6月11日 その⑧
第一回試験デスゲーム『友情の天秤』
1.ゲームが行われる部屋には、ゲームの参加者の数だけ椅子と1発だけ弾の入った銃が与えられる。
2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない。
3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する。
4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する。
5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能。その場合は、銃弾を避けることも可能である(避けれるかどうかはその人の身体能力に依存する)
6.試験は、部屋を出た時を終了とする。
7.試験のポイントは、333点満点から6秒毎に1点ずつ減少する。
8.1998秒(33.3分)経った時点で部屋から出ていない人物は全員死亡する。
───俺が考えた作戦。
それは、この部屋で誰かを殺した後に、外で生き返らせる───という方法だった。
「どうかな?これなら、誰も死なない」
「だが、殺すまで殴ることはできるのか?」
そう、問題はそこだ。
俺達の力で、死ぬ死なないのギリギリまで───というか、誰かを一度殺してから生き返らせる程度に調整できるのかという話だった。
「僕は危険だと思う...もしできなかったら、それこそ銃で殺すのと同じ───いや、それ以上の後悔があると思う。そっちの方が幸せになれない」
純介は、そう口にする。
実際、純介の意見も正しかった。
殴った調整を間違えると、銃殺よりも苦痛が待っているだろう。
殴る力が弱く、時間制限ギリギリになってしまった場合は、散々殴った挙げ句に、その場で銃殺する事になってしまう。完全に、不必要な暴力になったことになり十分に胸糞悪い。
だが、問題は過剰に殴ってしまい外に出た後生き返ることができなかった場合だ。
中で殴り殺した感覚が腕に残り、発砲して殺害したときよりも「殺した」という感覚が体に残ってしまう。
それに、生死の境まで殴るなんて行為は俺達全員人生で初めて行う。だから、力加減が全くわかっていないまま行うのだった。
───が、生き残るためならばこのくらい必要だ。
「栄、俺はその作戦に賛成だ。それなら、死ぬ可能性は十分あるけれど全員生き残る可能性も存在してる」
稜はそう口にしてくれた。
「でも...」
「稜が賛成なら、オレも賛成だ。殴るのも殴られるのも真っ平だけどな」
健吾は、そう口にする。両手をヒラヒラと動かし、自らは傍観に徹することを宣言するけれどもそれでよかった。
「殴られるのは俺がやる。言い出しっぺは俺なんだ。責任は自分で取る」
「いや、栄は駄目だ。殴られるのは俺がやる。もし死んだとしても、男に二言はなかった───ってことにしてくれ」
「稜...」
俺は稜のその言葉に甘えて、稜が殴られる役、俺が殴る役───ということに決定した。
「それじゃ、栄。思いっきり殴ってくれ。もう既に時間は1/3も過ぎてしまった」
稜の言う通り、扉の上に表示されているタイムリミットには「192」と表示されていた。6秒で1つずつ小さくなるタイマーであるから、もう残りは1152秒と、20分も残っていないのだった。
「───じゃあ、行くぞ」
「応、遠慮はいらない」
お互いに頷くと、俺は稜の腹部をぶん殴る。
良い気持ちはしない。手に残るのは、友人を殴ってしまったという嫌な感覚だけであった。
「───ごめん、稜」
「謝るなよ、栄。全員で生き残るんだろ?」
「あぁ」
俺は再度、稜の腹部を殴る。稜の体の中から内臓が悲鳴をあげるような音が聞こえた。
3発目、稜の目が見開かれて口から胃液のようなものが溢れそうになる。
4発目、稜がその場に立っていられなくなりその場に膝を付いてしまう。
5発目、稜の口から血が垂れて腹部は既に赤くなっていた。
「───稜...ごめん」
「栄、だから謝るなって。俺も悪いことをしたような気に───」
「ごめん、俺はもう稜のことを殴れない」
「───ッ!」
俺は、稜にそう告げる。
辛そうな稜を見て、俺は既に限界だった。
───殴られる稜の方が痛いはずなのに、俺も痛くなっていた。
「栄」
「ごめん...ごめん、俺にはもう無理だ。殴れない...」
俺は、稜にそう伝える。これ以上、俺は稜を殴れない。これ以上、辛い思いをさせたくない。
「なんでだよ、栄。皆で生き残るんじゃ...」
「辛い思いをするんじゃ、意味がないだろ。見てみろよ、周りを」
俺の言葉に従い、稜は腹部を庇うように膝立ちをしながらあたりを見回す。
「誰も笑っていない」
誰一人、笑っていない。
純介は俺達から目を逸らし、健吾や梨央は耳を塞いで目を瞑って。紬は怖がって丸くなっていた。誰一人として、笑っていなかった。
「稜、俺達には無理だ...誰も、稜のことを殺せない...」
「───」
これは違う。この作戦は違う。
これ以上やっても無駄になるし、誰も幸せにはならない。俺は、殴る手を止める。
「なんで...なんでだよ!栄、おい!これは栄が考えた作戦だろ!」
「ごめん、稜。痛い思いをさせたよな。俺はもう殴れない...ごめん!」
俺は、稜にそう伝える。きっと、誰かを殺すにも俺はその引き金を引けない。
───本当に、俺は弱い。
「ごめん、ごめんなぁ...稜」
俺は、稜に謝罪をすることしかできない。この状況で一番痛いのは、一番辛いのは稜なはずだ。
───が、俺はそんな稜よりも先に弱音を吐いてしまう。
俺はこれ以上稜を殴れないし、他の6人だって誰も稜を殴れるような人はいないだろう。稜だって、反撃として俺達を殴ろうとはしない。そもそも、心優しい稜はそんなことできなかった。
「栄...」
「やめましょう、この作戦は」
美緒が、弱々しくそう声を出す。
───俺の考えた作戦は、こうして失敗に終わった。
また、俺達の議論というものは振り出しに戻ってしまったのだった。