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6月11日 その⑭

 

 ───緊迫。


 開始1分ほどで、愛香と鈴華という女子の中のツートップとも呼べるような人物2人が殺し合う寸前までになり、チーム1の空間には緊張が走っていた。


 沈黙。


 静寂。


 森閑。


 鈴華は愛香に銃を突きつけたまま、愛香は足と手を組み椅子に座ったまま動かない。他の皆も、心の中では「愛香が死ねば外に出られる」などと思っているので、誰も口を開かない。


 ───ただ一人、負けず嫌いさでは負け無しの美玲を除いては。


「だあもう!2人共、そんなギスギスしないで!」

 そう言って、机に手を付き銃を愛香に突きつけていた鈴華を座席に戻す美玲。


「うるさいな、美玲。どうしてオレを止めた」

「そうだぞ、妾と鈴華は今熱いバトルを繰り広げていたというのに」

 熱いバトルなどと言っているが、銃を向けていた鈴華はともかく愛香は一発だけ銃弾の入った銃は机の上に置きっぱなしで手に取っていなかった。


「まあいい、今回は許してやるよ。静かにしてろよ」

「妾に銃を突きつけた貴様の愚行を妾は許さない。騒ぎ立てるなよ、猿」

「───このっ!」

「ストーップ!」

 鈴華が再度、銃を突きつけようとしたので美玲がどうにか制止する。愛香は、その姿をケラケラと笑いながら見ていた。


 不可避勝つ即死の銃弾であるのに、愛香はどこか余裕そうだった。それが、彼女の度胸なのだろう。彼女の図太い神経が、剛毛な心臓が愛香らしいと言えば愛香らしい。


 ───と、どうして美玲は鈴華と愛香の喧嘩を止めたのか。


 答えとしては、美玲が愛香や鈴華に「勝利」したいと思っているからだろう。

 美玲は、知っての通り負けず嫌いである。その真髄は、自らが2番手であれば、その試験を「受けていない」ことにして、結果を投げてしまうほどであった。


 ───そんな美玲が、帝国大学附属高校にやってきて手に入れたのは「敗北」だけであった。


 苦汁や辛酸を嘗め続けて、屈辱的な2ヶ月半を過ごしてきた美玲の心には、愛香や鈴華・皇斗のような、自分よりも天才である人物に勝利してみたいと考えていた。

 それこそが、彼女の持つ野心であり生きる目標であった。


 ───が、そんな生きる目標の一つが自分の目の前で潰えようとしていたのだ。


 だから、美玲はそれに抵抗するために声をあげて、愛香が銃殺されることを避けたのだった。誰かから恨みを買って呪殺されるのは防げないかもしれないが、目の前で行われる銃殺であれば美玲は防げる。


 彼女だって、決して弱いわけではないのだ。浅識非才な訳ではないのだ。

 才能を予め持って生まれる天才が努力をしたチートのような存在───それが、美玲であった。


 ───と、美玲がどんな思いで愛香のことを助けようと、当の愛香は「邪魔が入った」程度にしか思っていない。

 美玲に「助けられた」などとは微塵も思ってもいないようだった。


「美玲、ありがとう。止めてくれて」

 そうお礼を伝えるのは、奏汰であった。

「別に、時間も勿体ないしさ。話すなら有意義なものにしないと」

 美玲は、そう声をかける。


「だが、殺すってなったらどうすんだ?まさか、全員命乞いをしたりするのか?」

「いやいや、まさか」

「じゃあ、どうすんだ?」

「この中で自分以外で生きていて人を提案する。そして、2回目に誰にも名前を出されなかった人の中から一番生きていて欲しい人を提案する。そうすれば、必然的に一人に絞られるだろうからさ」

「───そうね」


 奏汰の提案は実に聡明だった。チーム2の序盤で、純介が指示した「死んで一番被害が少ないのは誰か」というものよりも「この中で一人選ぶとするなら誰か」の方が、仲間割れはしなくてすむだろう。


「マスコット代先生、意見を変えないようにするためにも紙が欲しいんですけど...貰えますか?」

「試験に対して真摯に取り組むその態度!!!私は、モーレツに感動しました!!!わかりました、紙を差し上げましょう!!!」

 代先生がそう言うと、奏汰達の目の前に現れたのはA4用紙の紙の束と、9人分のペンであった。


「これに、誰か一人を名前に書いてくれ。そして、順番に発表していこう」

 奏汰は、そう口にする。


「まずは、自分以外で一人助けたい人を書いてくれ。いないってのは無しだぞ。こじつけでもいいから理由を付けるんだ」

「妾もか?」

「愛香もだ」

「気安く名前を呼ぶな、愚民」

「気安く名前を呼んじゃってごめん」

 愛香と奏汰は、そんな会話を繰り広げる。


 ───そして、紙に名前を書いた者からその場に順々に伏せていった。


 最後に歌穂が書き終えたことで、全員準備は完了する。


「じゃあ...誰から発表していく?」

「───って、待って。質問」

「美玲、どうしたの?」

「全員、1票ずつになったらどうするの?」

「そしたら、理由が適当だった人2人で決選投票だよ」

「わかったわ」

「それじゃ、気を取り直して。誰から発表していく?」


「───じゃあ、オレからでいいかな?」

「お、わかりきってるけど拓人から時計回りで」


 ということで、発表の順番は拓人から時計回り───柏木拓人・秋元梨花・細田歌穂・竹原美玲・安土鈴華・田口真紀・結城奏汰・東堂真胡・森愛香の順番に決定したのだった。


「オレが一番生きていて欲しいのは、知っての通りだと思ってるけど恋人である梨花だ」

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] チーム1は意外と普通にデスゲームしてますね。 愛香は裏ルールに気付いてないのか? でも彼女ならすぐ気付く筈。 となると分かった上でゲームを進めているのか。 さてさて、これはこれで見物ですね…
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