6月11日 その⑩
マスコット代先生に向けて、8つの銃弾が飛来する。
「───」
マスコット代先生は、その銃弾を避けることができない。それが、このゲームのルールであった。
3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する。
健吾と梨央は、マスコット代先生が死ぬところを見たくないのか目を瞑って伏せたまま銃をマスコット代先生の方へ銃口を向けていたし、俺達はマスコット代先生が撃たれることをその双眸で確認した。
「───誰か一人死ぬ必要があるなら、マスコット代先生。アナタが死んでくださいよ」
そう、このゲームのルールには「2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない」と書かれている。そして、俺達のゲーム会場にいるのは俺達8人の他にも、マスコット代先生がいたのだ。
そうなのであれば、マスコット代先生に向けて発砲してマスコット代先生を殺害しても、この部屋で「一人死んだ」という事実は変わらない。
だから、俺は俺達はその決断をしたのだった。
───そう、気付けるところは他にもあった。
今思えば「2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない」と「4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する」という「ゲーム会場の中で」と「デスゲームに参加している人物」などと書き変えているのはそれなりに不自然だし、デスゲームであるならばボタンを押せば死ぬ───みたいな方法でも良かったのだから、わざわざ銃を使う必要はないはずだった。
それなのに銃を用意したということは、マスコット代先生を殺す───という、全員生存するルートを残しておいたということだろう。それに、ゲームを監視するのであれば別に音声と監視カメラだけでも構わない。
わざわざマスコット代先生を用意することさえもおかしかったのだ。
他にも、俺達の会議にマスコット代先生が口を開いて来たのは、試合の妨害ではなくマスコット代先生もその権利を持っているから。
マスコット代先生も平等に死亡するという危険性を孕んだ状態でそこにいるのだから、俺達と同様に話ができる───ということだったのだろう。
「ありがとう、健吾。カップルにイチャイチャする権利は平等にあるって言う自分の言葉で閃けた」
何かをする権利は平等にあるのだ。話す権利も平等にあり、死ぬ可能性も平等にある。
「別に、オレは何もしてないよ。何もできなかった」
健吾は、そう口にする。
───と、その時扉が開いたかどうか確認しに行った紬が、こちらに笑みを見せた。
「皆、開いてる!」
紬は、笑みを浮かべてそう口にする。マスコット代先生を殺しても、本当に脱出できるようだった。
もしこれで出られなかったら、8人全員で発砲してしまったから全滅の可能性もあった。だから、扉が開いて本当によかった。
───と、どうして全員で発砲したのかと思う人もいるだろう。
実際、マスコット代先生を殺すためには1人が発砲するだけで問題なかった。だけど、俺はあえて全員でマスコット代先生を射殺することを提案した。
理由としては2つほどある。
1つ目としては、誰か一人に「マスコット代先生を殺した」という罪の気持ちを残さないためであった。
俺が責任を持って殺してもよかったんだが、稜を殴って後悔をしてしまった今の俺にそんなことはできない。
他の誰かに任せても、人を殺してしまったという気持ちが死ぬまで残るだろう。
そして、2つ目としてはマスコット代先生に仕返しするためであった。
マスコット代先生は───デスゲーム運営は、俺達の友情をこのゲームでズタボロにしようとした。
だから、俺達はそれをより強固になった友情で仕返ししたのだった。
───俺は、今回のゲームで考えを改めさせられた。
きっと、俺はこれから何度も壮絶な選択を迫られるだろう。もしかしたら、誰かの犠牲を引き換えに誰かを救うかもしれない。
だけど、俺はこの7人だけは確実に救おうと心に決めた。
───そんなことを思い、俺は第一回試験『友情の天秤』の行われた部屋を出ていく。
「さよなら、マスコット代先生。静かに眠れ」
部屋を出る時、俺はそう口にした。部屋を出るのは俺が最後だったので、俺はそのままマスコット代先生の斃れている部屋の扉を閉める。
パタリと音を立てて扉が閉まると、その扉は消えてしまう。
「───」
───チーム2 残り時間873秒 145点獲得
外に出た時、俺達はA棟の1階にいたようだった。どうしてここに出されたかはわからないが、俺達8人は教室に戻ることにした。
───と、教室で行われていたのだ。
「なんで...なんでわかってくれないんだよ!蓮也は奈緒を殺したんだぞ!どうして殺さなかったんだよ!」
「クラスメイトをわざわざ殺すよりも、マスコット代先生を殺した方が早いだろう。駆け引きも必要ないのだし」
教室で舌戦を繰り広げていたのは、俺達よりも先に『友情の天秤』をクリアしていた康太と皇斗の2人であった。