6月18日 その④
第6ゲーム『件の爆弾』のルール(逃亡者側)
1.ゲーム会場内にいるデスゲーム参加者の中から、3人のオニが選ばれる。
2.オニは3人それぞれに、違った爆弾と勝利条件・敗北条件が授けられている。
3.オニじゃないデスゲーム参加者───逃亡者は、試合開始から30時間生き残れば勝利となる。
第6ゲーム『件の爆弾』のゲーム会場に転移させられた智恵の近くに転移していたのはクリーム色の髪を持つ制服をしっかりと着た少女───佐倉美沙であった。
美沙は、第3ゲーム『パートナーガター』の裏で行われた梨花との結果の延長線上で、クラスの男子にレイプされたことで、男子に対してトラウマを持っている人物であった。
「誰、誰誰々ッ!」
見知らぬ場所に転移させられて、美沙はビックリしているのだろう。人のいない場所で、人が立てたであろう音に恐怖する。
傍から見れば、大袈裟な驚き方だろう。だけど、彼女が植え付けられた男性への恐怖心を考えれば、なんらおかしいことではなかった。
───そんな彼女の辛さを、栄と出会う前に学校中の男子から輪姦され、妊娠させられた挙げ句、拳で流産パンチまでさせられた智恵だからこそ、理解することができる。
「大丈夫、怖くないよ。私は智恵だよ、男じゃない。私は、美沙の味方だよ」
智恵は、そうやってツラツラと美沙を安心できるような言葉を並べる。智恵は、美沙の辛さをもう既に理解しているのだ。
恋人である栄から、「美沙がクラスメイトから強姦されたらしい」という報告を聞き、智恵は昔を思い出しては彼女に同情していたのだ。
栄に過去を話した智恵は、栄にほんとうの意味で愛されることによって、過去のトラウマが少しだけ薄くなっていた。
智恵に、話すことさえ憚れ、聴くだけで吐き気を覚えさせ、思い出すだけで目眩がするような程のトラウマを植え付けさせた元彼───橋本隆貴から離れ、栄を覚えることによって背負いきれないトラウマを、どうにか薄めることができていたのだ。
智恵は、己の過去・トラウマをなんとか背負い、同じ経験をした美沙に対して優しさの手を伸ばしていた。だが───
「いや...嫌ッ!」
美沙は、そう口にしてその瞳に涙を写しながら、智恵が伸ばした手をはたき落として、もつれて転んでしまいそうな走り方で逃げていった。
「逃げられちゃった...」
智恵は、走り去る美沙の背中を見てそう口にする。どんどんその背中は遠くなっていき、終いには鬱々勃々と木々が茂っている森林の奥深くへその姿は消えていった。
「大丈夫、かな...デスゲームのルール、把握できてるのかな?」
智恵は、美沙に渡せずに終わってしまったデスゲームのルールが書かれた紙を眺める。
───今回のゲームは、ランダムに決められた2人が近い場所に転移させられるのであって、ペアで行動しなければならないわけではない。
だから第3ゲーム『パートナーガター』のように誰かが最重要なわけではない。
だが、この学校に来て早くも2ヶ月半。友情を芽生えてしまった今、クラスメイトであるオニと対峙するにも覚悟が必要であった。
「栄、どこかにいるかなぁ...」
智恵も、自らが守りたい───いや、守られたいだろうか。否、それも否、どちらでもなく恋人であるから一緒にいたいという理由で、同じクラスの中で、一番大きな信頼を置いている恋人───池本栄の場所を、智恵は探そうとしている。
「───って、あれ。スマホが見当たらない...」
智恵は、自分が着ている体操服のズボンの右ポケットに入れていたはずのスマホが無いことに違和感を覚えて、その場をしばらく探したものの、見つからなかったのでマスコット大先生がゲーム会場に持ち出しを禁止したのか───と、気が付く。
「しょうがない、歩いて探すしかないのかな」
智恵は、そう口にして単独行動を開始した。目指すは栄。
さて、そんな智恵が探している栄はどこにいるのだろうか───
***
───森林と草原の境界線にて。
俺と純介・梨央・紬の合計4人は、他の4人───智恵・稜・健吾・美緒を探すために、デスゲーム会場を練り歩いていた。
「あ、栄」
「お、歌穂」
「僕もいるよ」
「奏汰!」
俺達が邂逅したのは、歌穂と奏汰の2人であった。なんだか、珍しいペアだけれど2人に関わりはあったのだろうか。
「スタート地点が近くだったから、一緒に行動してるのよ」
「そうだったんだ」
「4人共、同じところがスタートだったの?」
「いや、僕と紬・栄と梨央が近くだったよ」
「へぇ、じゃあ2人組がランダムに選ばれて転移してるのか...」
「それにしても、歌穂が普通に奏汰と一緒に行動してるなんて珍しいな。4月の最初の方だったら、出会った瞬間乱闘が始まっててもおかしくない」
「ちょっと栄、それってどういう意味?」
俺が歌穂に軽口を叩くと、歌穂はツッコむかのように怒った。
「別に、変な意味じゃない。昔は戦闘狂だったのに、成長したなって」
「よしわかったわ、栄。アタシに叫び声を聴かせてくれるっていうのね」
「あー違う違う!ストップ!」
今にも襲いかかってきそうな歌穂の怒りをなんとか収めさせて、どうにか乱闘を回避する。
「それで、奏汰と歌穂は健吾や稜・智恵に美緒は知らない?」
「すまない、僕は純介達と出会うのが最初なんだ。他に何も情報はないよ」
俺と歌穂が、戯れている間に純介が奏汰に対して真面目にインタビューしていたようだ。
だけど、他の4人の目撃場はない。俺達は、奏汰にお礼を言ってその場で別れた。
さて、他の4人はどこに行ったのだろうか。
稜と合流できればいいのだけれど。稜は今、どこにいるのだろうか───
***
「おいおい、どうして俺の目の前にお前がいるんだよ...茉裕」
稜の目の前にいるのは、一人の女子───生徒会の紅一点、園田茉裕であった。