6月11日 その⑪
───栄達が、『友情の天秤』を抜け出す時から少し時間は遡り。
などと、まるで物語の冒頭のように説明してしまったが、もっと時系列をこれから話す内容をわかりやすく言うのであれば「チーム3の『友情の天秤』の一部始終」であった。
チーム3に属しているのは、岩田時尚・宇佐見蒼・橘川陽斗・津田信夫・中村康太・成瀬蓮也・西村誠・森宮皇斗・渡邊裕翔の合計9人。
仲良し仲悪し男子9人組が息を呑んで扉の中に入っていく。
───そこから6秒後。既に、皇斗はマスコット代先生の射殺を終了し、脱出していた。
それは、一連の流れ作業。部屋に入り、1秒も満たずにルールを理解して、机の上に置いてあった銃の内の1つをマスコット代先生へ向けて発砲。死ぬことを───死ぬ瞬間を確認せずに、再度ドアノブを手にして脱出。
6秒にも満たない早業で、皇斗は出ていって3日目も満点を獲得。皇斗は昨日一昨日の結果を足して、合計999点満点を獲得。
天才は、いつまで経ってもどこまで行っても天才なのであった。
***
「───ってことがあったんだ...」
「それで、蓮也を殺せたのに───って康太が怒ってるのか...」
俺は、どうしてこんな舌鋒鋭く言い合っているのかを完全に蚊帳の外である時尚に話を聞いた。
───と、蓮也の起こした忘れ難い悪行を忘れている人がいるかもしれないので、少し振り返ろう。
その悪行は第4ゲーム『分離戦択』の3回戦『バッターナイフ』で引き起こされた。
その3回戦『バッターナイフ』に出ていたのは、俺達デスゲーム参加者側からは康太と奈緒が。敵である生徒会側からは蓮也が出ることになった。
8回裏、4球目にて生徒会側が俺達の中から選んだ出場者───蓮也が、奈緒に対してナイフを投げたのだった。
それにより、奈緒は瞬殺即死。蓮也は、友を殺した殺人犯。
自分が生き残るとはいえ、蓮也のその卑怯な手段はクラスメイトから非難轟々。
その中でも、正義感が強い康太の強い反感を買い、完全に「敵」として認知されていたのであった。
───と、話は現在に戻る。
康太は「蓮也を撃てば合法的に殺せた」と怒り、皇斗は「誰も死なないのが最善案だ」と口にしている。
お互いの意見が対立しており、口論が繰り広げられているのであった。
ちなみに、その言い合っている原因である蓮也はもう先に家に帰ってしまったようだった。自らの保身に関しては、察しが良いようだった。
───と、俺が時尚から現状を聴いている間に話が進んでいたようで、どうやら康太と皇斗はその拳を交わせるようだった。
「康太、無茶だ!皇斗には勝てない!」
「勝てないだぁ?やってみないとわからないだろ!」
一度皇斗にボコボコにされている裕翔は、康太では勝てないと、その戦闘を制止する。裕翔は、俺のことは敵視しているのだが、康太は仲間だと思っているようだった。だから、怪我をしないように助けようとしているのだろう。
だが、そんな制止も火に油を注ぐだけ。蓮也のことを───否、蓮也に殺された奈緒のことで色々思っているであろう康太は、奈緒の仇を取れないのだろう。
康太は、同じ試合に出ていたのに助けられなかった奈緒のことを悔やんでいたのだ。3回戦に───それどころか、第4ゲーム『分離戦択』にすら出場していない皇斗に何か言われては、怒りが収まらないのも仕方ないだろう。
「───皇斗、体育館に行くぞ。男同士殴り合いだ」
「受けて立とうではないか。負けて怪我して余を攻めたてる───などということをしないと約束してくれるのであればな」
「俺がそんなことをするようなやつに見えるのか?」
「見える」
「───野郎ッ!」
康太が、皇斗に殴りかかりそうになるも「まだ早いピョン」などと蒼にどうにか止められる。
「蓮也みたいに誰かを───クラスメイトを、仲間を殺したわけじゃないからお前に蓮也みたいな糾弾はしない。だが、死んだ奈緒を弔わないような不遜な態度は気に食わない!」
「別に余は、睦月奈緒の死を馬鹿にしてるわけではない。余は、蓮也を無理に殺さなくてもいいだろうと言ってるんだ。議論がズレているぞ、康太」
皇斗は、声色一つ変えずにそう口にした。
皇斗のその言葉には、嘘はないだろう。だが、その冷淡な冷酷な態度が、康太の矜持を馬鹿にしているかのように捉えられる。
───そして、そのまま2人は勝負の場である体育館へ到着した。
「蓮也を殺さなくてもいいってのも、正直に言えば理解はできてる。だが、納得はできねえ!」
「そうか。天才というものは難儀なものだな。理性と感情のせめぎ合いだ」
康太だって、チーム1も誰も死なずに出てきた場合、必ず蓮也が死亡することには気が付いていた。
だから、これから行われるのは康太が感情的になったがために行われる、ある意味純正な喧嘩であった。
「皇斗、お前は天才だ。その強さは知ってる。勝つのが無謀なことなのも知ってる。だが、俺だって正義はある。プライドはある。だから、手加減なんかしないでくれ」
「そんなこと百も承知だ。手加減したら、お前はまた怒るだろうからな」
───そして、康太と皇斗の喧嘩は幕を開けたのだった。