケルという1発で人を殺せることも可能な武器を保持しているのである。
「ルールによるとゲームは30時間ぶっ通して行われるらしいから、できることならこんな序盤で体力を使いたくないんだがな...」
誠はそう口にして、先程回収しておいたガター2つを両手に持って握りしめる。
「あまり慣れない...が、まぁ使うに越したことは無いだろう」
誠は、そう口にして戦闘を決断する。
───まだ、第6ゲーム『件の爆弾』が始まってから、10分程しか経っていない。
だが、ここで誠vs沙紀の戦闘が始まろうとしていた。
「勝負するなら、容赦はしないわよ」
「それはこっちも同じだ。女だろうと、手加減はしない。死んでも文句は言うなよ?」
───そんな言葉と同時に、戦闘は開始する。