6月11日 その⑤
───誰が死ぬのが一番被害が少ないと思う?
純介のその疑問に、俺はすぐには答えられない。俺は、脳みそを回して思案する。
何が最適か。誰を殺すのが最適解か。
俺は「友達だから」とか「仲間だから」とか言う理由を全て捨てきって己の率直且つ最低な感想だけで逡巡する。
俺は───死にたくない。
死なないために俺は斯くも思案をし続けている。だから、自分だけは殺すことができない。
ならば、智恵は?
智恵も嫌だ。俺にとって、智恵は大切だ。俺の命よりも大切だ。
智恵は俺のことを信用して俺にその凄惨な過去を離してくれた。その過去を聞いた俺は、これ以上智恵を傷付けたくないと思ったし、実際に傷付けちゃ行けなかった。
それに、もう俺は智恵がいないと生きていけない。それほどまでに俺は智恵のことを愛していた。
智恵も、俺にとっては必要だ。殺すべきではない。
───次は稜。
これまで第3ゲーム『パートナーガター』だったり第4ゲーム『分離戦択』2回戦『パラジクロロ間欠泉』だったりラストバトル『ジ・エンド』だったりと様々なところでタッグを組み共闘してきた。
ラストバトルでは、稜がいなければ勝利を掴むことはできなかっただろう。
この学校で一番最初に出会い話しかけてくれた稜のことを見捨てるわけにはいかない。
純介。
怖いくらい冷静で、気が利く悪魔的な運を持つ純介。
でも、彼がいなければ第4ゲーム『分離戦択』は俺と誠の2人が靫蔓と戦うことなどせず敗北してしまっていただろう。
それに、ラストバトル『ジ・エンド』が行われている最中、深海ヶ原牡丹という第3回デスゲームの生徒会メンバーと『モールスしりとり』というゲームをして勝利していたらしかった。
深海ヶ原牡丹という女性がラストバトルに来ていたことさえ、ラストバトルを終了した後に純介から聴いたのだけれども知らないところで敵の戦力を削いでくれていたようだった。
運動こそ苦手な純介だけど、俺達の参謀としては必要なメンバーであるだろう。
───残る男子陣の1人は、健吾であった。
俺達4人の中では、一番活躍が少ないだろう健吾だけど、彼も一応第4ゲーム『分離戦択』にて純介と共に松阪マリンから勝利を勝ち取っていた。
それに、男手はもし殴り合いが勃発した時に純粋に戦力になるだろうし、健吾はムードメーカーとして必要だ。だから、殺すのは惜しい。
そう考えると、美緒・梨央・紬の3人に絞られてきてしまう。
きっとここで美緒が死んでしまえば、彼氏である健吾も後を追ってしまうだろう。俺が智恵を溺愛しているように、健吾も美緒に心酔している。
それに、美緒には第2ゲーム『スクールダウト』で助けてくれた御恩もあるし、それを忘れてはいけないだろう。
そうなると、梨央か紬。
紬に関しては、これまで大きな活躍はないだろうし運動も勉強も一般高校生と言う意味での「平凡」であった。一般高校生の女子だけで見ると、紬の運動能力は中の上くらいだろうか。
一方、梨央は握力が皆無───と言っていい。
そのことに関しては、今回の第一回試験の運動試験や筆記試験だったり、第5ゲーム予戦『投球困窮四面楚歌』本戦『キャッチ・ザ・リスク』でわかっていたことだった。
実際、昨日のペンを持った状態で指に固定してどうにか試験を受けていたし、彼女を捨て駒にしてしまっても問題はないかもしれなかった。
───が、本当にそれでいいのだろうか。
もしここで梨央を殺してしまって、何か困ることはないだろうか。
───そう、俺は知っていた。
稜は、梨央に恋している。まだ、告白こそしていないものの梨央に恋しているのはすぐに見て取れた。
であるからこそ、ここで梨央を殺すのが正しいかどうか考えてしまう。
ここで一斉に票を取るのであれば恨まれるだろう。きっと、友情は崩壊してしまう。
が、ここで別の人に上げても似たようなことは起こりそうだった。
───だとすれば、梨央に票を入れるのが結局のところ最善策だろうか。
「皆、決まったかい?」
純介は、俺達にそう声をかけてくる。ひどく落ち着いたその声は、逆に落ち着きが感じられない。
それはともかく、皆が純介の言葉に恐る恐る首を小さく縦に振る。
「じゃあ...票を取るよ?死ぬのが一番被害が少ないと思うのは誰かという質問への票を」
「───待ってくれ」
「───ん、まだ決まってない?」
純介の投票に待ったをかけるのは、稜であった。
まだ、稜は誰に投票するのか決まっていないようだった。でも確かに、梨央を好きでいる以上投票する人物は決めづらいだろう。
「───この沈黙の間、ずっと考えてたんだ。ここで誰が死ぬのかを押し付け合って醜く罵りあっては、生き延びても誰も幸せになれないって」
稜は、そう口にする。その発言が意味するものは───
「───誰が死ぬのか話し合うくらいなら、俺が死ぬ」
誰もが意図しなかった、稜の「自分が死ぬ」という宣言。それは、これまでの俺の思案を吹き飛ばすと同時に、また新たな躊躇を生むことになったのだった。
───まだまだ、自分可愛さと友情を乗せた天秤は揺れ動いていた。