6月18日 その⑤
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(逃亡者側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
「───どうしてお前が、ここにいるんだよ...茉裕!」
稜と共にデスゲーム会場へ転移されて来たのは唯一生徒会メンバーだと判明している人物───茉裕であった。
───と、栄達は沙紀のことも生徒会だと思っているのだけれど、沙紀は茉裕に操られて共に行動しているだけなので、本当の意味で生徒会だということが判明しているのは、茉裕だけなのだ。
茉裕は、その黒髪をたなびかせてニヤリと笑みを浮かべる。
「稜君。お願い、私を助けて」
「───あ?」
稜は、そう声をかけてきた茉裕に、驚いてしまう。茉裕の目には、涙が浮かんでいたのだ。
「助けて、私...生徒会じゃないの!生徒会に脅されてるだけなの!」
茉裕は、そう口にして稜へと近付く。
「───本当か?」
「本当よ、これまでずっと...ずぅっと怖かった!これまでの行動は全部脅されてたの!今日学校に来たのだって、生徒会にそうやれって命令されたからよ!」
稜は、茉裕のその言葉に困惑してしまう。
───稜は、心優しい少年だ。
栄や愛香に散々言われて、敵だと疑わない茉裕の話であろうと、稜はその言葉に耳を傾けてしまう。
その上、茉裕は演技派だった。その両目に涙を浮かばせ、どうにかこうにか助けを乞おうとする名演は、嘘だとは思えないだろう。
───が、もちろん嘘。
茉裕が生徒会に脅されて言いなりになっている───だなんてのは、全くの嘘。マスコット大先生や、他の生徒会メンバーに確認を取れば、異口同音にそう口にするだろう。
「生徒会に...脅されてるのか?その生徒会メンバーは誰だ!」
稜は、泣きながらゆっくりと歩んでくる茉裕に対して、その場から動かずにそう質問する。
「生徒会メンバーは...純介君」
「───ッ!」
驚いた稜と同時、茉裕は稜に飛びかかる。その目的は、稜に触れることだろう。
そう、触れること。
───この時、確定した。
対象に触れる触れないは関係ないことが茉裕の体質である以上、稜を触れようとする行為は、自らが「オニ」であることの証明。
そして、茉裕は稜に触れ───
───ようとした刹那、その飛びかかってくる体躯を避けるように動くのは稜。
「───避けっ!」
「危ない危ない、何をされるのかわからないから思わず避けちゃった...」
そうやって口にし、一歩ずつ茉裕のいる方から後退している稜。茉裕のことを蹴り飛ばさずに、避ける───という、いくら敵でも女性を傷つけはしない動きをするのが稜らしい。
まさか避けられるとは思っていなかった茉裕は、そのまま地面へと転び驚いた顔を稜へと向けている。
「なんで避けれたの───って顔してるね。教えてあげるよ、純介が───俺の親友が生徒会なわけないからだ」
茉裕の人選ミス。
きっと、多くの人物が「純介は生徒会」と聞いたら納得してしまうだろう。
だけど、稜は違った。妄信的に友達を信じている稜は、純介の名前が出た瞬間に、嘘だと判断。
そして、何をしてくるかわからない茉裕から距離を取ったのだ。
「茉裕、君は生徒会確定だ。俺は、茉裕なんかより純介を信じるよ」
そう言って、稜は茉裕へ背を向けて走り始める。
「───クッソ、逃げられた...」
茉裕は、そう口にしてゆっくりと立ち上がる。稜を追いかけることはせずに、別の標的を狙うようだった。
「別に、オニであるなし関係なしに、私が信用されないのは当然。もう、これ以降誰も操れないと思っていいかもしれないわね...」
茉裕は、呆れ返ったようにそう口にする。
「アイツは大丈夫だとして...心配なのは沙紀ね。沙紀は大丈夫かしら...」
茉裕が心配するのは、自らの体質によって操っている人物の傍らである、沙紀であった。
茉裕の操りによって、従来よりも何倍も凶悪になっている沙紀は今───
***
「───綿野」
「誠君」
綿野沙紀と対面するのは、一人の男性───西村誠であった。
沙紀の足元には、巨大なテディベアの人形が横たわっており、彼女はそれを大事そうに抱いていた。
「私と一緒のところに転移されちゃって、残念に思うがいいわ」
「残念だな、俺に残念に思えるほどの感情はない。形ばかりの謝罪をしよう。申し訳ない」
誠をジロジロと見る沙紀に対して、誠は自らの感情が薄いことへの自虐をそう口にした。
誠は、第4ゲーム『分離戦択』を経て、プラスの感情の氷山の一角を取り戻すことに成功していたが、マイナスな感情は無いに等しい。
「へぇ...じゃあ、私が教えてあげるよ。恐怖という感情を」
そう口にすると同時に、沙紀はテディベアの腹部の布を今にも割れそうな長い爪で引き裂いて、中から大量の綿と一緒に入っていた2本のダガーを取り出した。
「そんなものどこで手に入れた?」
「ショップで買えたの。とある仲間の、全財産を注ぎ込んだわ」
「武器の持ち込みは有りなのか?」
「こうしてここに存在しているのがその答えよ」
売り言葉に買い言葉。ああ言えばこう言う2人の会話の後に、沙紀は誠へと迫りくる。
「随分と厄介な奴の近くに転移されたな...」
誠はそう口にして、両手に持たれているダガーを振って攻撃してくる沙紀の剣筋を見極め、初撃を避けるのだった。