6月11日 その⑯
拓人から始まった「生きていて欲しい人」の提案は、鈴華まで終えて半分を超えた。
だが、鈴華が梨花と同じく拓人を「生きてい欲しい人」に提案したがために、全員に1票ずつ入る───という未来は潰えたのだった。
柏木拓人→梨花
秋元梨花→拓人
細田歌穂→鈴華
竹原美玲→愛香
安土鈴華→拓人
田口真紀→??
結城奏汰→??
東堂真胡→??
森愛香 →??
「───ん、次は私?」
真紀は、気付いていたのだ。現在投票されていない現状で、どんな未来になるのか。
ここで、少し彼女の過去の話をしよう。
***
───真紀は、聡明だった。
だが、彼女のその聡明さを否定するかのように、ある一つの事象が彼女の人生に影響を与えた。
彼女の家の家族関係は良好であったし、恋人とイザコザがあったわけでもない。
また、誰かと悲劇的な死別をしたわけでもなければ、彼女に学習の機会が与えられなかった訳でもない。
環境に恵まれた彼女を変えたのは、今では顔も名前も思い出せないような友達に借りた魔術の本。
遥か昔、人間が神に縋ることに飽き、神の世界を更に広げようと生み出した空想の怪物───悪魔。
彼女は、その悪魔に心を惹かれたのだった。太古の人間が訝しみ軽蔑し恐れた悪魔を、科学が跋扈するこの時代に生きる彼女は慈しみ慕い愛した。
そして彼女は大奥義書を、ゴエティアを、ソロモンの鍵を、アブラメリンの書を、ガルドラボークを、アルマデル奥義書を、レメゲトンを嗜んだ。
───が、彼女の悪魔に対する欲求は知るだけじゃ収まらなかった。
彼女は、これまでに読んできた知識を最大限に利用して、悪魔を自らの元に召喚しようと行動したのだった。
両親は、高校にも入って悪魔に熱中し、心から心酔している真紀のその行動に、驚きこそしたものの、その熱心さは「いいことだ」と捉えて、彼女の行動を促進こそしなかったものの否定もしなかった。
───そして、彼女は発見する。
悪魔を召喚することはできなかったが、悪魔は確かにこの世に存在することを。
彼女は、留学という形で実際に、その悪魔の伝承が残っている国まで移動した。
そこは、インド。
インドの中でもドグリ語を話す北部のパンジャーブ地域にて、彼女は華の高校2年生を過ごした。
ちなみに、帝国大学附属高校の勧誘の話は両親からの連絡で知って、承諾していた。
彼女は、自らの人生の全てを利用して悪魔を探していたのだ。
───と、気になるのは彼女は悪魔を見つけたかどうかだろう。
彼女は───真紀は、悪魔を見つけていた。そして、自らの寿命の大半を、実に70年を引き換えに悪魔と契約していた。
きっと、それは非現実的な話だ───と、科学が蔓延っている今人々は馬鹿にするだろう。
呪術というものを否定し馬鹿にして生きてきている大人は、魔法というファンタジーを、創作物の中にしか見出だせない社会の歯車として必死に藻掻いている大人は、お前らはきっと真紀のことを馬鹿にするだろう。
───が、真紀は悪魔を信じているから見つけることに成功した。
呪術が、悪魔が信じられ崇め奉られていた太古の時代の人物のように、悪魔に惹かれていた真紀だからこそ、非現実的で非科学的な悪魔という存在に出会うことができ契約することが可能だった。
これは、創作ではない。れっきとした現実。
───と、どうしてこんな話をしているか。
どうしてわざわざ今、これまで目立った活躍のない真紀の過去を回想しているのだろうか。
今ここで真紀が殺されるから?書く内容が思いつかなかった為の尺稼ぎ?
どれもが正解で、どれもが不正解だ。
───だが、強いて正解を導き出し答え合わせをするというのであれば、彼女が契約した悪魔───ナーガを自らの体に憑依させたから、であろう。
***
───真紀は気付いていた。
「生きていて欲しい人」を推薦するよう言った奏汰は、自らが生き残るという確信があったからこそそう提案したことに。
今思えば、ここにいる男子は柏木拓人・東堂真胡・結城奏汰の3人。
そして、拓人は確実に恋人である梨花にいれるであろうから、東堂真胡と結城奏汰の2人は、お互いの身を守るためにも、相互に入れ合うことは簡単に予想がつく。
自分より後に発表する人物で、他にいるのは愛香だが、愛香は自分に票をを入れるとは思えない───愛香は、誰にいれるか予想はつかなかったが、自分に入れる可能性は低いので、真紀は決心したのだった。
「真紀は、誰を選んだの?」
歌穂のその質問を、聞き入れずに歌穂は行動を───詠唱を開始する。
「天上天下唯我独尊・神ならず者が神になり、人ならず者が人になり、蛇ならず者が蛇になる。己を殺し爾を殺し前後際断す。この世の全てを愛することは則ち、この世の全てを嫌うこと。愛することを知り、嫌うことを知る。その先に真なる愚かは存在する。愚かな私に道を示し、愚かな私を死たらしめるため顕現せよ───」
「何をブツブツと言っているのだ、気持ち悪い」
真紀が詠唱を終えようとしたその時、愛香はその異常性に気が付き、真紀の口に蹴りを入れるのであった。
「───憎たらしい。実に憎たらしい。我のことを蹴ろうとは」
───が、真紀のする詠唱は成功。
愛香達の目の前で、真紀は───いや、真紀と契約を結んだ悪魔であるナーガは、真紀の肉体に憑依してその科学的根拠の無いものは否定される現代に姿を現したのだった。
今では顔も名前も思い出せないような友達?
妙だな...まるで、マスコット大先生が何か関与してそうだ。
……おっと、誰か来たようだ。
察しがいいから先に言っておく。明日の更新が無かったら俺は死んだことにしてくれ。