6月11日 その⑱
「憎たらしい...実に憎たらしい!」
その言葉と同時に、ユラユラと髪の毛代わりにいる2匹のインドコブラを動かす蛇神ナーガ。
彼女は、女子のツートップと表現してもいい鈴華と愛香の2人を、いとも簡単に吹き飛ばしたのだった。
「───なんだよ、アイツ...」
目の前にいる怪物を前にして、鈴華と愛香はゆっくりと立ち上がる。2人が吹き飛ばされたのを確認して、他の全員も臨戦態勢を取った。
「拓人...」
「梨花は後ろに下がってて」
そう言って拓人は、梨花を庇うように立つ。が───
「お前からだ、小僧!」
その言葉と同時に、ダンッと音を立てながら地面を蹴って移動する蛇神ナーガ。ナーガは、梨花を庇うように左腕を横に伸ばしている拓人の方へ迫っていくのであった。
「狡猾───」
拓人は、自分に迫ってくる怪物を退けようとするものの、後方には梨花がいる為動けない。だから───
「俺も漢だ!攻めるのみ!」
そうして、拓人もナーガの顔を向けて右手を伸ばす。
「───愚かな小僧めッ!」
ナーガは、そう口にすると髪の毛代わりのインドコブラを拓人の伸ばす右腕に噛みつかせ───
ボゴッ。
───る前に、ナーガの腹部を殴るのは、真胡であった。
「───ぐっ」
真胡の振るう友達想いの暴力は、怪物相手にも───悪魔相手にも通用する。
真胡の拳にぶつかったナーガは、吹き飛ぶことこそ無かったものの、後ろに数歩下がる。
「よくも...」
「一人に集中するなんて、アホね!」
「───ッ!」
その言葉と同時に、ナーガの後ろから振るわれる2本の脚。その脚を放つのは、咄嗟に動けた美玲と歌穂であった。
2本の脚は、ナーガの後頭部に激突する。2匹いるインドコブラは、2人の接近にも接触にも対応できなかった───
───はずなのに、美玲と歌穂の脚はそれぞれ1匹ずつインドコブラは噛みついていた。
「んなっ!」
「視覚から蹴ったはずなのに!」
「ピット器官」
「え?」
その、不可思議な行動に口を開くのは奏汰。彼は、悪魔という非科学的な生物を目の前にしても冷静に判断していた。
「ピット器官って、ニシキヘビ科とかが持ってるあの?!」
噛まれた美玲は、脚を庇いながらそう口にする。ナーガは、接近していた真胡に警戒して、少し距離を取っていた。
「コブラ科はピット器官を持っていないはずでしょう?!」
「きっとピット器官を持っているのは頭の方の蛇じゃない。真紀の方の───ナーガ本体の方だ!」
奏汰は、すぐにそう判断する。
───と、ピット器官とは何か。
蛇に詳しくない人もいるだろうから、ピット器官について話す必要があるだろう。
ピット器官とは、ニシキヘビ科やマムシ亜科・ボア科のヘビが持つ恒温動物から放射される赤外線を感知できる機能のことだ。
コブラ科にはピット器官が無いとされているが、今回持っていたのは髪の毛ではないナーガ本体の───真紀の方が使用していたのだ。
そのピット器官によって、後ろから飛んでくる2つの足を避けたのである。
───そして、2人の脚から入り込むのは神経毒。
「何が───」
美玲が、噛まれた脚の方を見ると皮膚の細胞が壊死しかけていた。
「壊死...」
「ならば、動ける時に動けるだけ!」
美玲が脚の壊死に驚いているのと同時に、歌穂の壊死した脚でそのままナーガの方へと飛びかかる。
そのまま、歌穂の体にヘビが噛みつこうとするが───
「こんなヘビ風情に妾が遅れを取るとはな...随分と、舐め腐っていたようだ」
割り込んできた愛香が、歌穂に噛みつこうとするヘビを引きちぎり壁に叩きつけて殺害する。
「───ッ!」
歌穂は、そのまま勢いを止めることなくナーガ本体の頭に攻撃を加える。
「よくもッ!」
「ぐっ!」
歌穂の鳩尾に、ナーガの肘がめり込むけれども彼女はナーガに引っ付いて吹き飛ばなかった。
「離れろ───」
「よく止めてくれたね。歌穂」
「───」
その言葉と同時に、動き出したのは奏汰。
『後ろ腰』
「憎たらしいッ!」
奏汰は、ナーガのそんな言葉を無視して正面から組みかかり地面に叩きつける。そして、動きを止めたと思うと───
「───鈴華ッ!」
「任せやがれ、この野郎!」
"ドンッ"
ナーガの頭髪にいる最後の1匹の蛇を鈴華は、自らの全体重をかけたことによって圧死させた。
「憎たらしい...憎たらしいぞ、小僧め!」
そうやって、必死に抵抗しようとするナーガ。だが、奏汰は咄嗟に組技を行ったのでナーガは動けなくなる。
「このまま...意識を落とすよ」
奏汰は、そう口にしてナーガの首元を圧迫する。そのまま、ナーガに勝利する───と思ったが。
「小僧共...我をこうも扱いやがって!」
「───ッ!」
その直後、奏汰は遠くに弾き飛ばされる。爆発的なエネルギーと同時に、ナーガは姿を変えたのであった。
ナーガが先程までいた場所にいたのは───
「───竜人」
皆、直感で理解した。人間8:竜2と、ケモナーが見たら眉をひそめそうな竜人が、この部屋の中心にいたのだ。
「クソ...」
「そ、奏汰!」
奏汰は、先程の爆発的なエネルギーの影響か、腹部からダラダラと流れていた。
───ナーガは第2形態となり、戦闘は続行される。
腹部を怪我した奏汰と、脚が壊死して思うように動かせなくなってしまった美玲と歌穂は、もう戦力外であったし、梨花はそもそも戦力ではない。
残っている戦力は、安土鈴華・柏木拓人・東堂真胡・森愛香の4人である。
そう言えば、名前にも少しだけヒントがあったりしました。
蛇はとぐろを巻くので、「マキ」と言う名前にしてみたりです。
他にも、第3ゲーム『パート「ナーガ」ター』だったり...