6月11日 その㉓
「それでは、試験も終わりましたし本日は解散にしたいと思います。今日までの3日間、お疲れ様でした」
マスコット大先生がそう挨拶をすると、教室を出ていく。
「はぁ...テストが終わったのか」
そんなこんなで、俺達はテストから解放される。長かったような短かったような試験を終えて、俺達は寮に帰ることにしたのだった。
まだ、諸問題は山積みである。だけど今日は、精神的にも疲れていたのでゆっくりと休むことにした。
俺は智恵と一緒に帰り、生きていることに感謝をしたのであった。
***
───こちらは、ゲームが終了した後のチーム1の『友情の天秤』が終えられたデスゲーム会場。
止まったタイマー。破壊された机。散らばった銃。死亡した真紀。
それを眺めながら、熱血マスコット代先生は今日という日を生き延びたことに安堵していた。
「今日は、田口真紀さんが死亡していなかったら私が死んでいたとは...助かりました」
マスコット代先生は、そう口にする。彼は、被り物を取って額に浮かんでいた汗を拭いた。
───と、そこにやって来たのはマスコット大先生であった。
「どうしたんだ?俺!!」
「いや、どうもしませんよ。蛇神ナーガを見に来たんです」
「あぁ、そう言えばそうだったな!!蛇神ナーガの後処理をしなければ!!」
そう、マスコット大先生とマスコット代先生は死亡したはずの蛇神ナーガ───龍神ナーガの後処理を試みていた。
今回のゲームで死亡したのは、あくまで龍神ナーガが憑依した肉体を持つ真紀だけであった。
だから、龍神ナーガはまだ生きている。伝承の中で、神という形で生きていた。
そして、その龍神ナーガは「肉体に憑依する」という契約が───いや、足枷がない通常の龍の姿をした状態こそ、真の力を発揮することができるだろう。
「生きているんでしょう!!蛇神ナーガさん!!熱くなって、立ち上がってください!!」
マスコット代先生は、真紀の肉体に憑依したまま動かない龍神ナーガにそんな声をかける。
「憎たらしい...憎たらしいぞ、小僧!」
「私は生徒のような小僧ではありません!私は、教師です!」
「俺は2500年以上生きた神だぞ、50年だって生きていない貴様らは小僧だ」
「違いますよ」
「───あ?」
「正確には、3次元の時間間隔で50年未満です」
「憎たらしいぞ。そんな話はどうだっていい。今はムシャクシャしてるんだ。食い殺すぞ?」
「食い殺すなんて汚い言葉遣いはよくないです───」
「───え」
マスコット大先生の隣で食べられるのは、言葉遣いを注意したマスコット代先生であった。真紀の死亡した肉体から飛び出し、マスコット代先生の上半身はひと齧り。そこに残ったのは、腰から上が無くなったマスコット代先生であった。
「我が負けたのは、真紀という肉体の制限があったから。あれが無ければ、負けることなどなかったそれだと言うのに...実に憎たらしい!」
龍神ナーガが怒りを見せるのは、やはり鈴華のことだろう。彼女に敗北したことで、怒髪天を突いているようだった。
「貴様を殺し、生徒も殺す。我が最強であることを証明するのだ!」
「私がそれを認めるとでも?」
「認める認めないの問題ではない。我は貴様を食い殺して先に進むのだ」
「───ほう、面白い」
マスコット大先生は、目の前でそう豪語する龍神ナーガに対して、笑みを見せる。
「私はよく人の心がないとか悪魔だとか言われますが、正真正銘悪魔であるアナタを前にしては、私もちっぽけな人間です。だからここは、人間らしくさせて貰おうと思いますよ」
「憎たらしいぞ、人間のくせに。貴様を食らう」
「お好きなように。だけど、抵抗はさせてもらいますよ。私はデスゲームの運営である以前に、皆さんの教師です。ですから、デスゲーム以外での被害者は出させません!」
マスコット大先生は、目の前にいる龍神ナーガにそう宣言する。武器を持たぬ先生の、男気あふれるその発言。
「憎たらしいぞ」
───が、マスコット大先生は一瞬にして龍神ナーガに食べられてしまう。
「───ッ!」
マスコット大先生は、自らの左腕をガブリと噛まれて一瞬で失った。
「う、腕がぁぁ!」
マスコット大先生は、左腕が無くなったことにより、その痛みと驚きからかその白い部屋を───正確には、一部が鮮血に塗れた白を基調にした部屋を転げ回る。
「ふん、人間ごときが我に逆らったからそんなことに───」
”ゴンッ”
その時、龍神ナーガの頭上にぶつかるのは、地面に転がっていた銃であった。擦り傷一つにすらならないけれど、マスコット大先生は龍神ナーガに攻撃することに成功する。
「憎たらしいッ!」
そして、マスコット大先生は上半身から下半身にかけて丸ごと食べられ、そこに残ったのは鎖骨から上と、太ももから下だけだった。
「憎たらしい...実に憎たらしい!我に銃を投げつけるなどとは!貴様の生徒も全員、食い殺してやる!」
そう宣言して、扉の外に出て暴れようとする龍神ナーガ。
栄達第5回デスゲーム参加者に気概が加わろうとしていたが───
「───あらら、マスコット大先生を助けるのは間に合わなんだか。せやけどまぁ、しゃあない。龍神ナーガ、マスコット大先生の仇はワイがしっかりと取らせてもらうで」
そこに現れたのは、第2回生徒会メンバーであり『傑物』と称される男───大神天上天下であった。
「憎たらしいぞ、小僧。今の我の前に現れたその行為、後悔することになるだろう!」
「ワイが自分自身の行動で後悔するわけあれへんやろ。ワイは失敗せぇへんのせやさかい」
1人と1匹の勝負が、今始まる。