6月11日 その⑰
諸事情で昨日は更新できませんでした。
一昨日、あんなことを書いたから何かあったのか心配させたかもしれませんが、僕は大丈夫。生きてます。
真紀に憑依したのは、インド神話に起源を持つ蛇神ナーガであった。
蛇神ナーガに憑依された真紀の体は、大きく姿を変えてメデューサのように、7匹の蛇───インドコブラを髪の毛代わりに生やしたのだった。その毒々しい色をした7匹のインドコブラは愛香達へ威嚇するように体をユラユラと動かしていた。
また、真紀の瞳は瞳孔が人のものから縦長のものに変わり、全身に鱗が行き渡っていた。
その、異常な風貌に変化したことでその場にいた全員が、この世にあらざる者に真紀が変化をしたことで理解した。
「メデューサ───いや、ヤマタノオロチか?」
奏汰は、目の前の怪物を前にしてそう口にした。
「メデューサでもヤマタノオロチでもない。我が名は蛇神ナーガ」
蛇神ナーガと、名前に「神」を冠しているが、ナーガが人間と結ぶ契約は神様の行う所業ではなかった。
それに、ナーガはある特定の「神」の名前を指す名前ではない。ナーガは、あくまで種族名なのだ。
だから、ナーガが悪魔に堕ちることも神として君臨することも両方有り得るのであった。
真紀が契約を結んだのは、悪魔に堕ちた方のナーガであった。
「約2500年振りのお目覚めだ。憎たらしい小僧共を蹴散らしてやる」
先程から、喋っているのは真紀の髪から生えているインドコブラではなく、真紀本体であった。きっと、蛇神ナーガの形状はメデューサと似た感じで、頭のインドコブラと本体の意識は別々なのだろう。
「ど、どうするの?!」
美玲は、不意に人ならざる者に姿を変えた非現実的な真紀の対応に困ってしまう。
「どうするもこうするも、最早真紀は人間ではない。殺すしかないだろう!自己保身ついでに脱出できれば一石二鳥だろう!」
愛香はそう口にして、机の上に置いてあった銃を回収した。
「小僧、持っているその黒い塊はなんだ?」
「妾を小僧扱いとはな。図が高いぞ」
「愛香!」
愛香は、真紀に───いや、もう蛇神ナーガに憑依されている彼女のことを「真紀」と呼称するのは不正解だろう。もう真紀は、完全に蛇神ナーガに肉体を任せているし、次に復活する時は真紀以外の全員が死亡した場合か、蛇神ナーガが死亡した場合の二択だろう。
また、蛇神ナーガが死亡した場合は真紀も十中八九死んでいる。
真紀は、これまで隠していた蛇神ナーガに頼るほどには今回の試験『友情の天秤』で死ぬ未来が見えていたようだった。
「死ね、怪物がッ!」
愛香が、銃弾を放つ。狙うはもちろん、蛇神ナーガ。
───が、頭に生えてたインドコブラの内の1匹が蛇神ナーガを庇うように銃弾を食らったのだった。
『友情の天秤』には、「3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する」というルールが存在している。
愛香が狙ったのは、蛇神ナーガだから本体に当たるはずだった。だが、頭のインドコブラに命中したのには理由がある。
それは至って単純明快。頭にいる7匹のインドコブラを含めて、蛇神ナーガであるからであった。
「───クソがッ!」
愛香が悪態をつくと同時。
咄嗟の判断で、蛇神ナーガの方へ銃弾を放ったのは自らの手の中に銃を持ち合わせていた歌穂と美玲・鈴華に奏汰の4人であった。
初めて発砲するのにもかかわらず、目の前にいる怪物に全員が銃弾を命中させたのは、やはり天才だと言えるだろうか。
───が、天才達の目の前にいるのは天才と契約した怪物。
飛んできた銃弾を、咄嗟に頭のインドコブラに命中させて自らの身を守ったのだった。銃弾が命中したインドコブラは、弾により肉が焼き切られており、死亡しているのかブランと体を横たわらせていた。
愛香達は、合計で5発放った。だが、頭にいるのは7匹。よって、今は2匹が残っている状態だった。
「アタシも───」
そう言って、梨花が自席に置いてあった銃を手に取り、蛇神ナーガに向けて発砲するが───、
「───あれ、おかしい!弾が!弾が出ない!」
銃からは弾が発射されることはなかった。
───そう、『友情の天秤』には「5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能」というルールもあるのだ。
逆に言えば、5秒以上経った今は銃を撃とうとしても撃つことができない───というものだった。
「───ッチ」
鈴華と愛香は、すぐにその事実に気付いたのか───鈴華は気付いたかもしれないが、愛香はルールを読んでいないので気付くも何も無いだろう。
そもそも、彼女が誰にも相談せずに発砲したのは「5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能」というルールが───言い換えると、「誰かが死亡してから5秒以上は、発砲不可能」であるというルールを知らなかったからである。
「憎たらしい...憎たらしいぞ、小僧共」
蛇神ナーガは、そう口にする。そして、自らに接近した鈴華と愛香を両手を広げるという行為だけで、壁際まで吹き飛ばしたのだった。
マスコット代先生は、被り物の中で笑みを浮かべたいた。銃弾が蛇神ナーガに放たれたことで自らが死ぬ可能性が無くなったからだ。
「さあ!!!皆さん、相手は正真正銘悪魔です!!!気を休めていると死んでしまいますよ!!!」
マスコット代先生のそんな言葉に苛立ちを見せながら、壁にぶつかった鈴華と愛香は、立ち上がったのだった。
8人の前に立ちはだかるのは、蛇神ナーガ。
悪魔という非現実的な生物と、天才8人。より強いのはどちらだろうか───。