6月11日 その⑬
───これは、たった今終了したチーム1の『友情の天秤』の全貌である。
「それでは、皆さん。それぞれのチーム番号が書かれてある扉に入ってください」
マスコット大先生のそんな言葉に従い、チーム1の秋元梨花・安土鈴華・柏木拓人・田口真紀・竹原美玲・東堂真胡・細田歌穂・森愛香・結城奏汰の9人は、「1」と書かれた扉の中へ素直に入っていく。
「さて、どんなゲームなのか───な?」
そう言って、拓人はルールに目を通す。そこには、以下の通りに書かれていた。
第一回試験デスゲーム『友情の天秤』
1.ゲームが行われる部屋には、ゲームの参加者の数だけ椅子と1発だけ弾の入った銃が与えられる。
2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない。
3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する。
4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する。
5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能。その場合は、銃弾を避けることも可能である(避けれるかどうかはその人の身体能力に依存する)
6.試験は、部屋を出た時を終了とする。
7.試験のポイントは、333点満点から6秒毎に1点ずつ減少する。
8.1998秒(33.3分)経った時点で部屋から出ていない人物は全員死亡する。
「───誰か一人が死なないと出られない部屋?」
「お前ら、熱くなれよぉ!!!!!」
「「「───ッ!」」」
「うるさいぞ、マスコット!」
拓人がルールに目を通し、この部屋にいる人物が誰か一人死なないと出られないと理解したと同時に、声を出したのはマスコット代先生であった。ちなみに、チーム3の部屋では、この時点で既にマスコット代先生は射殺されていてゲームは終了していた。
マスコット代先生の騒音に愛香は文句をいれるけれども、マスコット代先生はそれを無視する。
「ルールを見たら、早く席に座りなさい!君達9人で、誰が死ぬか話し合いなさい!」
マスコット代先生は、そう言って9人に着席を促す。その言葉に従い、愛香以外の8人は席に座るが───
”ガンガン”
愛香は、扉を蹴り破れないかと思案する。だが、その扉はビクともしない。扉が開くことはないのだった。
「───本当に、誰か一人が死なないと開かないようだな」
「そう言ってますよ、愛香さん!!!だから、君達9人で話し合って誰が犠牲になるのか話し合うんです!!!」
マスコット代先生を射殺すれば外に出れる───とわかってしまっている今、そんな簡単なことに気付けない愛香達を見ているとどこかもどかしい思いもあるが、栄達もあそこまで追い込まれないと気付かない限り、ルールの穴を見つけるというのはそれなりに難しいことだ。
「どうするの、拓人」
「大丈夫、梨花は殺させないよ」
梨花と拓人のカップルは、そんなことを言って窮地に陥っているような今でも、その愛を確認する。
「───ッチ、ラブラブするでない。どちらも殺すぞ」
「はぁ?何様のつもりよ!」
愛香が、2人のラブラブを馬鹿にすると梨花が、それに噛みつく。
「まぁまぁ、梨花。落ち着いて」
拓人がすぐに梨花を宥めたために、愛香が梨花に銃殺される───なんてゲーム開始から数秒で大事件が起こることはこれで一先ず収まった。
「んで、早く座ってくれると嬉しいな。話し合いもあるんだし?」
「それに妾が参加する意味はあるのか?」
「皆からの反感を買わない」
「おっと残念、妾の両親は油を売ってヘイトを買う会社の代表だ」
「愛香さん!!!お父さんとお母さんは頑張っているんですよ!!!そういうことを言ってはいけません!!!」
「黙っていろ、マスコット!」
学校の先生かのように発言を是正してくるマスコット代先生に、愛香は怒鳴る。
「全く、あの被り物を見ていると立っている気も無くなった」
そう言って、愛香は腕を組み足を組みながらその場に座った。
「───と、愛香も座ってくれたことだし誰を殺すか話し合いでも...する?」
「話し合いして何の意味がある?」
「どういうことだ?」
「最初から村人しかいない村で人狼を探すことに何の意味がある。ターンを飛ばすためには誰を殺そうが同じだ」
愛香の意見としては、どちらにせよ誰か一人が死亡しても変わらないというものだろう。孤高の愛香にとって、誰かを守ろう───などと思うような気持ちはないようだった。
「そんなに言うんなら、愛香。お前が死ねよ」
その言葉と同時に、愛香に向けて銃口を突きつけたのは鈴華であった。机に手を付き体を乗り出して、愛香の頬に銃口を近付ける。
「鈴華。貴様に妾を撃てるだけの度量はあるのか?」
「───」
愛香はそう言うと、足を組み直す。そして、銃口を突きつける鈴華の方をその双眸でジッと睨んだのだった。