6月11日 その⑥
第一回試験デスゲーム『友情の天秤』
1.ゲームが行われる部屋には、ゲームの参加者の数だけ椅子と1発だけ弾の入った銃が与えられる。
2.ゲーム会場の中で、誰か一人が死亡しないと抜け出すことはできない。
3.誰も死亡していない状態で銃弾を放つと、発砲した人物が自分を除く人物に「当たれ」と心の中で思うや口に出す等をすると、その人に命中する。避けることはできないし、銃弾が当たった人物は例外なく即死する。
4.何も考えずに、無作為に発砲した場合はデスゲームに参加している人物の中から一人、ランダムに射殺される人が選ばれる。その場合、銃弾は不自然に空中を周回する。
5.誰かが死亡してから5秒以内は、発砲可能。その場合は、銃弾を避けることも可能である(避けれるかどうかはその人の身体能力に依存する)
6.試験は、部屋を出た時を終了とする。
7.試験のポイントは、333点満点から6秒毎に1点ずつ減少する。
8.1998秒(33.3分)経った時点で部屋から出ていない人物は全員死亡する。
「誰が死ぬのか話し合うくらいなら、俺が死ぬ」
「───え」
稜のそんな宣言で、俺達は全員が言葉を飲み込む。完全に想定外だった。
稜のその言葉は、その自殺願望───否、自己犠牲精神は完全に蚊帳の外だった。
だが、入ってきた。乱入してきた。闖入してきた。介入してきた。
これまでの思考を躊躇を逡巡を吹き飛ばし掻き消し燃やし尽くすような、そんな宣言は俺達の脳内で構築されていた未来を大きく揺れ動かした。
「どうして...」
「どうしてもこうしてもない。俺は...俺は誰も殺せない。嫌いなやつや悪いやつならともかく、皆は大切な仲間だし、良いやつだ。だから、俺は誰も殺せない!誰にも死んでほしくない!」
稜は、そう言葉を───自己犠牲精神を吐き捨てる。
思えば、稜は最初からそんな自己犠牲精神の───正義感の強い少年だった。
第1ゲーム『クエスチョンジェンガ』でも、第3ゲーム『パートナーガター』でも、第4ゲーム『分離戦択』でも───これまで関わってきたほぼ全てのゲームで稜はその正義感を披露してきた。
だから、彼は俺達がこうして争うことに嫌気が差していたのだ。
彼の正義感と自己犠牲精神は同一のもの。だから、稜は今回「自分が死ぬ」ことで自分の正義を、俺達を守ろうとしていたのだった。
「稜が死んじゃうじゃない!それは...それはどうするの」
「仕方ないよ。結局、誰かは死ぬんだ」
そう言って、稜は俺を見る。それに続き智恵を、紬を、純介を、健吾を、美緒を───そして最後に美緒を見る。
「───俺は、皆を失いたくない。辛い思いをさせたくない。だから...俺が死ぬ」
稜のその正義感を、俺は否定することができない。
───きっと、もしこのデスゲームを安全なところから見ているような人は「稜が死んで悲しむ人がいる」などと言う人がいるだろう。
もしこれが、友情・努力・勝利の三本柱でお金を稼いでいるジャンプであるならば、稜のことを大切に思っている人物がそう言葉を投げかけるだろう。
自己犠牲精神に駆られるということは、誰かを救うと同時に誰かを悲しませるのと同じ。だから「稜が死んだら悲しむ人がいる」というのは事実だ。
───が、誰もそんなことを口にしない。
これは週刊少年ジャンプじゃない。紛れもない現実だ。靫蔓は漫画だ、マスコット大先生は小説だ、と好き勝手言っているけれども、俺にとってこれはたった唯一の現実だ。
俺はマスコット大先生のように───池本朗のように原因不明の能力で、摩訶不思議な四次元パワーで増殖できるわけではない。
だから、自分のことが大事なのだ。
───ここで稜が死ねば、俺達はこの部屋から出ることができる。
もちろん、先程行った消去法で稜は必要だとなった。
だが、先程の消去法は「誰が必要最小限の被害なのか」というもとでの考えなのである。その「必要最小限の被害」の中には「その人を殺して生まれるギスギス」というものも考慮された上での結果である。
このデスゲームで同じ部屋になったばかりに、友情崩壊人格崩壊キャラ崩壊と、全てが壊れてもおかしくない。
だから、稜が自ら死を選んでくれる───というのは、俺達にとって都合のいいことだった。
「───あれれ〜?池本栄君。何か言いたいことがあるんじゃないですか?」
「───は」
マスコット代先生が、俺達から手が届かない数メートル高い場所からそう声をかけてくる。体を乗り出し、ニタニタと被り物の口角をあげながらその顔を俺達に見せてきた。
「───池本栄君。いつもの正義感で{稜が死んだら悲しむ人がいる}だとか言わないんですか?」
「───ッ!」
「俺が死んだら悲しむ人が...」
マスコット代先生の乱入により、稜の発言によって壊された場がもう一度壊された。
言ってしまえば、このまま稜が死ねば俺達は生き残ることができたのに、稜にそんな言葉を投げかけてしまったせいで稜の考えを揺れ動かしてしまった。
「山田稜君♡アナタが死んだら皆、悲しみますよ。ほら、聴いて上げてくださいよ。あなたの口で」
「───悲しむ...のか?俺が死んだら、皆は悲しむのか?」
マスコット代先生の闖入は止まらない。最低最悪の妨害。
「なぁ、栄。栄は、俺が死んだら...悲しむのか?」
稜は、俺にそう問いかける。
「あぁ...悲しむ。悲しむよ!でも...誰かが死ぬしかないんだ。誰が死んでも悲しむのは同じ」
「え〜、本当ですかー?でも、さっきの熟考では誰が死ねばいいかって考えてましたし、山田稜君が自分を殺すって選んだ時、すごく安心してたじゃないですか♡」
「違う!黙ってろ、マスコット!」
俺は、声を張り上げる。でも、マスコット代先生の言っていることは半分正解だった。
「栄...」
「マスコット代先生の言葉は信じるな。アイツは悪魔だ、人じゃない」
俺は、稜にそう伝える。稜は、その頬を引き攣らせて小さく笑みを浮かべていた。
───と、その時。俺の発言に、何か物申したいことがあったのだろう。マスコット大先生はこう口を開く。
「残念ですね、池本栄君。私は悪魔なんかじゃありませんよ」
それは、いつかのフラッシュバック。マスコット先生は、俺の言葉を否定してからこう続ける。
「───私は、人間ですよ。そしてアナタも、人間です」